第48話 【赤獅子盗賊団】侵入
——開拓村の広場にて——————————————————————
「人質を取られたと知ったときはどうなるかと思ったけど、意外と何とかなりそうだな」
「そうね。会話の内容は分からないけれど、オットーさんが主導権握っているのは何となく分かるわ」
オットーが【赤獅子盗賊団】を相手に、「寒いと言っている奴がいたから火を焚いてやった。そいつの真下でな」などと言っている頃、アルフレッド達は村の広場で偵察車から送られてくる映像を眺めて感想を言っていた。
偵察車は現在村の門から少し離れた丘の上に陣取り、オットー達の映像をリリヴィアの持つリモコンに送っている。
少し前まで、アルフレッド達は情報収集のためにリリヴィアが作った小型偵察車を走らせていた。
だが、盗賊のアジトを目指している途中でオットーから「もうすぐ盗賊達の襲撃があるから、戦えない奴らは広場に避難していろ」という指示があり、一旦情報収集を中断することを決定。
さらにオットーからの要請で広場に避難する村人の護衛を請け負うことになった。
女子供など戦えない村人達がオットーの指示を受けて続々と広場に避難してくる中、アルフレッドは万が一村の中に侵入された時のためのバリケード設置を手伝い、リリヴィアは遠隔操作している偵察車を一旦村に引き上げさせる。
引き上げの途中で軽く道に迷って、偵察車は丘の上に出てしまったのだが、運よく盗賊達が押し寄せている村の門を見渡せる位置だったので、そのままそこに待機させて様子を窺っていたのだった。
「それにしても、何をしゃべっているのか気になるわね。とりあえず人質を取り合っているのは分かるけど……」
「……まあ、冒険者時代は盗賊狩りをやってたらしいからな。たぶんだけど、その時に培った交渉術みたいなのがあるんじゃね?」
リモコンに送られてくる映像にはオットーの悪人面がバッチリ映し出されている。
偵察車のある丘からオットー達がいる門まではそこそこ距離があるのだが、リリヴィアが作った偵察車には遠くのものを映し出すための望遠機能があり、画面の一部が拡大される形でオットーの表情や盗賊達の後ろ姿が映し出されているのだ。
その一方で音を拾うことはできないので、会話の内容等は分からず、そこでどんな会話がなされているかは想像するしかない。
それはそれとして、映像を一見するだけだとオットーの方が悪人に見えるのだった。
「それにしても森の探索は結局空振りだったし、いまも門でのやり取りは聞き取れないし、やっぱりにわか作りじゃ役に立たないわね。今度はもっときちんとしたドローンを作らないと」
「ドローン? まあ、そんなに落ち込むことでもないと思うわよ。こうして門の様子が分かるだけでもみんな落ち着いていられるしね」
愚痴るリリヴィアに対してメノアが宥める。
ちなみにここにいるのは3人だけではなく、当然避難してきた村人もいる。
村人達も門の様子は気になるらしく、彼等は3人の後ろからリリヴィアの持つリモコンの映像を覗き込みつつ、小声で「オットーさん、めっちゃ悪い顔してるな」とか「絶対何人か殺ってるでしょ、あの顔」などと話している。
(((やっぱり、身内から見ても悪人に見えるんだ……)))
村を守っているはずなのに、守っている村人からも悪人認定されてしまうオットー。
もちろん本気でそう思われているわけではなく、冗談の類なのだが。
後ろから聞こえてくる村人達の声を、やっぱり、と思いつつアルフレッド達は映像を見守る。
「あ、端っこの方、何か動いた」
「えっ?」
そんな中で不意に後ろから気になる言葉が聞こえてきた。
アルフレッド達がその声の方に振り向くと10歳くらいの少年がリリヴィアの持つリモコンを指差している。
「なあ、どの辺が動いたのか教えてくれてもいいか?」
「この辺だよ」
アルフレッドの質問に、その少年はリモコンの画面に映し出されている1点を指差す。
そこは門からは離れた村の隅だった。
「うーん…… 特に何か動いているようには見えないな」
改めて見てみるが村の周囲を覆う柵や家などの建物があるだけだった。
「確認ですけど、村の人達は全員ここか門のところにいるんですよね?」
念のため、アルフレッドは近くにいる村の女性に確認する。
「ええ。そのはずよ。村で戦える人は全員門のところだし、戦えない人は皆ここに来ているわ」
その女性——ファルというらしい——はアルフレッドの予想通りの回答を返す。
盗賊襲来に先立って行われたオットーの避難指示は的確であり、住民は特に大きな混乱もなく門または広場へと移動を完了していた。
彼らはもともと普段から有事に備えて誰が「戦える者」で誰が「戦えない者」なのか予め決めている。
そのうえで今回のような襲撃を想定した避難訓練を数回実施しているため、例えば自分がどこに行っていいか分からず迷子になる、というような者はいなかった。
