第15話

「まどかちゃんそれ、何持ってたの?」


 歩きながら、成海くんがこちらに顔を傾けて聞いてくる。


「え?」


 持っているものといえば、さっき寒くて買った微糖コーヒーの缶。


「……コーヒー?」

「いいね、俺も買おっ」


 校内へと戻った成海くんは、自販機前で立ち止まると悩むように顎に手を置く。


「やっぱ、無糖かー?」

「……な、成海くん……」

「んー?」

「……もう、離してもいいんじゃない、かな?」


 繋がれたポケットの中の手を見つめる。

 離そうと引っ張ってみるが、握られた成海くんの手は離してくれない。


「やっぱ微糖にしよっ」


 あたしの話、聞いてたかな?

 成海くんはもう片方のポケットから小銭を取り出して入れると、微糖のコーヒーのボタンを押した。

 ガコンッと落ちてきたのを確認して、あたしごと一緒に斜めになると、成海くんは取り出し口を開けて片手で缶を取り出した。


「あー、あったかっ」

「な、成海くん……」


 もしかして、どれにするか悩んでいたから聞こえなかったのかな? もう一回、言うしかない。

 そう思ってあたしが成海くんを見ると、その目は意地悪そうに微笑む。


「離さないよ? だって、約束したのに友達にならないとか、全然大丈夫じゃないのに大丈夫とか、そんなん俺には関係ないし」


 関係、ない?


「それって、どう言う……」

「んー、俺もどうしたらいいのかよく分かんないんだけど、まどかちゃんのそばにいたいんだよ」


 「座ろっか?」そう言って、成海くんはすんなり手を離してくれた。

 もうあたしが逃げないと思ったのかな? 逃げる気は別になかったけど。なんだろう。成海くんって、やっぱり軽い人なの? 普通、そんなことサラリと言えないよね? 恥ずかしすぎて頭まで血が沸騰したように熱くなってくる。寒かったはずなのに、今は暑いくらいだ。

 成海くんは、あたしのこと好きなの? いや、そんなわけない。自惚れるなあたし。


  長いベンチ椅子に並んで座った。隣から缶の栓を開ける音が聞こえて、あたしも手にしていたコーヒーの栓を開けた。


「あれから、順平から連絡きたりしてんの?」

「え……」


 成海くんの質問に、あたしは戸惑ってしまう。

 今日、順平のバイト終わりに会うことになっているなんて、言っても良いのだろうか?

 絵里子とのことをちゃんと聞きたい気持ちがありながら、あたしはまた順平が今まで通りに自分の所へ帰ってくるんじゃないかって期待してしまっている。

 たぶん、そんなことは絶対にないんだろうけど、どうしても、僅かな希望を抱いてしまっている。


「……来てるんだ? なんて?」


 明らかな間の空き方に、成海くんはあたしの方に体ごと向きながら聞いてくる。


「え……」

「順平、なんて言ってきたの?」

「……怒ってるよなって」

「は? なんだよそれ」


 眉間に皺を寄せて、呆れた顔をする成海くん。


「で? なんて返したの?」

「……ちゃんと、話したいって言ったら、今日のバイト終わりに会おうって」

「え? 今日? バイト終わりって、何時?」

「……いつも、遅くても二十二時にはうちに来てくれていたから、たぶん、今日もそのくらいだと……」


 あたしが答えると、成海くんはますます呆れているように目を細めた。

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