第26話
順平は今どんな表情をしているんだろう。
申し訳なく眉を下げているのか、もしかしたらこんな取り乱したあたしに、呆れているのかもしれない。
そうは思っても、拭っても拭っても涙は止まらなくて、順平は何も言ってくれなくて。
「……別れたくない……って、言ったら?」
そんなことを言ってしまっていた。
長い沈黙が続いて、あたしのしゃっくりだけが小さく響く。
「……順平が大好きなんだよ? 順平は、最初からあたしのこと……好きじゃなかったの?」
出逢ったのは、あたしと絵里子、同時だった。
大学に入って最初の集まり。そこに、順平はいた。連絡先を交換したのも、あたしだけじゃなく絵里子もだった。だけど、その後に順平の彼女になれたのは、あたしだった。
「好きだったよ。ちゃんとまどかのこと大事に思ってた」
「……だったら……」
「でも、あいつ一人じゃなんも出来ないんだもん。いつも俺のこと頼ってくれて、甘えてくるし、なんか、放っとけなくなっちゃって……まどかは何でも出来るし、俺の方がいっつもまどかを頼っちゃってたし……だから、まどかは大丈夫だろうって……思って……だから、ほんと、絵里子とはこれからもずっと……」
「無理だよ!!」
やっと話しはじめた順平が止まらずにあたしの望まない言葉を並べるから、気が付いたら聞きたくなくて叫んでいた。
「もう、いい! もう、無理だよ! 二人とも、もう二度と顔も見たくないっ……帰って……」
俯いて震えるあたしに、順平は差し出した手を直前で握りしめて引き戻すと、静かに「ごめん」と謝って、行ってしまった。
差し出してくれた手を、引き止めたかった。
絶対に別れたくない。順平はあたしの彼氏だ。こんなに好きなのに、抱き締めても抱き締め返してくれなかった。
去っていく順平の背中を引き留めたい衝動を抑える為に、ギュッと両手をキツく握りしめて震わせていた。
……終わっちゃった。
これでもう、本当にあたしは順平を忘れなくちゃいけない。
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