第38話
すぐに気が付いて来てくれたのは早夕里で、
「え⁉ どうしたの?」
あたしに寄りかかる成海くんを見て、早夕里は驚きつつ、すぐに倫也くんを呼んでくれる。
「ちょっとー、片瀬成海が寝てるー」
「は? なんで?」
嫌々席を立ってこちらに向かって来た倫也くんは、あたしと成海くんをジッと見た。
「ベランダ寒いからちゃんとベッドでしな? なんなら俺らはもう出てくから」
そう言いながら成海くんを担ぐように支えて立たせると、引きずりながらベッドへと運んでくれた。あたしには重かった成海くんも、倫也くんは軽々と連れて行ってしまった。
「あ、ありがとうございます……」
ちゃんと布団をかけてあげて、振り向いた倫也くんに、あたしは視線を合わせれずにお礼を言った。
「昨日、成海寝てないからだよ。充電切れちゃったんじゃね? キミが来てから、なる、なんか変なんだけど、なんなの?」
「え……」
なんなの? って言われても。
「まぁ、今までの女の子達と同じなんだろうけど、明らかにキミの方は成海目当てじゃないよね? まぁ、別に俺は興味ないからどうでも良いんだけど。とりあえず鍵は玄関とこに置いてあるし、するならしてあとは寝かせてあげて? さ、帰ろっかー、さゆちゃんっ」
リビングに戻って行く倫也くんの後ろ姿を見送って、あたしはベッドの中でスヤスヤと眠る成海くんの寝顔を見つめた。
『今までの女の子達と同じなんだろうけど』
成海くんからしたら、そうなんだよね?
順平にフラれて落ち込むあたしを、慰めてくれているだけ。それに、あたしが甘えてしまっているだけ。それだけ。
「はぁ⁉」
突然、倫也くんの大きな声が聞こえて来るから、あたしは部屋から出て何事かと聞き耳を立てる。
「え? さゆちゃん、真舞の彼女だったの?」
体全体で驚きを示しているような格好で立っている倫也くんの姿が見えて、そのすぐ前に早夕里もいる。
「まだ彼女じゃないけど、とりあえずしばらくお世話になる事になったの。昼間は寝てるんでしょ? 邪魔するわけにいかないから、あたしは一旦家に帰るし、夕方にまた戻って来たいから、真舞くんの連絡先教えてってこと。昨日寝ちゃって聞きそびれちゃったから」
「……意味がわかんねーんだけど、真舞マジで連絡付かないよ? かけても出たことないし、メッセージも返してこねーし」
「良いの! その時は部屋の前でひたすら待つから」
「え? 怖。それはやめてよ。俺やだ、そういう現場見るの。幽霊かと思っちゃう」
「……とにかく! 教えて!」
早夕里の押しに負けるように、倫也くんはポケットからスマホを取り出した。
影を潜めていたあたしは、二人のやり取りを見た後に成海くんの寝ている方に振り向くと、むくりと起き上がった成海くんの姿に驚いて駆け寄った。
「ごめんね、ドア開けてたからうるさかったよね」
さっきの二人のやり取りで、きっと目が覚めてしまったんだ。まだ完全に開かない目を擦る成海くん。
「もう一回寝て良いよ」と近くで声をかけた瞬間、あたしの腕に伸びてきた成海くんの手に掴まれると、引き寄せられた。体勢を崩したあたしは、ベッドに倒れこんでしまう。抱き枕のようにぎゅっと抱きしめられていた。
気が付けば、頭の上から一定のリズムで呼吸音が聞こえてくる。いきなりの出来事に、爆発しそうなくらいに心臓が鳴っているのに、そんなこと関係なしに、成海くんの寝息は心地良いリズムで繰り返す。
ど、どうしたらいいんだろう。この状況はちょっと。
せっかくまた眠ったのに、動いてしまったらまた起こしてしまうし、かと言ってずっとこのままでいるわけにはいかない。早夕里と倫也くんもいるのに、こんなの見られたら大変だ。成海くんには悪いけど、起きても良いから脱出しなければ。
そう思って成海くんから体を離そうとした瞬間に、ますます強く抱きしめられるから、頭の中で瞬時に順平のことを思い出してしまう。思わず、あたしは自分の精一杯の力で成海くんのことを拒否してしまった。
精一杯の強い力で成海くんの体を突き放して、あたしはベッドから転がるように落ちた。背中が少し痛くて起き上がると、成海くんもゆっくり起き上がって目を見開いている。
「あ、あれ? ……まどかちゃん?」
混乱している成海くんは、すっかり目が覚めているように感じた。
成海くんは優しい。でも、抱きしめて欲しいのは、やっぱりあたしには順平しかいない。
成海くんにされたことで、あたしはまた順平の温もりを思い出してしまって、気が付けば、涙が溢れていた。
「あ……ごめん。帰る……」
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