第10話

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「……ない。順平にもらったピアスがない」


 アパートに帰ってきて、お風呂が沸くまでの間に夕飯の準備をしていたあたしは、下ごしらえをし終わってバスルームの鏡の前でそのことに気が付いた。

 右耳のピアスを外して、左耳のピアスも外そうと手を耳たぶへと移動させたけど、そこに何も引っ掛からなくて、慌てて鏡を覗き込んで確かめる。

 左耳には何も付いていない。順平がプレゼントしてくれたピアスがなくなっていた。


 去年の誕生日にプレゼントしてもらった、ゴールドのハートに小さなパールのくっ付いたピアス。決して高い物じゃないけど、見た瞬間に可愛いと思った。


『わぁ、可愛い』

『へぇ、まどかってこういうのが好きなんだ』


 あたしがピアスに食い付いて見ていると、順平がピアスを手に取ってあたしの耳元に近づけて眺める。


『うん、まどかに似合う。可愛い』


 そう言って笑う順平の笑顔に、あたしはますます順平のことを好きになってしまった。

 その日はまだ順平とはちゃんと付き合っていなくて、二人で会うのはもう何度目かだった。大学終わりに立ち寄ったハンドメイドのお店で、一点ものだったピアス。その時は気になりつつも買わずにお店を後にした。

 何回ものデートを重ねて、手を繋いで、でもまだ恥ずかしくて。あたしの中の順平に対する〝好き〟がどんどん膨らんでいった。

 そうして積み重ねてきた日々。あたしの誕生日に順平は告白してくれた。


『まどか、誕生日おめでとう。これからもずっと、まどかと一緒にいたいんだけどいい? 好きだよ、まどか』


 家まで送ってくれて、アパートの前で順平に言ってもらえて、思わず涙が流れてしまうほどに嬉しくて。差し出されたプレゼントに、ますます泣いてしまうんだ。

 小さな箱を開けてみると、そこにはあたしが〝可愛い〟と言ったあのピアスがあって、驚いたあたしは順平に視線を上げた瞬間、強く抱きしめられた。

 心地のいいドキドキする胸。見つめ合うと、髪を撫でられ、頬に触れられて、唇に指が触れて、順平の近づく顔にゆっくりと目を閉じた。

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