第20話

「出来ることなら、ずっと俺のとこに置いておきたいくらいなんだけど。それは無理でしょ?」


 泣きそうに眉を下げて、苦しそうに言う成海くんの言葉に、あたしは驚きながらも、何度も小さく頷く。


「泣きたくなったら、メッセージ送って? 来れたら来るし、来れなかったら必ず電話する。絶対にまどかちゃんのこと泣かせたりしないから。だから、それは、まどかちゃんが約束してくれない?」

「……え」

「絶対に、一人で泣いていないで。俺を、頼って」


 泣きそうに下がっていた眉が緩く湾曲する。細くなった目もますます優しくなる。

 柔らかく上がった口角に、あたしは言葉が出てこなくて、そんな成海くんを見つめるしか出来なかった。

 また、どうしてって、思ってしまう。


「泣きたい時に泣くのは、俺の前でだけにして」


 小指を立てて、あたしに向けてくる。戸惑いながらも、あたしはその小指に自分の小指を絡めた。一人で泣くのは、辛いから。

 だけど、成海くんの優しさに、甘えてばかりで良いのだろうか……

 成海くんは優しくて、あたしのことも知ってくれている。その広い心の隅でも良いから、こんなあたしのことを心配してくれるのなら、少しだけ甘えさせてもらってもいいのかな、なんて、ズルい考えを働かせてしまう。


「じゃ、あそこに友達待たせてるから行こっ」

「え?」


 成海くんが笑って指差す方向には、ここから見ても大きいと分かるくらいに存在感のある男の人が腕組みをして立っている姿があった。

 金髪にジャージっぽい格好で、寒いのにコートも着ていない。見るからに怖そうな風貌で、目は閉じている。

 ……寝てる?


「真舞! 起きろーっ」


 やっぱり近くに来ると圧倒的な背の高さがある。成海くんは彼をガクガクと揺らしているから、あたしは無駄にビクビクとして、なるべく二人から距離を取った。

 だ、大丈夫なのかな? 起きていきなり怒られたりしないかな?


「……んー」

「よく立ったまま寝れるね。待たせてごめんな、起きて? まどかちゃん連れてきた」

「……あ……」


 ようやく目を開いたその彼と、迂闊にもあたしは目が合ってしまった。まずいと思いつつも、いきなり逸らしては何か文句でも言われても怖いと、ヘラリと引きつった笑顔を作ってみる。


「あー、この前の、ね……で? 何すんだっけ?」


 思った以上にゆっくり、ゆったりと流れた時間に、あたしは頭がついていかない。

 ガシガシと頭を掻きつつ、その人は大きく伸びをする。身長がますます大きくなるけど、不思議とさっきまで感じていた恐怖感はない。

 喋り方がのんびりなのと、意外に柔らかい口調で独特な間があって、むしろ見た目とのギャップが凄すぎる。

 童話の中に登場する、強くて逞しいけど、実は優しい森のクマさんにでも会ったかの様だ。

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