第13話 冒険が終わって

——リンド村にて————————————————————————


 アルフレッド、リリヴィア、キールの3人は村に戻るとエリックやギルドに依頼達成の報告を行い、【毒竜白花】を含む各種素材をギルドに納品した。


 素材の売却については、ヒュドラなどいくつかの素材が都市で開かれるオークションに出品されることになり、その関係で入金が10日程度遅れることになったが、その日受け取った分だけでも売却額はかなりの高額になった。


 そのため、3人とも一部を現金で受け取り、残りはギルドに作った預金口座に預けた。

 ギルドは依頼斡旋するだけでなく、その他にもさまざまな業務を行っている。

 業務の一つとして金融業のようなこともやっているのだ。


 その後リリヴィアの家で食事会をすることになった。

 現在はアルフレッド、リリヴィア、キールとリリヴィアの両親であるエリック、アセロラ、そしてリリヴィアの妹であるポプラの6人で、食事をしながら冒険話に花を咲かせている。


 「樹海って初めて行ったけど、方角が分からないって本当だったのね。準備していた【方位磁針】が役に立たなかったときは焦ったわよ」

 「リリ。前にも言っただろう、アッララト山の樹海は特殊な魔力を帯びているからそうなると。まあ、父さんも初めて行ったときは遭難して、危うく野垂れ死にしかけたけどな。はっはっは。今となってはいい経験だったぞ」

 「ああ、お父さんが考えなしに樹海に突撃しているところが目に浮かぶわ……ところで樹海でドライアドと知り合って仲良くなったのだけど、お父さんは会ったことある?」

 「父さんは会ったことないな。基本的に、精霊は警戒心が強くて滅多に姿を現さないと言われているから、会ったことのある奴はそう多くないはずだ。……リリが会ったドライアドはどんな奴だった?」

 「素直な感じの女の子だったわよ。魔力が欲しいと言われて、思ったより吸い取られたけど。あと外の話に興味があったみたいで色々話したわ」

 「精霊か……あたしも会いたいわね」


 リリヴィアの妹、ポプラが精霊に興味を示す。


 「ポプラ、父さんは別にダメだとは言わないが、十分な実力を身に着けてから行けよ。アッララト山の推奨Lvは〖Lv30〗だから、まずはそのくらい強くなってからだな」

 (俺、〖Lv25〗で向かわされたんだけど……)


 推奨Lvとは、その地域を探索するにあたり、どの程度のレベルが必要になるかを表した目安である。

 ギルドが主な狩場や採取場所に対して場所ごとに設定しており、冒険者たちは基本的にこれを基にその地の危険度を判断している。

 仮に〖推奨Lv30〗となっている場所の場合、「<ジョブ>のレベルが〖Lv30〗以上あれば、死なずにその地を探索できる」ということを示す。

 もちろん絶対に安全とは言い切れないため、多くの場合、冒険者達は推奨Lvを満たしたうえで、数人のパーティを組んで行動する。


 つまり、〖推奨Lv30〗のアッララト山は「〖Lv30〗以上の冒険者数人がかり」で挑む場所ということ。

 〖Lv25〗で、しかも実質単独で山奥まで踏み入ったアルフレッドは、かなり無茶をやったことになる。


 「でもまあ、リリはすごいよ。僕なんか山頂辺りで体調を崩して、全然余裕がなかったからね。仮に精霊がいても話なんてできなかっただろうさ」

 「あれ、キールさんは確か群生地に1番乗りしてたよね?」

 「僕は距離が一番短かったし、狙う素材も2人よりは少なかったからね。それにリリの〖エクストラヒール〗で治してもらわないとどうしようもなかったから、急いだんだよ」

 「キールが体調を崩したのは山の高さのせいね。今回のように標高の高い山に短時間で登ったりすると、よく体調を崩す人が出るのよ。本来ならゆっくり登ったり、ある程度登ったら下に降りるのを繰り返して防ぐのだけど……」

 「アセロラさん。僕にはそんな時間はありませんでした……」

 「キール。冒険中に急に体調を崩すこともある。良い経験になっただろう」

 「……エリックさん。ひょっとして、わざと?」

 「一流はあらゆる困難を克服してこそ一流だ。気合と根性があればなんとかなる!」

 

 エリックの課す修行はとにかく過酷だった。

 そのことを改めて思い知ったキールは泣きそうになる。


 「……エリック師匠。俺も教えてほしいんですが……」

 「何が聞きたい?」

 「なぜ俺のリストに【アースドラゴンの竜鱗】とか、【ヒュドラの毒腺】とか、俺がどう頑張っても無理な素材を入れたんですか? おかげで何回も死にかけたんですけど!?」

 

