第45話 【赤獅子盗賊団】始動

——開拓村の広場にて——————————————————————


 メノアはオットー達との話を終えた後、村の広場で商売を始めていた。

 アルフレッドとリリヴィアの2人も【魔法の袋】から商品を出して敷物の上に並べたり、受け渡しを行ったりとメノアの商売を手伝っている。

 そうして手伝いながらリリヴィアがアルフレッドに話しかけてきた。


 「アル、これからどうする?」

 「どうするも何も、様子を見るしかないだろ。俺らはあくまで護衛だから、メノアさんを放って盗賊退治するわけにもいかないし、下手に手を出してもオットーさん達の邪魔になっちまう」

 「まあそうなんだけど、それだけだとつまんないでしょ?」

 (あ、これ何かやらかす気だ……)


 アルフレッドはリリヴィアの様子から何かを企んでいるらしいことを察して、慌てて予防線を張って牽制する。


 「いやいや、何する気だよ!? 言っとくが、何もかもほっぽり出して盗賊のアジトに突撃するなんてのは無しだぞ! 上手くいく可能性よりも事が拗れて余計に厄介になる可能性の方が高いからな」

 「さすがにそんなことしないわよ。全く私を何だと思ってるのよ……」

 「勢いだけで魔王退治に旅立つ暴走女」


 彼女はアジトへの突撃はしないらしい。

 だがそのくらいやりかねないと思われる程度には、これまで散々やらかしているのであった。


 「うるさいわね!」

 「あ、メノアさん。この商品はどこに置きましょうか?」

 「それはこっちにお願い」

 「分かりました」


 ちなみにこの話をしている間も手伝いの手は止めていない。

 アルフレッドもリリヴィアも商品を運んだり並べたりしながら話している。

 2人とも関係ない話をしながら仕事ができるくらいには器用なのだ。


 「とにかく! 私に名案があるの!! だから聞きなさい!」

 「名案か…… 不安が抑えきれないんだが、一体何なんだ?」

 「何が不安なのよ。まあいいわ。次元魔法〖ディメンション〗」


 リリヴィアは〖ディメンション〗で2、30cmほどの大きさの物体を取り出してアルフレッドに見せる。


 それは全体的には中央が盛り上がった凸型の形をしており、四隅に車輪がついている。

 色は黒で側面にドアがついており、前後左右の上半分には窓ガラスがついている。

 仮に現代の日本人が見たならRCカーだと言うだろう。


 「名案というのはこれよ。偵察用の魔道具を新しく作ったの。まだ試作段階だけど、これを使えば護衛をしながらでも情報収集が出来るわ」

 「えーっと……それがひとりでに動いて偵察してくる感じか?」

 「そうよ。正確にはこっちのリモコンで操作して動かす感じね。この魔道具が動いて情報を集めてくるから私達は動かずに済むし、護衛についても支障は出ないわ」


 リリヴィアはさらに手の平大の四角い物体を取り出す。


 「……すげえな。面白そうだ。具体的にはどんな風に動くんだ?」


 アルフレッドはリリヴィアの手に持たれた魔道具を見て一気に食いついた。

 実は彼も好奇心が強い方だ。


 毎回リリヴィアの暴走を抑えようとしても結局彼女の思い通りに動いてしまうのは、アルフレッド自身が自分の好奇心を抑えきれていないことが原因だったりする。


——開拓村村長オットーの家にて—————————————————


 そのころ、オットーの家では一度退出していたダリオが再びやってきていた。

 彼の表情は固い。

 どうやら用件は深刻な内容であるらしい。


 「オットー、悪い知らせだ。偵察に行った奴らが戻らない」

 「……偵察に向かった4人全員がか?」

 「そうだ。4人全員が戻ってこない。偵察班は全滅したと、そう見なきゃならん。 ……で、どうする? 救出に向かうか?」


 盗賊が潜伏していると見られる場所に向かった者達が連絡を絶った。


 偵察に行っていたのは元冒険者の4人組で、決して道に迷って戻れなくなったり、あるいは約束した時間を忘れたりするような素人ではない。

