第27話

 落としたままのバックと鍵を拾うためにしゃがみ込むと、そのまま膝を抱えて泣いた。


「泣きたくなったら、俺のこと呼んでって言ったのになー」


 呆れる様に、でも優しい声が落っこちてくる。姿は見えないけど、成海くんの声だ。

 あたし、また酷い顔してる。

 顔を上げないでいると、隣に成海くんがしゃがみこむ気配を感じた。


「コーヒー飲み終わって帰ろうしたんだけど、まどかちゃんの悲痛な叫びが聞こえてきて、帰れなくなった。で、来たらこれだし。放っとけないんだけど、また俺んちに連れてってもいい?」


 やだ。今はもう、一人になりたい。もう、誰とも話したくない。泣いて、泣いて、気の済むまで泣いたら、きっと順平のことは忘れられる。だから、もう、放っておいてほしい。

 一人で、ちゃんと終わらせられる。順平のことなんて、忘れられる。


「これ、まどかちゃんのだよね?」


 そう言われて、あたしは思わず顔を上げてしまう。

 涙でぐじゃぐじゃな顔を成海くんに見られるのは、もう何度目だろう。

 目線は合わないように下を見たまま、あたしは成海くんの差し出した掌を見た。


「……それ……」


 そこにあったのは、無くしたはずの順平から貰ったピアス。

 良かった。成海くんが持っていてくれたんだ。嬉しい。もう見つからないと諦めていた。

 あたしが受け取ろうと手を伸ばすと、成海くんはその手を握りしめて、コートのポケットに入れてしまった。


「……成海くん?」

「このまま、まどかちゃんのこと一人にしたら、俺が後悔する。あいつのこと想ってずっと泣くんでしょ? そんなの放っとけない」


 そう言うと、あたしの手を引っ張って立たせる。成海くんが歩き出すから、あたしは戸惑いつつもそれに着いて行くしかない。

 いつも強引なのに、繋がれた手が優しくて、あたしはいつもそんな成海くんの手を、無理に解こうとは思わなくて、気が付いたらそのペースにハマってしまっている。


 一人でいたかった。一人で泣いていたかった。一人で考えたかった……

 やだ。やっぱり、一人でいるのは嫌だ。辛いだけだ。泣いて自問自答を繰り返して、答えが見えない、吐き出す場所もない、好きだと思って泣いていても、その想いはもう届かない。ただひたすらに泣くしかない。それって、辛い以外にない。


 成海くんの手がこんなにあったかいのは、何でだろう。いつもあたしを救ってくれる優しさは、何でだろう。それすらもう、わからない。

 もう、どうしたらいいのかなんて、考えるのも、辛い。

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