第24話

 すぐに気がついてメッセージを確認する。差出人は順平。一緒に目に入った時計の時刻は、もうすぐ二十二時になろうとしていた。

 もうそんなに時間経っていたんだ。楽しすぎて、すっかり忘れていた。


》今からまどかんちに行っていい?

「え」


 思わず出てしまった声に、あたしは口を抑える。

 横にいた成海くんが「どした?」と声をかけてくれるけど、どうしたらいいのか分からなくなる。

 順平とちゃんと話して、事実を知りたい気持ちがある反面、行かないでここで楽しんでいた方が、知って傷つくよりもいいんじゃないかと、逃げたい気持ちにもなってしまっている。


「……あ、もう二十二時か。行く?」


 あたしが黙ったままでスマホを握りしめているのを見て、成海くんはそう言ってコートを着始める。


「え、帰んの? 成海」

「一回抜ける。戻って来なかったら二人で楽しんであと帰っていいから」

「え? まどかも行くの?」


 早夕里に聞かれて、あたしはまだ迷っている。


「ちゃんと聞くんだろ? 大丈夫、なんかあったら俺がいるから」


 真っ直ぐにそう言ってくれる成海くんの目が真剣で、逃げてはいけないような気がした。あたしもコートを持つと、立ち上がった。


「とりあえず付けといて真舞。後で払うから」

「ああ、それは別にいいけど……」

「真舞くん、早夕里のことお願いします」

「え⁉︎」

「はーいっ、お願いされまぁす」


 話していた感じから、真舞くんは真面目な人だと思うから、任せても大丈夫だとは思うけど、早夕里の方がわがままを言わないか心配だ。

 そうは思いつつも、あたしはバーを出ると、ひやっとした風に急いでコートを羽織った。


「さむっ。風邪引かないでよ?」

「あ、うん、成海くんこそ、寒がりだから大丈夫?」


 丸めた背中が震えているのを見て、あたしは笑った。そんなあたしに振り返って驚くような顔をする成海くん。


「ありがと、まどかちゃん俺のことわかってくれてて嬉しい」


 微笑む成海くんの鼻の頭がほんのり赤くなっている。お酒の酔いもあるせいか、いつもよりも街頭の下に見えた笑顔が幼く見えて、可愛いと思ってしまった。

 順平に「いいよ」と返信してからバーを出たから、同じくらいに家に着くと思う。


「俺、そこの公園で待機してるから。ほんと、なんかあったら呼んで? 何もなかったら連絡は要らない。あとは帰るから心配しなくていいから……って、俺の心配なんてしないか」


 眉を下げて寂しそうに笑う成海くんに、あたしは公園の入り口で自販機を見つけて、あったかいコーヒーを買う。


「はい、これ飲んだら帰って大丈夫だよ。これは、あたしと順平の問題だから。成海くんに風邪引かせちゃったら大変だし、風邪引いて欲しくないから」


 ここまで一緒にいてくれたことが嬉しかった。

 順平と会う時間になるまで一人でいたら、きっともう泣き疲れて、どうでも良くなっていたかもしれない。だけど、今はちゃんと向き合える気がする。


「ありがとう、成海くん。行ってくる」

「おう、頑張れ」


 背中を押してくれる。

 成海くんがいてくれると思うと、頑張れる気がする。

 あたしはアパートを目指して歩き始めた。

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