第17話 エルガーとの話
イーラの街についたアルフレッドとリリヴィアは宿を確保し、街の様子を見ながらギルドに向かった。
「それにしても、まさか貯金を使い果たしているなんて思わなかったわ。前日にあれだけ稼いでいたのにねえ」
「うるせえ。ほっとけ……その分新しい装備はいいやつなんだから」
新装備に貯金を使い果たして、宿代が払えずに結局リリヴィアに借金したアルフレッドは揶揄われていた。
話題を変えようとアルフレッドは周りを見渡す。
「それにしてもイーラの街はもうすっかり元通りだな。3日しか経っていないのに、なぜか懐かしい気がする……」
「まあ、ドラゴンゾンビが出たといっても割とすぐに倒したし、もうみんな忘れてるんじゃない?」
「そういや、あのリッチは一体何者だっただろうな」
「さあ? ギルド長が調査するって言っていたし、ギルドで聞いてみたら?」
ほどなくして2人はギルドに到着。
受付で用件を伝えたところ、ギルド長の執務室に通された。
——イーラギルドの執務室にて——————————————————
執務室ではギルド長のエルガーが椅子に座っており、2人もエルガーに言われて椅子に座り、面会が始まる。
「リリヴィアにアルフレッド、よく来たな。調子はどうだ? アルフレッドの方は装備が変わっているみたいだが」
「今日はお時間を割いていただいてありがとうございます。調子は良くて、お気付きのとおり昨日村で新しい装備を買いました」
「私も調子は絶好調です。この前は採取依頼でアッララト山に入りました」
(リリの敬語、違和感あるな)
面会は雑談から始まり、2人は近況を簡単に報告する。
ちなみにリリヴィアは普段敬語など使わないタイプだが、さすがにこういう改まった場では礼儀正しい言葉遣いもするのだ。
そうして話は進み、本題に入った。
「2人の昇格についてだが、アルフレッドはEランク、リリヴィアはDランクに昇格だ」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます。でも私とアルでランクが違うんですね」
「そりゃそうだろ。リッチもドラゴンゾンビもリリが倒したんだから」
(ふむ。リリヴィアの方は2人一緒じゃないと不満か)
昇格したランクについて、アルフレッドは素直に礼を言い、リリヴィアは2人のランクが異なることに言及する。
それをアルフレッドがとりなす様子を観察しながらエルガーが話を続ける。
「まあ、その辺についてはそれで納得してくれ。ランクの査定にはアルフレッドが言う通り、倒した魔物なんかも関わっていてな。だが、短期間でEランクに昇格したというだけでも、十分自慢していいことだぞ」
「もちろん分かってます。別に不満はありません」
「アルフレッド、そう言ってくれると助かるよ。依頼をこなしていけば当然ランクも上がるから、お前もすぐDランクになれるだろうさ。リリヴィアもいいか?」
「ええ、もちろん」
エルガーは冷や汗を流しながらそれを悟られないように、なおかつ言葉を選びつつ説明する。
彼は長年冒険者として戦い、引退後もギルドで幾多の冒険者を相手にしてきた経験から、相手の力量を正確に把握することができるのだ。
そのエルガーの観察眼によると2人は———
アルフレッド :
駆け出しで若いけど優秀な冒険者。
常識人っぽい。
リリヴィアと一緒にいる。
リリヴィア :
人外魔境の怪物。
戦ったら殺されるヤバイ奴。
怒らせたら潰されるヤバイ奴。
———という感じだ。
アルフレッドは普通に優秀な奴という程度の認識なので、別に怖くなどないのだが、リリヴィアはもはや理解不能なレベルの化け物であり、いまの昇格に関する説明を行う際も、「やべえ…… 答え方をミスったら殺される」と内心ビビっていたりする。
普段より若干口数が増えているのを自覚しながら、エルガーは次の話をする。
「ところで、2人の今後の予定は何か決まっているか?」
「一応、これから旅をしながら上のランクを……」
「魔王退治の旅をする予定です」
エルガーの質問に対し、アルフレッドの言葉を遮ってリリヴィアが回答した。
アルフレッドの「えっ!? そんな直球で言っちゃうの?」という視線を無視してリリヴィアは話を続ける。
「いま西に現れたという魔王グリードを討ち取るために帝国に行って戦ってこようと思います」
「ほう?」
「具体的な方法としては帝国に行って討伐軍に参加します。もちろん今のランクでは帝国で参戦を希望しても相手にされないと思うので、道中の街で依頼をこなしてランクを上げていくつもりです」
(……別に、国から出す援軍に参加させろって言っているわけではないんだな。自分達で帝国に行って参戦するつもりか)
「つきましては、魔王軍の情報や帝国の動きについて、可能な範囲でいいので教えてもらえませんか?」
リリヴィアはストレートに目的を告げて、情報を求める。
「……まあ、俺も直接見たわけじゃないが、知っている内容を教えてやろう」
エルガーは面食らいながらもリリヴィアの要求に応じて、魔王軍の規模や戦況、加えて援軍の件など知っている情報を教えていった。
・
・
・