 ……であるにもかかわらず、事前に決めた時間に戻ってこないということは偵察に行った者達の身に何かが起こり、村に戻れない状態になったということである。


 はっきり言うと、盗賊達に見つかって殺されたか、もしくは捕まっている可能性が高い。


 「う、ううむ……いや、待て。村の守りをこれ以上減らすわけにはいかん……こっちの動きが伝わっちまった以上、盗賊共も様子見を続けることはしねえはずだ。最悪、捕まえた奴を人質にして脅迫してくることもあり得る。見張りの奴らにもこのことを伝えて警戒を強めさせろ。俺も村の周囲を見回ってくる」


 オットーは偵察班の救出に向かうという選択はできなかった。

 彼にも仲間を救いたい気持ちはもちろんある。


 あるのだが、元々の戦力は味方が約20人に対して敵の盗賊団は約100人。

 ただでさえ数が足りないところに偵察の4人がやられたことで、さらに状況は厳しくなっているのだ。


 村を守るためには全力で守りを固めなければならず、彼に偵察班を救うだけの余力はない。

 またはっきりとは言わないが、人質に取られた場合は見捨てることも視野に入れなければならない。


 「分かった」


 ダリオもそれを感じ取っているが、あえてオットーを責めることはしない。

 ただ一言返事をした後、見張りがいる門のところへ向かう。


 「……」


 オットーはダリオが退出したのを見届けた後、使い古した武器防具を身に着けて家を出たのだった。


——【赤獅子盗賊団】のアジトにて————————————————


 開拓村から西に1、2時間ほど歩いた所では盗賊達が集まっていた。

 そこは木々が生い茂る森の中であり、盗賊達はその木々の中に隠れるようにテントを張って臨時の拠点としているのだ。


 その拠点の真ん中では4人の男が後ろ手に縛られており、それを大勢の盗賊達が取り囲んでいる。

 オットーが差し向けた偵察の4人は盗賊達の拠点を発見し、その様子を窺っていたところを捕らえられたのだった。


 「さあて、そろそろ話す気になったか?」

 「……ふざけるな!」


 盗賊達の頭目らしき赤髪の男が捕らえられている男達に話しかける。

 話しかけられた男達は盗賊達に散々殴られていたため、体中に痣ができていた。

 だがそれでも心は折れていないらしく、話しかけた赤髪の男を睨みながら拒む。


 「やれやれ。強情だな。やせ我慢したって、お前らの村はもう終わりだぞ? 素直に喋ればお前らだけは見逃してやろうってんだ。素直になれよ」

 「けっ。てめえらなんかに、話すことなんざ、なにもねえよ」

 「そうだ! 誰がてめえらごときに!」

 「お頭、もういいでしょ。こいつらはとっととぶっ殺して、さっさとあの村を襲っちまいましょうよ。どうせあんな村の戦力なんて大した事ねえですし、それにこれ以上もたついてたら、逃げられちまいますぜ」


 捕虜になった男達が全く口を割る様子が無いことに対し、盗賊の1人がしびれを切らしす。


 「こらこら、そう焦るな。仕事するときは慎重になるもんだぞ。せっかく人質を取れたんだから有効に使わねえとな」

 「はあ」


 だが、お頭と呼ばれた赤髪の男——リオーネ——は余裕の態度を崩さない。


 「まあでも、こいつらを締め上げるのはここら辺にしておくか。最後にちょいと遊んだら行くとしよう。お前ら、襲撃の準備しとけ」

 「分かりました。あんまり時間かけないでくださいよ」

 「けっ、分かってるよ。つうか、お前最近小うるさいぞ」

 「ああ、いえ、別に文句はないんですがね」

 「ったく。さてと。おい、お前ら!」


 リオーネは部下に命じて4人を縛っていた縄を解かせる。

 さらに取り上げていた彼らの武器を返す。

 槍と杖、それから剣と弓矢が捕らえられていた男達の手に渡る。


 「……」

 「喜べ。根性のあるお前らに、チャンスをくれてやる。これから俺と戦って、勝ったら即解放だ。手下の奴らは手出ししねえ。お前らは全員でまとめてかかって来いよ。ボロボロだし、4対1で丁度いいハンデだろ? 俺を殺せば村も救えるぞ」


