第4話
帰る準備をしていたあたしは、講義室の入り口から入ってくる人に目がとまって、一気に体が硬直した。キョロキョロした後にこちらに気がつく。思わずリュックで顔を隠したけど、そんなの意味がなかった。
「まどか、良かった会えて」
優しい口調で言われて、涙が溢れそうになった。
あたしに近づいて来たのは順平だった。いつもと変わらない爽やかな笑顔を向けてくれる。もしかして、昨日の事は間違いだったって言ってくれるんじゃないかな。絵里子も酔っていたし、順平だってそうだった。お酒の勢いで、あんなことを言ってしまったんだと。
〝会えてよかった〟なんて言われたら期待してしまう。
あたしはドキドキと高鳴る心臓に手を当てながら、順平の顔を見つめた。センター分けにした前髪が目に少しだけかかる。切れ長の目元には小さなホクロが色気を感じさせる。
大好きな順平に、今すぐにでも抱きしめて欲しい衝動に駆られながらいると、その目が申し訳なさそうに眉を下げて笑った。
「ありがとな」
……え?
「ごめん、俺なかなか言い出せなくて。まどかを嫌いになったわけじゃないんだ。絵里子とも今のままで居てくれるって、言ってくれたんだってな。良かったよ。こんなんで二人の仲、壊したくなかったから」
……こんなんで? って。
順平にとって、あたしはこんなんでで済ませられるような存在だったの?
『あんまり気にしないで、これからも仲良くしてねっ』
昨日の絵里子の言葉が頭の中に響いてきた。
二人とも何なの? 悪者になりたくないだけじゃん。
今のままで居るなんて、あたし言ってない。
これからも仲良くなんて、出来るわけない。
そんな綺麗事言えるほど、人間出来てない。
絵里子の言うことを信じないで。
あたしの気持ち……分かってよ……順平。
涙が出そうなのを必死に我慢して荷物を抱えると、俯いた目に映り込んできた順平の足を思いっきり踏みつけてから走った。背中越しに、「いってぇ‼︎」と悶える順平の声が聞こえたけど、振り返らない。
あのブーツだって、一緒に選んで買ったやつだ。楽しかったのに! 順平と一緒にいる時間が、なによりもあたしの一番幸せな時間だったのに!
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