第47話 【赤獅子盗賊団】脅し合い(sideオットー)

——開拓村の門前にて——————————————————————


 「こいつらの命が惜しけりゃ金よこせ! ギャハハハ!」

 「身代金は1人1万セントだ! 何ならもっと吹っ掛けてやってもいいんだぜ?」


 門の前でガラの悪い男達が騒ぐ。

 彼らは【赤獅子盗賊団】。

 捕らえた元冒険者の村人4人を丸太に縛り付けて身動きできないようにし、剣を突き付けて村を脅しているのだ。


 「ふざけんな! ぶっ飛ばされたくなかったらさっさと開放しろ!」

 「そうだそうだ! 逃げられると思うなよ、てめえら!」

 「俺たちの村を襲ったこと、きっちり後悔させてやる!」


 門の近くにある物見櫓にオットー、ダリオを含む数人がいて口々に言い返す。

 当然だが門はきっちりと閉じられており、門の内側には10人ほどの村人達が武器を持って襲撃に備えている。


 「けっ、随分な態度だが、こっちには人質がいるってことを忘れるなよ! 何なら一人くらい、見せしめに殺してもいいんだぜ?」

 「とっとと金を用意すりゃ良いんだよ、ボケ!」


 盗賊達はなおも言い募る。


 「人質ならこっちにもいるぞ! よし、1人連れてこい!」

 「合点承知!」


 それに対し、オットーは捕らえた盗賊を連れてくるように命じ、すぐに1人の男が引き立てられてきた。


 「助けてくれぇ! こいつらやべえ!!!」


 人質として連れてこられた男は後ろ手に縛られ、心を折られて泣き叫んでいた。

 見た目もボロボロでパッと見た感じ、盗賊に捕まった4人よりも酷い目にあわされたっぽい。


 ついでにオットーの人相も極悪人そのものだ。

 傍から見ると、まるで村を占拠した山賊が村人を人質にしているようにしか見えない。


 「こっちはこいつを含めて5人捕まえてんだよ! お前らこそ降伏しろ! 仲間を助けたいならなあ!」

 「ふ、ふざけんな! 俺たちゃ盗賊だぞ! 人質なんか効くか!」

 「あーあ。やっぱ盗賊には仲間意識なんかねえか。じゃあとりあえず、小指から切り落とすかなあ。 ……確か小指切り落とされたら握力が無くなって、剣が持てなくなるんだったっけ?」

 「ひいっ!?」


 オットーは悲鳴を上げる人質の小指に剣を添えた。

 その言動は完全に凶悪犯罪者のそれである。


 「運が悪かったなお前。恨むならお前を見殺しにした、血も涙もないそこの仲間たちを恨むんだな」

 「いやいや、血も涙もないのはお前だろ!」

 「ああ!? 何言ってんだ!! 村長が村を守るためにいろいろやるのは当然だろうが! これは正義の行いってやつだ! お前らこそ村を襲うなんて非道な真似をするんだから、どうなっても文句言えないよな?」

 「いや、だが……」

 「例えばだが、『指を失くして剣を持てない』なんて理由で戦えなくなった奴が、それを聞きつけた奴から復讐されるなんてこともあるだろうな。てめえら、あちこちの村を襲ってるらしいなあ? そんなところにこいつや他の捕虜を丸腰で放り込んだら、一体どうなるだろうなあ? へっへっへ」

 「ひどすぎる……」

 「絶対正義の行いじゃない……」

 「どうして俺達が脅されているんだ…… 人質まで取ったのに……」

 (((さすがオットーさん。凶悪すぎる……)))


 捕まった仲間がなぶり殺しにされる光景を幻視して、盗賊達は青ざめる。

 とても正義の味方には見えないオットーを見て、盗賊達は最初の勢いを失くしていた。

 そして味方の村人達も若干引いていた。


 「い、一体何者だお前!」

 「何者も何も、俺は真っ当な開拓村の村長だよ? 真っ当に生きて、真っ当に冒険者やって、そんで今はここの村長だけど何か?」

 「こいつはあの【冥府の獄卒熊】だ…… 俺達はやべえ所を襲っちまった……」

 「【冥府の獄卒熊】!?」

 「聞いたことあるぞ。盗賊狩りを専門にしている冒険者で、捕まえた盗賊をなぶり殺しにするのが趣味っていうイカれた奴だ」


 盗賊達の問いに、人質にされている男が答え、それを聞いた盗賊達に動揺が広がる。

 ちなみに男の前にオットー自身も答えているのだが、こちらは完全にスルーされている。


 「俺も聞いたことある。捕まえた人間を面白半分に火炙りにしたり、底なし沼に沈めたりするらしい」

 「それ冒険者なのか!? 殺人鬼じゃなくて!?」


 【冥府の獄卒熊】はかなり恐れられているらしい。


 「ひでえこと言うなよ。そいつは俺に逆恨みした奴が流している根も葉もない噂だぜ。俺は降伏した奴には優しいんだ。だが捕まった奴が勝手な噂を流しやがるんだよ全く」

 「……」


 オットーが語り出したため、盗賊達は一旦黙ってその話を聞く。


 「寒いと言っている奴がいたから火を焚いてやった。そいつの真下でな」

 「真下!? それ火炙りじゃ……」

 「のどが渇いたという奴がいたから、沼の水をたらふく飲ませてやった。気絶するまでな。ああ、言っとくが底なし沼じゃなかったぞ。そんなに深くは沈まなかった」

 「沈めたことに変わりないのかよ!」

 「沼の水って飲んで大丈夫なのか!?」

 「もちろん殺してなんかないぞ! 衛兵に引き渡すときなんか泣いて喜んでやがったしな。 ……だというのに、あいつら全く感謝せずに鬼畜だの人でなしだのと勝手な事ほざきやがってよお! まったく揃いも揃って恩知らずな奴らだぜ」

