第22話

「真舞いらっしゃい」

「お疲れ様です。マスターすみません、今日はお客として」

「成海くんに聞いているよ。いつも真舞くんには感謝だよ。たまには僕にも接待させてね。ゆっくりしていって」

「ありがとうございます」


 バーカウンターでグラスを磨くマスターに声をかけられて、真舞くんは挨拶を済ますと「こっち」と言いながら、奥のソファー席へと案内してくれた。


「座ってて」


 店内は小さな入り口から想像するより意外に広くて、カウンターに六席、テーブル席が二つに、一番奥にソファー席が一つ。

 登り階段があって上にも席があるようだけど、階段には【KEEP OUT】とチェーンがかけられている。その二階で色とりどりにキラキラと光っているのは、クリスマスツリー。


「わあ、きれい。先週はハロウィンのカボチャだったのに」

「もうクリスマスかぁ」


 上を見上げたあたしと早夕里は、そんなクリスマスツリーに見惚れる。マスターが微笑みながら、順序よく並べられたいろんな種類のチーズとハムのお皿をテーブルに置いてくれた。


「昨日、真舞くんと飾りつけしたんだよ。男二人で作ったからね……女の子から見ても変じゃなきゃ良いんだけど」

「すっごく綺麗です! 真舞くんセンスあるっ」


 早夕里が戻ってきた真舞くんにそう言って近付く。

 明らかにその距離から離れようと引いている真舞くんのことなど、早夕里はお構いなしで隣同士に座ると、真舞くんが持ってきてくれたお酒を手に取って眺めた。


「これって……」

「……この前来た時に、気に入ってくれてたやつ、俺が今作ってきた」

「え……嬉しいんだけど」


 ますます近付く早夕里に、苦笑いの真舞くんは、見下ろす早夕里の胸元を見ないようにかひたすらに成海くんを見つめている。


「真舞って、そう言うとこすごいよね」

「何が?」

「いや、無自覚で優しくできるって才能だよ」


 成海くんの言葉に首を傾げる真舞くんに、早夕里は「可愛いっ」とついに抱きついてしまっている。カチコチに固まった真舞くんは、もはや大きなクマのぬいぐるみにしか見えない。

 早夕里、まだ酔ってないよね? 心配になりつつも、成海くんは当たり前のようにあたしと並んで座った。


「まどかちゃんはお酒強い?」

「えーっと、そこまでじゃない。って言うか、こう言うとこに来ること自体初めてで……」


 そわそわとお店を見回すあたしに、微笑む成海くんの笑顔がやけに大人びて見えるのは、慣れない雰囲気とこの薄暗い照明のせいかもしれない。


「じゃあ、真舞のおまかせにしよっか」


 ニコッと笑った成海くんに思わずドキドキしてしまう。

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