 アルフレッドはエリックに疑問を投げつけた。

 エリックが無茶な修行を課すのは今更だが、実際に何度も死にかけた身としては、問い詰めないと気が済まなかったからである。

 「気合と根性の精神」ではない、それ相応の意図があるのだと思いたい。


 「ふむ。お前の認識には少し誤りがあるな。どちらも決して無理なものではないぞ。」


 エリックは体ごとアルフレッドの方を向いて、真剣な表情で説明を始める。


 「まず、【アースドラゴンの竜鱗】だが、あそこのドラゴン達は常に縄張り争いをしていて、ドラゴン同士で戦っているし、定期的に鱗は生え変わるから、ねぐらの周辺を慎重に探せば手に入れられるものだ。もちろん探している間にドラゴンに発見され、襲われる可能性も十分にあるが、お前であれば切り抜けることはできると俺は考えている」

 (確かに逃げ回るだけならできていたな。実際にドラゴン同士で戦っていたから竜鱗が手に入ったわけだし)

 「次に【ヒュドラの毒腺】だが、こちらも倒すまではいかずとも、頭の一つを切り落とすことが出来れば、手に入れられる。こちらも簡単ではないが、お前の実力なら、あらゆるスキルを駆使し、死線を越え、全ての力を出し切れば、ギリギリ辛うじて手に入れられると俺は見ていた」

 「いや、確かに全力尽くしてギリギリでしたけど!? ギリギリ過ぎて逃げる力が残らず、死ぬところだったんですけど!?」

 「謙遜するなアル。正直ヒュドラを討伐するとは思っていなかったぞ。どうやら俺はお前の実力を見誤っていたようだ」

 「いやいやいや、討伐できたのはリリが来て剣と薬をくれたからで、1人だったら確実に死んでましたよ!」


 エリックはアルフレッドの実力を正確に測ったうえで素材リストを作っていた。

 そのことには一応納得したアルフレッドだが、リリヴィアの手助けがあったとはいえ、結果的にエリックの予想を超えてしまったことで、今後さらに無茶な修行を課されるのではと不安になるのだった。


 「……あたしだって……」


 話を聞いていたポプラがぽつりと呟いたが、それは誰の耳にも入らなかった。


 「ところでアル、明日の予定を聞いてもいいかしら?」

 「あ、はい。アセロラ師匠。明日は朝に武具店のガントさんのところで、ダメになった装備一式を新調しようと思っています。そのあとは特に予定はないので、普通にいつもの自主練ですね。何かあります?」

 「あなた明後日には魔王退治に旅立つでしょ? その前にあなたにまた修行を付けたいと思ってね。薬屋のカルア婆さんと2人で修行をつけてあげたいから、明日のお昼に薬屋に来れるかしら?」

 「了解です」


 アルフレッドは若干緊張して答えた。


 アセロラはアルフレッドの魔法の師匠であり、これまでもいろいろと魔法関連の技術や知識を教わっていた。

 また薬屋のカルアはアルフレッドに薬の調合を教えている。

 カルアには正式に弟子入りしているわけではなく、【ポーション】などの比較的簡単な薬の調合や基本知識を教わっているだけである。


 カルアはともかく、アセロラは時折アルフレッドに過酷な修行を課してきたため、こういう時は要注意である。


 「決まりね。カルア婆さんにもそう伝えておくわ」

 (落ち着け、アセロラ師匠の修行は、別にエリック師匠のように、毎回命懸けになるわけじゃない。案外普通の講義になる可能性もあるし)


 アルフレッドはなんとなく過酷な試練が待ち受けている気がしながらも、気休めの可能性を自分に言い聞かせていると、


 「ねえ、その修行、あたしも参加してもいいかしら?」


 ポプラが参加を希望した。

 ポプラも冒険者を志しており、姉のリリヴィア同様、両親から剣と魔法の訓練を受けている。

 そしてまだ未熟ではあるものの、かなり優秀な才能を見せていた。

 ちなみにポプラは〖Lv15〗で、Eランクモンスター1体程度であれば問題なく勝てる実力がある。


 「そうね。まあ、いいんじゃないかしら」

 「ありがとう。お母さん。アルも明日はよろしく」

 「アセロラ師匠。ちなみにどんな修行か聞いてもいいですか?」

 「やるのは、錬金術の修行よ。下地となる魔法の知識や技術は既に教え終わっているから、明日頑張れば、簡単なものなら作れるようになると思うわ」

 「分かりました。ありがとうございます」


 この世界では錬金術はエリートの学問とされている。

 魔法を使って薬や魔道具を作り出す錬金術が使えれば、それだけで世間からは優秀な人材とみなされ、凄腕の錬金術師ともなれば国や貴族からも破格の待遇で雇われている。

 そのため、一流冒険者と同様に庶民の憧れの的となっているのである。


 (やった。これならそこまで酷い修行にはならないだろう。それに自分でいろいろ作れるようになれば、旅も大分楽になるぞ)


 アルフレッドも錬金術に興味があったので、修行内容を聞くと不安から一転、期待に胸を躍らせるのだった。




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 物語世界の小ネタ:


 アルフレッドはいろいろな人から技術や知識を学んでいます。


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