仮に村人だったとすれば、あり得るのはオットーから指示を受けた者が見回りを行うことなのだが———
「……察知系統のスキルには特に反応なし。特に見回りがされているってわけではなさそうね。動物なんかもいないわ」
———リリヴィアの察知スキルに引っかかる者がいない辺り、それはなさそうである。
気配を消すスキルやアイテムがあれば察知スキルに引っかからずに行動できるが、見回りをするのに気配を消す必要はないため、問題の場所に村人はいないと考えてよい。
「ちなみに〖気配察知〗スキルで確認した限りだと、門のところに来ている盗賊は95人で既に捕まえている奴を合わせて丁度100人。一応は前情報の人数と一致するわ。 ……アル、どうする? ただの見間違いの可能性もあるけど?」
「俺が行って様子を見てくる。リリはここを頼む」
仮に見間違いでないのであれば、盗賊が侵入した可能性が高い。
オットーの家で聞かされた前情報によると、盗賊の規模はあくまで「100人程度」ということだった。
なのできっちり100人捕捉できていても、その他に数人くらい別行動をとっている可能性は否定できないのだ。
村の戦力のほとんど全てが門に集められている現状で、もしも気付かないうちに入り込まれていたとすれば一大事である。
そのまま不意を突かれて村が蹂躙されかねない。
早急に調べて、もし本当に盗賊が侵入していたのであれば、向こうが攻撃してくる前に倒さねばならない。
「OK。私の方でも〖気配察知〗や〖魔力探知〗で様子窺ってるから、もし危なくなったら駆けつけるわ」
「ああ、その時は頼む。それと、俺と入れ違いにここが襲われる場合もあるからそこのところも気を付けとけよ」
「分かってるわよ」
「メノアさん、そういうことなんでちょっと行って調べてきます。ファルさん、念のため他の人達にも注意を促しておいてください」
「分かったわ。気を付けて」
「私も分かったわ。悪いけどお願い」
アルフレッドはリリヴィア、メノア、そして村人のファルにそれぞれ一言ずつ言い置くと問題の場所に向かって走り出した。
——開拓村の一角にて——————————————————————
(さて、もうすぐあの男の子が指差した場所に着くんだが、〖気配察知〗には何の反応もないな)
広場を出てから数分後、アルフレッドは問題の場所のすぐ近くまで来ていた。
そこには数軒の家と畑そして小さな林があり、奥には村の周りを囲んでいる柵があるだけで今のところ特に怪しい点はない。
オットーの開拓村は家や畑が所々にあってそれなりには広いものの、しかしそうは言ってもアルフレッドが走れば村の中心から端っこまで移動するのにそんなに時間はかからないのだ。
彼は盗賊に襲われる可能性を考慮し、到着する手前で一度止まって〖気配察知〗や〖ソナー〗を発動した。
だがやはりそう都合良くはいかないもので、侵入した盗賊の気配を掴むことはできなかった。
〖気配察知〗は前述の通り気配を消すスキルやアイテムで誤魔化すことが可能であるため、これだけで判断することはできない。
(〖ソナー〗を試してみても分かるのは直近の障害物のみ。レイドクエストの後にカムさんから教えてもらった話だと、熟練者なら半径百メートル程度は調べられるらしいが、今の俺にはできそうにないな。)
〖ソナー〗は周囲に魔力を飛ばし、反射してくるそれを感じ取ることで地形や障害物を調べる技法なのだが、調べる範囲が広くなればなるほど、処理しなければならない情報量も増大するため、どの程度の範囲を調べられるかは使用者の技量次第なのである。
アルフレッドは数日前のレイドクエストで初めて〖ソナー〗を知り、その後数回練習した程度であるため、そこまで練度は高くない。
【不死教団】のガストンとの戦いではこれによって上手く窮地を凌ぐことが出来たものの、本来は相応の訓練を積まなければまともに扱うことのできない高等技術なのであり、今はまだ使いこなせているとは言えないのである。
(本当にあの男の子の見間違いって可能性もあるけど……ん? なんかあの家、煙が出てないか!?)
その時近くの家から火の手が上がったのだった。
「げっ、火事かよ!?」
特に人の気配などは何もなかったにもかかわらず、突然火が出てあっという間に家が1軒燃え出したのだ。
「何で……って、考えるまでもねえな。侵入した奴らが放火しやがったな! ちくしょう!」
————————————————————————————————
物語世界の小ネタ:
オットーの開拓村は結構広いです。
移住してきた人に十分な土地を与えるため、村の周囲を囲む柵はかなり広めに作っているためです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます