第33話

「え、あー……なんか最近ママが男連れ込んでんだよね。家ん中居たくなくて」


 目線をずらしながら、早夕里が落ち込むように言うのを聞いて、あたしは驚く。

 今まで、早夕里の家庭の事情なんて聞いたことがなかったから。彼氏は常に途切れることなく居て、飲み会は常習。たまに家に帰ってるのかな? と不安になることもあったけど、早夕里はいつも元気で明るいから、悩んでいるとかそんな風に見えたことはなかった。


「うちのママだらし無くって。ママの浮気のせいでパパと別れてから、それに拍車かかっちゃってさ。最近特にひどいんだ。今日も帰ったらすでに男の靴あったし。だから、帰りたくなかったの。あー、まどかには聞かれたくなかったなぁ。こんな友達嫌でしょ?」


 そう話してから、早夕里は眉を下げて無理矢理に笑顔を作るから、あたしまで泣きたくなってしまって、首を横に振った。


「嫌なわけない。早夕里のこと、あたし大好きだもん」

「……まどか……うぅ、あたし、もうまどかと付き合う」


 ついに涙を流してしまう早夕里に困ってしまうと、隣にいた成海くんが早夕里の頭にそっと手を伸ばした。俯いたサラサラのストレートの髪を撫でている。


「ごめん、話してくれてありがと」


 早夕里は顔を上げて、泣いていた目をぱっちりと見開いて成海くんを見つめる。

 そんな二人を眺めていると、あたしは早夕里に微笑む成海くんの横顔が目に入った。

 成海くんは、誰にでも優しいんだ。

 誰にでも、そうやって、優しく出来る人なんだ。

 少しだけ、あたしの胸の奥の方でチクリと何かが引っかかる。

 『まどかちゃんは特別』

 さっき言われた言葉を思い出して、あの時に少しだけ優位に感じてしまっていた自分がいた事に、呆れてしまう。

 成海くんは、誰にでも同じ。だから、モテるし、噂が絶えることがないんだ。


「片瀬成海……やっぱカッコいい」


 ボソリと早夕里がつぶやいた。


「ハマる子の気持ち分かるわー。まぁ、でも、あたしはハマってやんないけどねっ!」


 強気に涙を拭いた早夕里は、近くに置いてあったボードゲームを発見して手に取った。


「わー! 懐かしいっ、これやろっ真舞くんっ」


 テーブルの上にドンと置いて、中身を取り出し始めた早夕里に、あたしと成海くん、真舞くんは笑いながら準備を手伝う。四人で仲良くボートゲームが始まった。

 外は、夜の闇から朝焼けのグラデーション。濃い朝日が徐々に昇り始めていた。

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