第12話 【毒竜白花の採取】合流とレベルアップ
「「「オ、オォオォーー!」」」
「っ!?」
見事にヒュドラの頭を1つ切り落とし、つかの間の感傷に浸るアルフレッドだったが、ヒュドラの咆哮を聞いてすぐに現実に引き戻される。
(やばいよ! まだ終わってねえよ! なんで気を抜いているんだよ、俺!!)
ヒュドラの前足の攻撃を、アルフレッドは間一髪で躱し、剣を構えようとしてあることに気付く。
「剣が折れてる!? ってそうだ……さっき頭を切り落とした直後に折れたんだった……あれ、【ポーション】は? 確かさっきまで手に持っていたはず……」
【ポーション】は空中で風魔法を放つ際に捨ててしまい、地面に落ちて割れてしまっていた。
ちなみに彼が持ち込んだ回復薬はその【ポーション】がラストだった。
「向こうは……首から流れていた血が止まって、新しい頭が生えてきた……」
ヒュドラは〖自己再生〗スキルを発動しており、切り落とされた頭が再生し始めていた。
「詰んだ……」
彼の体力は既に限界で、もはやヒュドラと戦うことはおろか逃げることすらできそうもない。
(エリック師匠、これどうしようもないです。このこと、恨んでいいですか?)
と諦めかけたその時———
「何ボーっとしてるのよ。ほら剣、あと回復薬」
———聞き覚えのある声がしたと思ったら、誰かがアルフレッドに剣を持たせ、口の中に何かを流し込んだ。
「ぐっ!? ご、ごふっ、リ、リリ……」
「しっかりしなさいよ。見なさい。あのヒュドラは<MP>枯渇状態でまともに動けていないわ。いまなら攻撃し放題よ」
アルフレッドはリリヴィアの言葉を聞いて改めてヒュドラの方を見ると、ヒュドラは地面に蹲っていた。
大型の魔物は普段、無意識に魔力を使用して自分の体を強化して動いている。
そのため<MP>が枯渇すると動きが鈍るのである。
もちろん全く動けないわけではなく、こちらを威嚇しているが、相当に苦しんでいるのが分かる。
(そういえば、最後に鑑定したとき、<MP>はかなり減っていたな。そこからブレスと〖自己再生〗で、全ての<MP>を使い果たしたのか)
リリヴィアから渡された剣は、見覚えのあるものすごく強そうな剣だった。
(これ確か【オリハルコンの剣】だったな……前に邪神を復活させようとした吸血鬼が持っていたやつ……)
過去にリリヴィアが吸血鬼王を倒して手に入れた戦利品の一つであり、これならヒュドラの鱗も切り裂けるのは間違いない。
さらに体はさっきまで限界だったのが嘘のように力が漲っており、それはもう不安になるくらい、気力も体力も全快していた。
本当に不安になったアルフレッドはリリヴィアに質問する。
「なあ、さっき俺に飲ませたのは……?」
「私が作った特製回復増強薬【ナイトメアEX】よ。前に飲ませた【ナイトメア】の効果をさらに凶悪にしたものよ」
「【ナイトメアEX】!? 凶悪!?」
リリヴィアは度々、アルフレッドを実験台にして独自の薬を開発しており、【ナイトメア】もそうして作られたものの1つである。
【ナイトメア】は飲んだ者の<HP>を全回復した上に、全ステータスを30分間、20%ほど増加させ、さらに五感も強化する効果を持つ。
だがその反動として効果が切れるとまともに動けなくなるほどの疲労感に襲われ、効果時間中の運動量に応じて身体にダメージが入り、「恐怖」や「混乱」といった状態異常にかかってしまう。
恐るべき効果と副作用を持つ薬であり、敵にとっても使用者にとっても正に悪夢と言ってよい代物であった。
それをさらに凶悪化したものを飲まされたと聞いて、アルフレッドは震え出す。
「グレーウルフで動物実験したら、瀕死の状態から全回復した上に、全ステータスと、攻撃に対する反応速度が50%上昇したわ。すごいでしょ! 効果が切れた後の副作用も酷くなっていたけど、とりあえず死ななかったから問題ないわ。……不安なら多少動きをセーブしとけば、そこまでひどいことにはならないと思う」
「……できたら、普通の【ポーション】をもらえたら嬉しかったんだが……」
「何言っているの!? 問題無いって言ってるでしょう! それより、早くヒュドラを倒しなさいよ。今なら楽勝よ!」
