第58話
通された真舞くんの家の中の大惨事に、あたしは驚愕の思いで立ち尽くしていた。
まず、玄関に散らばるスニーカーは一体何足あるだろう? そして、部屋へとつながる廊下には、足の踏み場もないほどにペットボトルが散乱している。
え、なにこれ。泥棒用のトラップか何かかな?
思わず思考が現実逃避し始めるのを懸命に戻して、あたしは早夕里に渡されたゴミ袋にペットボトルを詰め始めた。
ざっと五袋分。一人暮らしなのに、一体いつから貯めこめばペットボトルが五袋分にもなるんだ? しかも殆どがニリットル。
袋を廊下に並べて、ようやく歩ける様になった。
「あたし、さっきそこで転んだの。ペットボトルのせいで転んで、ペットボトルのおかげで頭打たなくて済んだ」
真顔だけど、苛立つように喋る早夕里の表情に、あたしは苦笑いするしかない。
「キッチンはね、たぶん使ってないんだね。だから綺麗なんだけど、部屋もこの通り」
廊下のペットボトルを片付けてホッとしたのも束の間、リビングのドアを開けた早夕里の背中越しに見えた室内には、敷きっぱなしの布団とまたしても無数のペットボトルにゲーム機器。コントローラーも色々な種類が転がっている。
もはや何も言うまいと、無言であたしも早夕里もゴミ袋へと詰め始めた。
ようやくたどり着いたベランダの戸を開けて、冷たい空気を部屋の中へ入れ込む。ひんやりとした風が、悶々とペットボトルとの戦いを繰り広げていたあたし達には逆に心地よい。
「朝方には真舞くん帰ってくるんだよね? とりあえず、干すか」
徐ろに布団に手を伸ばし、早夕里は両手で持ち上げると、ガタガタガタっといろんなものがそこからなだれ落ちてきた。
「……さ、早夕里、一応機械だし、壊したら大変だから、丁重に……」
あたしが心配するのもお構いなしに、早夕里はそのまま布団を夜のベランダへと干し始めた。
「代わりの布団ないのかなぁ」
呟きながら戻ってきて、部屋を見渡す。
「布団なくなっただけでかなり広いね。ほんと、ゲーム以外なにもない。変な雑誌とかエッチなもんとかないの?」
「……早夕里……出てきても困るでしょ」
呆れるあたしに、つまらんとぼやきながら、持参してきたほうきやウェットモップを駆使して部屋の中はあっという間に綺麗に片付いた。
殺風景になった部屋に座り込んで、早夕里は深いため息をつく。
「……終わった」
「早夕里、やっぱテキパキしてるね。真舞くん喜ぶよこれは」
「喜んでもらわなきゃ困るよね、こんだけ頑張ってさー」
あたしがペットボトルに苦戦している間にも、早夕里はトイレとバスルームもなにやら騒ぎつつ綺麗にしていた。
「あー、でも、この部屋落ち着くかも」
ごろんと寝転んで、早夕里は目を閉じる。
「本気でここに住み着くの?」
早夕里の隣に座って、冗談にしては本気の片付けを見せられたあたしは不安になりながら聞いた。
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