第30話
「ねぇ、良かったの? あたし邪魔じゃない?」
暗い影を纏いながら、早夕里がリビングのドアを半分開けてこちらに向かって言った。
「うん、邪魔。でも、真舞んちにはマジで入れないと思うし。しょうがないじゃん?」
リビングの中に進みながら、成海くんは呆れた様に言って、キッチンに立った。
「え? なんで?」
大きな真舞くんの座る横に早夕里が座り直して、成海くんに聞く。
あたしは早夕里の向かいにそっと座った。
「リビングに布団敷きっぱなしで、カーテンも開けた事ないから陰湿だし、散らばった年代バラバラのゲーム機とそのカセット、あとペットボトルがやたら転がってて、転んだら最後。もう二度とあの部屋には入りたくなくなるよ?」
「……どんなとこで生活してんの? 真舞くん……心配なんだけど」
あぐらをかいて座る真舞くんは大きいけど萎縮しちゃって焦っている。
「寝に帰るようなもんだからな……俺、思いっきり夜型だし、昼間寝るから、眩しくてカーテン開けらんないし」
「え? 真舞くん、大学は? たしかに見かけたことないけど。こんな長身がいたらすぐ注目されるよね」
「……行ってない」
真舞くんのボソリと呟いた言葉に、あたしも早夕里も黙り込んだ。
「元々勉強すんの嫌いだったもんな、真舞は。ゲームクリエイターにでもなるのかと思いきや、それもただの趣味止まり。でも、
成海くんが人数分のお茶を入れて持ってきながらテーブルに置くと、あたしの隣に座った。
「……スカウト?」
早夕里が隣の真舞くんを見上げる。
「……休みの日に、やることも無くてぶらぶらしてた時に、あのBARのマスターに声かけられて……」
「俺と一緒に夢を叶えないか? って言われたんだろ?」
ククッと笑いを堪えながら成海くんが言うのを見て、真舞くんはなぜか顔を赤くする。
「……なんか、ほんと夢も希望もないようにして歩いてたからさ、そのひと言とマスターの笑顔に……ときめいたと言うか……」
「え⁉︎ 真舞くんマスターのこと好きなの⁉︎」
あからさまに照れている真舞くんの姿に、早夕里は驚いて青ざめつつ真相を確かめるために近づく。
「……マスターは良い人だよ」
ほんわかと笑顔でお茶を啜る真舞くんに、まさかのBL展開⁉︎ と、あたしも早夕里も固まった。
そんなあたし達を見て、成海くんが堪えていた笑いをついに爆発させた。
「ぶ、はははっ! それ! 誤解されてるよ? 真舞!」
「え?」
早夕里は真舞くんから少し離れて、泣きそうになっている。
「……男に負けたぁ。でも、確かにあのマスターさんめっちゃ優しそうだし、大人だし、真舞くんとはお似合い……」
「は⁉︎ ちょっ……なに?」
ついに泣き出してしまった早夕里に、のんびりしていた真舞くんが今までにない俊敏さで、早夕里の方を向いた。
「マスターのことが好きなのは、人として、すっごい尊敬してるってことだけど?」
「……え? だって、ときめくとか……」
確かに、ときめいたら恋だよね。
あたしは二人のやりとりを眺めつつ、隣でまだ笑っている成海くんをチラリと見る。
自分の家だからなのか、無邪気に笑う成海くんは、外で見る笑顔とはまた全然違う。
真舞くんに対して気を許しているのもあるんだと思うけど、こんなに子供っぽい一面もあるのかと、驚いてしまう。
「……え? ときめくとか使っちゃダメなの? ごめん、俺、女の子とあんま喋んないから……分かんない……」
落ち込む真舞くんに、早夕里は呆然としてしまっている。
「真舞って、マジで女子に免疫ないから。早夕里ちゃんみたいな子、一番苦手なタイプだと思うよ?」
成海くんが悪気もなさそうにそう言ってお茶を飲む。早夕里も、無言のまま出されたお茶を飲むと、もう一度真舞くんの方へと向き直った。
「……よし、決めた」
顔を上げた早夕里に、あたしと成海くんは不思議にお互いを見合ってから早夕里の方を見た。
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