第17話

 一旦成海くんとは分かれて家に帰ったあたしは、部屋のクッションに座り込むと丸いローテーブルに突っ伏した。

 成海くんが何を考えているのかよく分からない。あたしがいつまでもウジウジしているから、元気付けてくれようとしているんだろうけど、そこまでする意味がわからない。

 そして、あたしのことを知っていた成海くん。

『まどかちゃん、順平と一緒にいる時さ、すっごく良い顔で笑ってるんだよね』

 あれって、あたしが順平と一緒にいる所を見ていたって事だよね。全然知らない。あたしは、成海くんの存在なんて全然知らなかった。

 そんなことを考えていると、スマホが鳴る。着信は、早夕里。


「はい」

『あ、まどか! 今送ってくれた地図見たらさ、この前あたしが行ったバーの場所と同じだったの‼︎ さっきの誰かすっごい気になるんだけど! まさか! まどかあのバーテンと知り合いなの⁉︎ でも、なんか声とか喋り方が違うような気がしたし、誰⁉︎  誰⁉︎  だーれー‼︎』


 思わずスマホを耳から離してしまう。

 あたしは苦笑いしつつ、テーブルの上にスマホを置いてスピーカーに切り替えた。ケトルに沸かしていたお湯で、マグカップにインスタントのコーヒーを入れてお湯を注ぐ。


「……成海くんだよ」


 戻ってきてスマホの横にマグカップを置きながら、あたしは座り直して答えた。


『は⁉︎』

「……さっきの電話の人は、成海くん」

『また一緒にいたの? ってか、まどかだいぶ気に入られてんじゃん』

「え⁉︎」

『さっき、華が泣きながら電話してきたからどうしたのかと思ったら、片瀬成海にフラれたって』


 早夕里が言う、華という女の子の名前にあたしはすぐ様先程の光景を思い出した。成海くんを平手打ちした子だ。

 早夕里には見えていないけど、たぶん今のあたしは顔面蒼白だろう。自分で血の気が引くのがわかった。


『華、だいぶ片瀬成海に尽くしてたからなぁ。上手くいってたと思ってたのに。可哀想だけど、やっぱ遊ばれてたんだね。だから、まどかも気を付けなよー! すぐそばにいい例がいるんだから、あたしは忠告しとくからね!』

「……あ、あたしは、まだ順平のこと好きだし、成海くんはほんといい友達だよ」

『……そっか、まぁ、いっか。まどかはたぶん大丈夫だよね。それより! あのバーを指定してくるって、片瀬成海はあのバーテンと知り合いなのかな⁉︎ あたしそっちの方が気になるんだけど! とにかく、時間なったら会おうね! あたしめっちゃ気合い入れよ! 片瀬成海ってのがちょっと不安だけどまどかに感謝! じゃねっ』


 嵐の様に通話が終了するから、あたしはシンっとなった部屋にほわほわと舞い上がるコーヒーの湯気を眺めつつ、フーッフーッと冷ましながら一口飲んだ。

 湯気の先に、またしても順平を思い出してしまう。

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