第13話

 やっぱり、成海くんって軽い。あの約束、やっぱり無かったことにしてもいいかな……

 あの時はなんか、流れでそうなってしまったような気もするし、順平とちゃんと話も出来ていないのに、他の男の人と連絡交換とか、なんか、違う気がする。


「……あ、あの、成海くん」

「ん?」

「やっぱり、あたし大丈夫だよ。成海くんと友達にならなくても、大丈夫」


 あんまり、こうやって接触していると、もしかしたら順平に誤解されちゃうかもしれない。別れてすぐに違う男の人と一緒にいるとか、あり得ない。

 あたし、やっぱりどうかしてたんだ。


「ごめんね、じゃあね」

「え! ちょっ……」


 ベンチから立ち上がった成海くんが伸ばした腕から逃れて、走り去った。

 あたしも、ちゃんとしなくちゃ。

 授業にこっそりと戻ると、早夕里が「おかえり」と微笑んでくれた。

 順平からは昨日のメッセージに返信がなくて、授業を終えたあたしは思い切ってもう一度メッセージを送ってみた。

『順平が予定空いてる時で良いから、話したい』

 ああ、どう思われているんだろう。

 このまま返信がないままだったら、諦めなきゃ無いのかな。なんで、あんなメッセージ送ってきたりしたんだ、順平は。もうなんとも想っていないのなら、なんのアクションも起こしてこないでほしい。

『今日、バイト終わってからでもいい?』

 あたしの願いも虚しく、順平からの返信が来てしまって、嬉しさ半分、不安半分。それに答えたあたしはスマホを握りしめて立ち上がった。


「あ、まどか今日十九時に迎え行くからね、準備しといて」


 早夕里が振り返りながらそう言って出て行こうとするから、あたしは慌てて引き止めた。


「え⁉︎ なんの話?」

「さっき話したじゃん。飲みに行くの。もう向こうには言ってあるから! とりあえずまた後で詳しく連絡するね」

「えー……全然聞いてなかったんだけど」


 すでに早夕里の姿はなくなっていて、あたしは仕方なく一旦帰ることにした。

 順平がバイトしているのは、昔ながらの中華屋さん。店主と奥さんで切り盛りしていて、夕方から夜は会社帰りの人や大学生で賑やかになる。あたしも、一度連れて行ってもらったことがあった。あの夫婦にも、「彼女です」ってちゃんと紹介してくれたのにな。

 あの時食べた中華そばが、今まで食べたどれよりも美味しいと感じたのは、あたしの気持ちがあの時絶頂だったからだと思う。

 順平のバイト終わるのって何時かな。

 いつも遅くなるから、休みの前の日は、そのままあたしのアパートまで来てくれて、泊まっていた。もしかして、今日もアパートまで来るのかな?


 いつもなら、当たり前のように順平の好きな少しだけ高い梅酒を用意して、軽くつまみになるような物を作って、早く帰って来ないかと待ち侘びているはずだった。絵里子とあんなことになった順平を、部屋に上げても良いのかな。

 そんなことを悶々と考えていたあたしは、前方から騒がしい声が聞こえてくるのに気が付いて、そちらに視線を送った。

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