第37話
「はい、あったまって」
「あ、ありがとう」
マグカップに入ったコンソメスープから真っ白い湯気が上がっている。両手で包み込んで少しだけ冷ますと、一口飲む。
あったかいコンソメスープは、たぶん市販のものなんだと思うけど、冷えてきた体に染み渡って心まであったかくなるように美味しかった。
「あったかくて美味しい」
「……良かった」
成海くんもそう言って外の景色を眺めながらカップを傾ける。
コンソメスープの湯気が空に溶け込んで、朝日が成海くんの髪をキラキラとブルーに輝かせる。
絵になり過ぎるその姿に見惚れていると、視線に気が付いた成海くんがフォークに刺した卵焼きをあたしに向けて来た。
「はい、これは俺の手作りだよ。甘めの卵焼き。食べてみて」
両手でマグカップを持っていたあたしは当たり前のように差し出された形のいい卵焼きに口を開けてしまった。
一瞬、食べさせてくれるんだと勘違いしたあたしに、成海くんが驚いた顔をしたのを見逃さなくて、慌ててマグカップから片手を離してフォークに手を伸ばすけど、成海くんはそのままあたしの口まで卵焼きを寄せてくるから、閉じてしまった口を、あたしは再び開けた。
「……っ……ごめん……」
卵焼きを口にしてから、あたしは俯いて謝ってしまう。昨日チョコレートをくれた時の成海くんとダブって、無意識に開けてしまった口に恥ずかしすぎて顔から火が出そうだ。
もう、フワッフワで甘々の卵焼きの味などよく分からなくなる。
「昨日は……俺もちょっと飲んでたし、まどかちゃんが悲しくならないようにって連れてきちゃったけど、迷惑じゃなかった?」
「……え、」
困ったような顔をして成海くんが聞いてくるから、あたしは首を振る。
「迷惑だなんて……むしろ、あたし一人でいたら、たぶんずっと泣いてるしかなかったと思うし」
「……まどかちゃんは、一人にしてって言ったのに、無理矢理連れてきちゃったから、呆れられてないかなって思ったりしたんだよね」
言いながらマグカップで両手を温める成海くんの目の下には、クマのようなうっすら影があって、目がトロンとしている。
「……はぁ、でも、それなら、良かった……」
深いため息をついた後に、わずかに開いていた目を成海くんが閉じてしまって、無言になる。
しばし、あたしはそんな成海くんのことを眺める。けど、湯気の当たる前髪がたまに風で揺れるのを見て、気が付いた。
「え⁉ 成海くん! 寝てる⁉」
驚いて、マグカップを落としてしまわないようにあたしは成海くんの手からソッと取る。一気に脱力したように両腕が下がってしまって、成海くんの体はあたしに寄りかかってくる。
成海くんって……意外に重たい……
「ちょ……、助けて……」
必死に腕を伸ばして、リビングにいる二人に気が付いてもらおうと、成海くんを支えつつドアを叩いた。
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