第46話 【赤獅子盗賊団】襲来

——開拓村の広場にて——————————————————————


 「ふふふ。動きは問題なし。これで盗賊のアジトがある西の森に行くわよ!」

 「本当に動いてるのがすごいな。どういう理屈か知らんが、よく作れたな。こんなの」


 広場の真ん中で、リリヴィアは手に持つリモコンで車型の魔道具を操作していた。

 隣でアルフレッドがそれを眺めている。

 彼らのいる敷物の上にはいまだ商品が並べてられているが、いま買い物している者はいない。

 この場にいるのはアルフレッド、リリヴィア、メノアの3人だけである。

 客があらかた捌けたところで、リリヴィアがメノアに魔道具による偵察を提案して了承されたため、さっそく魔道具を村の外に置いて動かし始めたのだった。


 「本当ね。私達は村の中にいるのに、外の様子が分かるっていうのがすごいわ」


 メノアも一緒になってリリヴィアの持つリモコンを眺めている。

 リモコンには操作ボタンの他に画面もついており、そこに車型の魔道具から送られてくる映像が映し出されていた。

 ちなみに魔道具本体は現在、村の西にある森の中に入ったところである。

 リリヴィアの持つリモコンから送られる指示に従って、森の奥の方に向かって走っている。


 「車体の中に小型カメラを入れていて、それが撮った映像をリモコンの画面に送っているのよ」

 「小型カメラ?」

 「まあ、要するに目の代わりになる道具よ」

 「なるほど。ところでこの魔道具は何て言う名前なの?」

 「……まだ名前は付けてないわ。試作したばっかりだし」


 リリヴィアは得意げな顔で説明していたのだが、名前を聞かれると顔を背けた。


 「ふーん。ひょっとしてまだ作り足りないところなんかがあるのか?」

 「鋭いわね…… そうよ。私としては空を飛べるようにしたいの。これだとどうしても視点が低くなってしまうからあまり遠くは見えないし、動かすにも地形の影響をモロに受けちゃうからね…… これで完成、ということにはしたくないの」

 「離れた所の景色が見れるだけでも十分すごいと思うのだけど、空を飛べるようにするなんてできるの?」

 「翼を付けて風魔法を上手く組み込めば、出来るはずなんだけどね。ただ、空中を上手く動き回るためには術式の微調整とか、機体の形とか重量とかを細かいところまで詰めて色々と試さないといけないのよ。そんなわけで今回はとりあえず地面を走る車タイプで我慢するしかないの」

 「なるほど」


 リリヴィアからすると今回の小型偵察車はまだ未完成らしい。

 彼女はリモコンを操作しながらアルフレッドやメノアからの質問に答える。


 「ところで、この魔道具は距離の制限とかはあるのか? 確か盗賊のアジトって結構離れてるんだろ」

 「その辺はリモコンの魔力次第ね。リモコンの操作をする際に車に向けて魔力を送るわけだけど、それが届く限り車は動かせるの。逆に届かなくなったら動かせないし、車からの映像も途切れるわ」

 「なるほど。それで具体的にはどのくらいの距離まで動かせるんだ?」

 「具体的には分からないわ。たぶん3~4kmくらいは行けると思うんだけど、地形とか障害物によっても左右されるし、実際の検証が出来ていないのよ。というか、今やってる偵察でそこら辺も一緒に検証している感じね」

 「ふむふむ」

 「あっ! オットーさん発見! 気絶した人を担いでいるみたいだけど、盗賊捕まえたのかしら?」

 「たぶんだが、そうなんだろうな」


 車から送られた映像にはオットーは部下を1人連れて、気絶した人間を2人ほど左肩に担いで村の方に歩いているのが映し出されている。

 担がれた人間は手足を縛られており、恐らくは村の様子を探っていた盗賊がオットーに捕まったのだろう。


 「【赤獅子盗賊団】との戦いは順調なのかな?」


 その様子をリモコンの画面越しに見ながらアルフレッドが呟く。

 彼からすると話に聞いた以上のことは分からないため、現状が良いのか悪いのか判断できないのである。


 「さあ? 分からないけど、もうすぐ何かしらの動きがあるんじゃないかしら。盗賊団にしても立て続けに手下が捕まっている以上、このままじゃいられないだろうし。 ……たぶんもうすぐ襲ってくるか、もしくは逃げ出すかすると思うわ」