「俺が知っているのはこのくらいだな。言っておくが、今言った情報はあくまで現段階で向こうのギルドや国から寄せられた情報だ。魔王軍の規模や軍容は常に変化しているし、戦況も今後の予測が難しい。お前たちが向こうに着いた時にはまた変わっているだろうから、参考として覚えるくらいにしておけ」
「「ありがとうございます」」
場合によっては教えてもらえないかもしれない、と心配していた2人だったが、気前よく情報開示してくれたエルガーに安堵して礼を言う。
「あと、一応これも伝えておくか。 ……国がいま送ろうとしている援軍にお前たちを含めるのは、俺としてはお勧めできないな。分かっていると思うが、冒険者の評価はランクで決まってしまうところがあるから、いま無理にねじ込んだとしても、雑用係とか、つまらん役割にされる可能性が高い。それよりはしっかり実績を積んで、評価を得てから参戦する方がいいだろう」
「ご忠告、感謝します」
「ありがとうございます」
エルガーの助言にアルフレッドとリリヴィアは礼を言う。
「ところで、もし良かったらでいいのだが、お前たち2人に提案があるんだがいいか?」
「何でしょうか?」
今度はエルガーの方から話をし始める。
「提案は2つ。1つ目は模擬戦だ」
「「模擬戦?」」
「そうだ。ランク昇格審査の際に、その冒険者の強さを測る目的で、模擬戦を行うことが多くてな。 ……お前達は既に昇格しているから別にしなくてもいいが、こういうのをやっとかないと、他の冒険者の中にやっかみで文句を言ってくる奴が出たりするんだよ」
「ああ、きっちりと実力を見せないと、納得しない人がいるんですね」
「そう。アルフレッドの言うとおりだ。ついでに言えば、俺が贔屓しただのなんだのと騒ぎ出す。まあ文句言うやつの大半は年下に追い越されたのが面白くないってだけで、ほっといてもいいんだが、ここではっきりと実力を見せておけばそんな奴らも黙るってわけだ。もちろん、模擬戦に負けたからと言って昇格を取り消したりはしない」
「分かりました。お受けします」
「私も分かりました。模擬戦をお受けします」
こうしてアルフレッドとリリヴィアは模擬戦を受けることになった。
「2つ目はレイドクエストへの参加についてだ」
「「レイドクエスト!?」」
レイドクエストとは、多数の冒険者を集めて実施される大規模な合同任務のことである。
主に魔物が大量発生した時やBランク以上の上位魔物が出た時などに発令され、数十人規模の冒険者達が招集されて戦うことになる。
危険であり報酬も少なめだが、代わりにギルドからの評価が得られやすく、昇格にも有利になる。
「昨日、ここから北東にある村がオークの襲撃を受けた。その報告を受けてすぐに冒険者を派遣したんだが、その冒険者の報告では、かなりの数のオークとその上位種がいたらしい。オーク達は既に村からは引き上げているが、放置はできん。そのため今冒険者に招集をかけている段階だ。明日、オークたちが潜伏しているとみられるイルドーアの森に行って討伐を行う。その討伐にお前たちも参加してほしいわけだ」
「なるほど。予想される敵の戦力はどのくらいでしょうか?」
「いま、複数の冒険者を放って調査しているが、これまで確認できただけでオーク数十体にハイオーク、オークジェネラルが1体ずつ。おそらくだが、全体で100~1000体規模とみている」
オークは豚の頭を持つ人型の魔物で、タフで腕力が強いうえに繁殖力が強く、あっという間に増えることで有名である。
たまに増えすぎた結果、食料を求めて人里を襲うことがあり、その度にこうしてレイドクエストが出されるのである。
ちなみに魔物のランクは以下の通り。
オーク : Dランク
ハイオーク : Dランク(正確にはDランク上位。Cランクの1歩手前)
オークジェネラル : Cランク
アルフレッドとリリヴィアはお互いに目を見て頷き合い、エルガーに返事をする。
「「了解しました。俺(私)達も参加します」」
こうしてアルフレッドとリリヴィアは参加の意思を伝え、さらに詳細を確認してエルガーとの話を終えた。
ちなみに国の援軍に2人を含めるかどうか迷っていたエルガーは2人と話した結果、今回の援軍には含めないことにしたのだった。
(別に無理にねじ込まんでも本人たちが勝手に参戦してくれるならそっちがいいからな。それに、すぐに参加するよりも経験を積んだうえでランクに関する不安を取り除いてからの方が安心できる)
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物語世界の小ネタ:
冒険者の昇格については主に以下の3点で決まります。
・依頼の達成状況:
過去にこなした依頼の数と成功率や難易度、依頼人などからの評価などを基に点数をつけて査定。
ランク毎に昇格に必要な点数がはっきりと決められている。
また上のランクになると点数以外にレイドクエストの参加経験なども必要になってくる。
・本人の強さ:
強ければ強いほど昇格に有利なのは言うまでもない。
はっきりとした基準が定められているわけではないものの、「最低でもこのくらい強くないとこのランクには上がれない」みたいな暗黙のルールがあったりする。
・本人の素行:
ギルドの信用にも関わってくるため、実力があっても素行に問題があると昇格できない。
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