Slowly but surely.〜ゆっくりと、でも確実に〜

佐々森りろ

プロローグ


「俺が、忘れさせてあげるから」


 そう言った男は、動けなくなって立ち尽くしていたあたしの手を取ると、前へ進み出した。涙で視界が歪む中、その人が誰なのかも、なんで手を引かれているのかも、分からずに歩いた。

 ただ、繋がれた手の温もりが優しくて、止まらない涙を流しながらも、その手を離そうとは思わなかった。

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