「……とりあえず、礼は言っとく」
言いたいことは多々あるものの、アルフレッドはそれ以上言わずにヒュドラを攻撃する。
「ふんっ! はっ!」
「「「グオーーー!」」」
ヒュドラも5つの頭を振り回して抵抗するが、かなり動きが鈍い。
ドーピングされたアルフレッドの攻撃を避けることが出来ずに何度も斬りつけられる。
「そこだっ!」
「「「ギャ……」」」
そしてついにヒュドラは力尽きた。
「よし、倒した……【魔法の袋】に入れて……これでリストの残りは【毒竜白花】だけだ」
「それじゃ、行きましょうか。群生地はすぐそこよ。キールさんもそこで待ってるわ」
「ああ。分かった」
アルフレッドはリリヴィアと共に移動を開始。
目指す【毒竜白花】の群生地は、アルフレッドがヒュドラと戦った丘から10分ほど歩いたところだった。
——【毒竜白花】の群生地にて——————————————————
アルフレッドはリリヴィアに連れられて【毒竜白花】の群生地でキールと合流し、一先ず無事を喜び合った。
そしてアルフレッドが経験した出来事をかいつまんで2人に話していると———
「うぎゃあああーーー!!!」
「えっ!? どうしたんだいアル!?」
「ああ、【ナイトメアEX】の副作用ね。大丈夫よ。とりあえず死にはしないわ」
「なにそれ!? なんかすごい不安になるんだけど!? アルは本当に大丈夫なの?」
———【ナイトメアEX】の効果が切れて副作用に襲われた。
悲鳴を上げてのたうち回るアルフレッド。
心配するキールを余所にリリヴィアは神聖魔法を使って副作用を鎮静化する。
・
・
・
……約1時間後
「なあ、俺の<耐性スキル>に、なぜか〖呪い耐性〗が追加されているんだが?」
リリヴィアとキールに介抱されていたアルフレッドは、自分の<ステータス>を確認してリリヴィアに問いかけた。
〖呪い耐性〗を取得しているということは、つまり「呪い」を受けたということである。
状況的に【ナイトメアEX】の副作用が一番怪しい。
「ああ、きっと【ナイトメアEX】を飲んだせいね。これ、調合するときに素材に深淵魔法で呪いをかけたから、飲んだ時に軽く呪いを受けた感じになったのね」
「呪われてんのそれ!? もはや飲み物じゃなくね!?」
「リリ、一体なんで回復薬に呪いなんかかけたんだい?」
【ナイトメアEX】は呪いのアイテムだったことが判明した。
アルフレッドは驚き慌て、キールは顔を引きつらせながら質問する。
この世界における「呪い」とは、状態異常の1種であり、受けると<ステータス>の数値が徐々に低下して衰弱していく、もしくは精神になにかしらの異状が出てしまう。
毒や麻痺に比べて呪いの進行は緩やかだが、回復手段が限られており、1度受けると簡単には治せないため、考えようによっては毒よりも恐ろしい状態異常とされている。
なおアルフレッドが受けた呪いは、副作用の治療の中で、リリヴィアが神聖魔法で解呪していた。
ちなみに、「呪いの装備品(アイテム)」などというものもあるが、こちらは装備または使用すると持ち主に何らかのデメリット効果をもたらすものであり、状態異常としての「呪い」とはまた別物である。
……しかし、【ナイトメアEX】に限って言えば、使用者に状態異常としての「呪い」をかける「呪いのアイテム」なわけで、2重の意味で呪われている、恐ろしいアイテムということになる。
「理由はもちろんバフ効果を高めるためよ。いろいろ試して分かったのだけど、呪いは上手く使うと対象を変質させることが出来るの。調合した素材に神聖魔法で効果を付与して、さらに呪いを上手く使って効果を増幅させるわけね。……失敗すると回復・バフ効果が無くなって、ただ強烈な呪いにかかるだけの失敗作が出来上がるわけだけど、そこはちゃんと確認しているから安心しなさい」
「安心できるかー!! つうか、副作用が出た時に、大量の蛆虫が俺の体を食い破って出てくる幻覚が見えたけど、あれ呪いだったの!? もはや回復薬でも強化薬でもねえよ! 完全に劇物だよ!!」
「リリ、君がすごいのは分かっているけど、それは封印しよう。副作用が危険すぎるよ」
リリヴィアの説明を聞いてもアルフレッドは納得できず、キールも苦言を呈する。
