第六章 green tea.

第31話

 ほんのり赤く染まった頬で、まっすぐに真舞くんを見つめた早夕里。


「不束者ですが、あたしを真舞くんちに居候させてください。掃除、洗濯、家事全部やりますので。だから、どうかよろしくお願いします」


 丁寧に頭を下げる早夕里は、もうアルコールの酔いなど一滴もないように思えた。

 ふざけて言うには重すぎる内容。それを真面目な顔で伝えられれば、ますます重い気がするのだが、目の前の真舞くんの顔は、意外にも明るい。

 あたしと成海くんは、どう真舞くんが答えるのかが気になって仕方がない。

 そして、果たしてこれは、告白なのか? それにしては内容が家政婦みたいになっているけれど。早夕里はいったい何を考えているんだろう?


「……良いけど……」


 迷いなく答えた真舞くんに、三人の視線が集中する。


「……ほ、ほんとに⁉︎」

「うん、だって、マジで部屋どうしようか悩んでたんだ……それって、ありがたいし……」

「きゃーっ! 嬉しいっ!」


 答えるや否や、早夕里が両手を上げて真舞くんに抱きつくから、驚いた真舞くんはそのまま倒れ込んでしまって、テレビ台の角に頭をぶつけた。


「いっ‼︎」

「あ、ごめん。嬉しくって押し倒しちゃった!」


 ぶつけた頭をさすりながら起き上がる真舞くんの胸に、早夕里はまだくっ付いている。

 そんな早夕里に、真っ赤な顔をしている真舞くんは、頭の痛みと早夕里の抱擁と、どちらに集中したら良いのかと困った顔をしているから、あたしも成海くんも苦笑いをするしかない。


「良かったじゃん、真舞。早夕里ちゃんに色々教えてもらいな」


 笑っている成海くんを横目に、あたしはまた不安になる。

 早夕里は、本当に最近彼氏と別れたばかりで、その彼氏とはけっこう長く続いていたはずだ。

 早夕里がその彼とどんな感じで付き合っていたのかとかはよく分からないけど、彼の話をする早夕里は幸せそうだった。だから、こんなに簡単に真舞くんのことを好きになって、まして居候させて欲しいとか、なんだか早夕里の考えていることが分からなくて、不安になってしまう。

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