 「泣いて喜んだのって、お前から解放されたからだろ絶対……」

 「まさに鬼畜じゃねえか……」

 「どう考えてもカタギのやることじゃねえ……」

 (((そんなことやってたんだ……)))


 語られた話の内容に盗賊達はドン引きする。

 ついでに村人達も引いている。


 「まあ、俺のことなんかどうでもいい。おいお前ら、いますぐ武器を捨てて降伏しろ! そうすれば国に突き出すまでの間、命は保証するしこの俺がしっかりと面倒見てやるよ。今言った奴らのように」

 (((え? 降伏しても火炙りなの?)))

 「あくまで抵抗するってんなら、本物の地獄ってもんを教えてやるよ! さっき鬼畜だのなんだの言った奴がいたが、俺がどれだけ優しく接してやっていたかを分かってねえ! ちょっと火で炙ったり、沼に潜ったりする程度が地獄なわけないだろう。それはまだ天国だっ!!!」

 「「「どんだけヤベエんだよおーーー!!!」」」

 「それ降伏勧告のつもりか!? 虐殺宣言にしか聞こえねえんだが!?」

 「俺達盗賊でもそこまで酷いことはしねえぞ……」

 「ここ、ほんとに村なのか? 実は村に偽装した山賊のアジトとかじゃねえの!?」

 「何でこんなところ標的にしちゃったんだ俺達……」

 「お、落ち着け! ビビったら負けだ!!」


 オットーの降伏勧告(?)を受けてパニックになりかけた【赤獅子盗賊団】だったが、1人の男が流れを変えようと声を張り上げる。


 「いいか良く聞け! あいつは虚勢を張っているだけだ! 探知系のスキル持ちが調べた結果、この門に集まっている敵は10数人程度。状況や村の規模から考えて、他に敵がいたとしても2~3人ってところだ。多くても俺達の5分の1以下しかいねえ! 落ち着いて、向こうの勢いに飲まれさえしなければ絶対勝てる!」

 「そうなのか…… いや確かに!」

 「そうだ! その通りだ!」

 「ちっ……」


 冷静に彼我の戦力を分析した男の言葉によって、盗賊達は落ち着きを取り戻す。

 そしてその様子を見ていたオットーは苛立ちまぎれに舌打ちする。


 「あいつは、まともにぶつかっちまうと勝てねえから、恐怖心を煽って俺達が逃げるように仕向けているだけだ。【冥府の獄卒熊】の話だってどうせデタラメ———」

 「あぁあん?」

 「———とまでは言わなくても、きっと多少は大げさに言っているんじゃないかと思うぞ。たぶん……」


 味方の恐怖を振り払うために、いま聞かされた話はデタラメだと言おうとしたのだが、オットーが極悪な顔で地鳴りのような声をあげて遮る。

 そして男は思った。

 奴の話はマジかもしれない、と。


 「日和るな! お前の言っていることは正しい! たぶん」

 「そうだ! それに要は勝てばいいだけの話だろ! あいつの話がほんとでも」

 「そうだそうだ!」

 「お前ら……」


 周囲の仲間達が男を励ます。

 たぶん、とか言っているが気にする者は誰もいない。

 励まされた男は感動し、嬉しそうに言った。


 「ありがとよ。もしダメでもそん時はみんな一緒に、地獄に落ちようぜ!」

 「「「いや、それは勘弁!」」」

 「おおーい!?」


 ただ、仲間の盗賊達は地獄には落ちたくないらしい。


 「当たり前だろっ! あんな話聞かされて、誰が地獄なんか味わいたいと思うよ!」

 「ダメだった時はお前が時間稼ぎしてくれ。その間に俺達は逃げるわ」

 「お前、確かここ襲うの賛成してたよな? 失敗したらお前の責任ってことで、犠牲になってくれ」

 「おいこら薄情者共!」


 あっさりと態度を翻して仲間内で言い争う【赤獅子盗賊団】。

 だがそこには、先ほどまでの浮足立った雰囲気は無くなっていた。

 その様子をオットーは眺めながら眉を寄せる。


 (なんだかんだで立て直したか。まあ、最初から脅しただけで退くとは思っていなかったが。 ……それよりも気になるのはリーダーのリオーネらしき人間がいないことだ。目の前の盗賊共をまとめているのは、今言い返してきた黒髪の男だが、頭目というよりはせいぜいその代理ってところだな。何より聞き出していた人相と見た目が違う。リオーネはどこにいる? それに騒ぐばかりで一向に仕掛けてくる様子がないってのもおかしい……)


 オットーは盗賊達と言い合いをしつつ様子を探っていたのだが、その結果おかしな点に気付いたのだった。


 「ダリオ……」


 オットーは少し考えた後、小声で側にいるダリオに話しかけた。




————————————————————————————————


 物語世界の小ネタ:


 オットーは決して悪人ではありません。

 ちょっと敵に対して容赦がないだけで、この世界における基準では一応善人の部類です。

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