「うー……分かったわよ……処分するわよ」
「絶対だぞ。2度と使うなよ! あとさらに凶悪なバージョンアップとかも禁止だぞ!」
「呪いで幻覚が見えるのはまずいよ……」
「……仕方ないわね。分かったわよ」
2人の説得により、しぶしぶといった感じでリリヴィアも了承する。
「ところで、話を聞いた限りじゃ随分な冒険だったみたいだけど、アルの<ステータス>の変化とかは聞いてもいいかしら?」
「ああ、今日1日でいろいろと上がったぞ。まず職業レベルが〖Lv25〗から〖Lv26〗に、その他は〖剣術〗、〖火魔法〗、〖風魔法〗、〖鑑定〗、〖回避〗、〖瞬動〗、〖跳躍〗、〖毒耐性〗、〖幻覚耐性〗、〖恐怖耐性〗のスキルレベルがそれぞれ1ずつ上がって、新しく〖思考加速〗、〖呪い耐性〗を手に入れた。こんなに上がったのは初めてかもしれん」
「すごいよアル。特に〖思考加速〗なんて、手に入れようと思っても手に入れられるものじゃないし」
「ありがとう。キールさん」
〖思考加速〗は言葉通り思考スピードを加速するスキルであり、使用すると通常よりゆっくり時間が流れるように感じられるようになる。
使用者自身のスピードが上がるわけではないが、体感時間が引き延ばされる分、素早く反応できるようになるため、戦闘においてはかなり有用なスキルなのである。
「確かに良いけど……でも、職業レベルはもっと上がっても良いと思わない? 毎回思うのよね。なぜ強敵を倒したのに、撃破ボーナスの経験値が入らないのか……」
「「撃破ボーナスって……」」
「アルは1人で自分よりも格上のヒュドラを倒したのよ。それだけで2つか3つくらい、一気にレベルアップしてもいいと思うのよ」
リリヴィアは【転生者】であり、転生前の世界にあった、RPGなどのゲーム知識を基準に物事を考えていた。
この世界は確かに剣と魔法の世界であり、<ジョブ>や<スキル>などが存在する。
しかし全てがゲームと同じかというと、実はそうではない。
この世界では魔物を倒しても経験値は入らないのである。
<ジョブ>にせよ、<スキル>にせよ、レベルを上げるためには修行を積まねばならない。
もちろん、実際に戦うことでレベルが上がることも起こり得る。
だがそれはあくまで「実戦という修行を積んだ」ことによるレベルアップであり、ゲームによくある「敵を倒して経験値を得た」ことによるものではない。
リリヴィアも既に両親からそのことを教えられ、知識として知ってはいるが、いまだにこの世界のレベルアップシステムには不満を持っていた。
「まあ、しょうがないさ。世の中そんなもんだ。撃破ボーナスなんてものがなくてもレベルは上がる。それに努力したらその分強くなれるんだから、そんなに悪い世の中でもないぞ」
「まあ、アルが良いなら、それで良いのだけどね」
アルフレッドは不満を言うリリヴィアに対して優しく諭す。
「それより、周りを見てみろよ。いい景色だろ。苦労した分だけ、やり遂げた時はうれしいもんだ。こういう達成感を得るためなら、少しくらい大変でも良くないか?」
彼らの周りには【毒竜白花】を中心とした花畑が広がっている。
毒沼地帯の中心部にあるが、【毒竜白花】の持つ浄化能力によって周囲の毒が浄化されており、そこだけ美しい草花が咲き乱れている。
とても危険な場所とは思えない、見る者の心に癒しを与える景色がそこにあった。
「ふふっ。そうね。……しばらく眺めていたいけど、もうすぐ日没だし、一緒に【毒竜白花】を採って帰りましょう。帰ったら今度は私の冒険話も聞いてね」
こうして皆で【毒竜白花】を採取した後、リリヴィアの次元魔法スキル〖長距離転移〗によって、全員揃って村に帰還するのだった。
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物語世界の小ネタ:
この世界ではステータスを上昇させるアイテムは限られた人しか作れないためとても高価です。
【ナイトメアEX】は、副作用さえなければ、とんでもない値段で取引されたかもしれません。
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