 リリヴィアは自分の推測を口にする。

 アルフレッド達が村に来た時点で既に数人捕まっており、今もこうして2人捕まったということは、盗賊団にとっては良くない展開のはず。


 盗賊団からしてみればいつ討伐されるか分からない状況だ。 

 一気に村を攻め落とすか、遠くに逃げるか、いずれにしても何か手を打たなければ状況はどんどん悪くなる。

 従って、盗賊団が何かしてくる可能性が高いというわけである。


 「とりあえず、偵察続行よ。森の奥に向かいましょう」


 リリヴィアはさらなる情報を求めて小型偵察車を進めるのだった。


——開拓村近くの森にて—————————————————————


 「お頭、偵察しに行った奴らが戻らねえ」


 アルフレッド達が偵察を開始して約10分後、森の中で100人近い男達が集まって話し合っている。

 男達はもちろん【赤獅子盗賊団】である。

 彼等はこれから開拓村を襲おうというところなのだが、村の様子を探るために行かせた偵察が戻らず、困惑した顔でお頭と呼ばれる男を見ている。


 「ふーん。村の奴らにやられちまったわけか。ってことはまだまだ戦力がいるわけだ」


 【赤獅子盗賊団】の首領、リオーネは何でもないことのように、むしろ嬉しそうに言い切る。

 その表情には余裕の笑みがあった。

 報告した部下は、まだそうと決まったわけじゃないと言いたくなるが、しかし戻ってこないということはそういうことなのだと思い直す。


 「楽しそうですねお頭……俺らからするともっと楽がしたいんですが」

 「バーカ! この世は楽しんでナンボだぞ? それに、ただの弱い者いじめより血沸き肉躍る殺し合いの方が楽しいに決まってるだろうが!」


 リオーネはいわゆる戦闘狂である。

 彼は物心ついたころから戦いの中で生きていた。


 元々はとある街の孤児であり、その街の犯罪組織によって戦闘技術を仕込まれ組織同士の抗争などに兵隊として使われていた。

 数年前にその組織が壊滅すると彼は街から逃亡して野盗になり、国の取り締まりを掻い潜りつつ各地で悪事を重ね、次第に部下を増やして今に至る。


 そしてそんな環境で生きていく中で、彼は強くなり、狡猾にもなり、戦いを求めるようにもなっていたのだ。


 「ふふっ、相変わらずですね。その病気がなけりゃいい親分なのに」

 「何笑ってんだよ」


 リオーネは人としてどうかと言わざるを得ない性格なのだが、一方でその怖いもの知らずな部分に惹かれる者もおり、高い実力と相まって不思議と人望があるのだった。


 「おら、無駄話してないでとっとと行くぞ!」

 「「「へい!」」」


——開拓村の門前にて——————————————————————


 「おい、今戻ったぞ。門を開けろ!」

 「オットーさんが戻ってきたぞ!」

 「お疲れ様です! そいつらは盗賊ですか?」


 その頃、オットーは捕まえた盗賊2人を担いで村に戻っていた。

 門番をしていた男達がオットーに駆け寄って話しかける。


 「ああ。ちょいと問い詰めたら、あっさりと本性を現して襲い掛かってきやがったよ。それで返り討ちにして仕留めた」

 「さすがオットーさん。それじゃあこいつらも村の地下倉庫に放り込んで、さっそく尋問ですね」

 「いや、放り込みはするが、尋問は後回しだな。たぶんこいつらは襲撃前の最終確認として送り込まれた偵察だ。だとすると、もうすぐ敵の本隊が来やがるぞ。警戒を怠るな! 盗賊なんぞ、いくらでも返り討ちにしてやれ!」


 オットーはそう言って捕らえた盗賊2人を門番達に渡し、同時に周囲の男達に対して襲撃に備えるように指示を出す。


 「「はい! 了解です!」」


 門番達は渡された盗賊を担いで牢屋代わりに使っている地下倉庫に運び、それ以外の男達は迎撃のための配置について戦うための覚悟を決める。


 「赤獅子だか何だか知らんが、どこからでも来やがれ! ここを狙ったこと、後悔させてやる!」


 オットーは厳しい表情でそう呟くと、村の中へと戻っていくのだった。

 そしてそれから数十分後、【赤獅子盗賊団】が門の前に姿を現すのである。




————————————————————————————————


 物語世界の小ネタ:


 開拓村にはいろいろな人が移住してきます。

 例えば都市で職を失った失業者とか、農村で自分の畑を持てない小作人など。


 暮らしは大変ですが、成功すれば自分の土地や畑が手に入るので、それを夢見てやってきています。

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