 リオーネは、意図が読めずに黙っている4人に対して戦いを要求したのだった。

 手下の盗賊達はその場から離れ、少し距離を取ったところに移動した。

 どうやら本当にリオーネ1人で戦うらしい。


 「……舐めやがって! このくらいの怪我なんざかすり傷だ。後悔させてやる!」

 「光魔法〖ヒール〗! 光魔法〖ヒール〗! 光魔法〖ヒール〗!」

 「「「うおおー!!!」」」


 4人はリオーネの言い分にいきり立つ。

 杖を持った【僧侶】が回復魔法を繰り返し唱えて仲間を回復し、全快とまではいかないまでも戦いに支障が出ない程度に回復した【槍士】、【剣士】、【弓士】の3人がリオーネに攻撃を仕掛ける。


 「なかなかいいじゃねえか。ははは。その調子で続けりゃ、俺に掠り傷くらいはつけられるかもな?」


 しかし、リオーネは右手に持った剣と左手に持った小剣で容易くいなす。


 「くそ、〖薙ぎ払い〗!」

 「よっと」

 「火魔法〖ファイアボール〗!」

 「おしいねえ」

 「〖一閃〗!」

 「〖速射〗!」

 「〖二連突き〗!」

 「ほらほら、頑張れ頑張れ」


 4人は必死の猛攻を仕掛けるが、槍や魔法は躱して剣撃と矢は剣で弾き、リオーネは余裕の表情を浮かべたまま捌き切る。


 4人は決して弱くはない。

 元は冒険者で、魔物や盗賊を相手に戦っていた。

 何回かは死地をくぐっており、怪我をした状態での戦いも経験している……のだがリオーネはそんな彼らよりもずっと強かった。


 「そろそろこっちから行くか」

 「ぐあっ!」

 「ぎゃ!」

 「くそ! うぐ!?」


 しばらく相手に攻めさせた後、リオーネは攻めに転じた。

 【剣士】の剣を右手の剣でいなした後、その剣を素早く返して袈裟懸けに斬る。

 さらに【剣士】の脇を素早く通り過ぎ、仲間が斬られたことに動揺している【僧侶】と【槍士】を切り倒した。


 「あっという間に1人だな?」

 「まだまだ! 〖狙い撃ち〗!」

 「遅えよ」

 「ぎゃあ!」


 最後に残った【弓士】の攻撃も難なく躱して斬りつけ、戦闘は終わった。


 「終わりか……」

 「こいつらじゃ不足ですか?」

 「まあな。そこそこ強かったんだが、こいつらのレベルはたぶん20台の後半ってところだろう。冒険者でいえばDランク程度だ。どうせなら、もっと強いやつと戦いてえな」

 「Dランク冒険者っていえば、俺らみたいな普通の盗賊が4人がかりくらいでやっと仕留められる化け物なんですが……」

 「そりゃ、お前らが弱いだけだろ。そんなことよりこいつらを人質にして村を攻めるぞ」


 こうしてリオーネ率いる【赤獅子盗賊団】は捕虜4人が死んでしまわないように手当てを行い、縛り上げたうえで村に向かって動き出すのだった。




————————————————————————————————


 物語世界の小ネタ:


 リリヴィアは魔王退治のために予め色々なアイテムを作っていて、〖ディメンション〗や【魔法の袋】に保管しています。

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