第43話

 成海くんは中には入らずに、アパートの外で待っていてくれている。本当は寒いから中に入れてあげたかった。でも、さっきのこともあって、あたしがそれをしてはいけないと感じたから。

 黒のセーターにロングスカート、首にはフェイクファーのティペットを巻いた。

 鏡の前に置いていた順平からもらった片方だけのピアスを手に取る。

 これは、本当にもう捨ててしまおう。こんなのがずっとあったら、いやでも思い出してしまうから。そう思いながら、ぎゅっと手の中に握りしめてショートブーツを履いた。

 玄関のドアをゆっくり開ける。昨日は成海くんにぶつけてしまったから、尚更慎重に顔を覗かせると、ドアから離れたところに成海くんの姿を見つけて、あたしはホッとしつつ外に出ると鍵をかけた。


「ごめんね、お待たせ。寒かったよね?」


 成海くんに近付くと、優しく微笑んで小さく首を左右に振ってくれた。


「全然。行こうか」


 そう言ってポケットから出た手を差し出されて、あたしは戸惑う。

 手を繋いだりしたら、また成海くんに順平を重ねてしまうかもしれない。


「……何か、手に握ってる?」


 あたしの右手だけが握られているのに気が付いて、成海くんが聞いてくる。

 手の中には、順平から貰ったピアス。もう片方は、成海くんがまだ持っているはず。


「……これ……」


 そっと成海くんの前で指を開いたあたしに、成海くんは掌の上のピアスを見て、ため息をこぼす。


「ああ……じゃあ、それは俺が貰っとくよ」

「……え、」

「自分じゃ捨てたりできないでしょ? 俺に頂戴? これの思い出くらいは俺が消してあげるから」


 そう言って、成海くんはあたしの掌からピアスをそっと取る。

 そして、すぐに成海くんのポケットの中へと消えてしまった。順平との思い出を、一つずつ、消していかなきゃ。これは、その一歩だと思えば良い。


「大丈夫。俺がもっとまどかちゃんに似合うの見つけるから、ねっ」


 あたしを覗き込む様に、成海くんは腰を曲げて笑顔を向けてくれる。「行こ?」そう言って差し出された手に、自然と繋がってしまうのは、もう何度もそれで救われてきていたからかも知れない。

 この、どうしようもない思いを、簡単に消せる道具でもあれば良いのに。切に、そう願ってしまう。

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