転生者の幼馴染 ~周りに振り回された末に英雄になった俺の冒険譚~
西
プロローグ
第1話 プロローグ
「どうしてこうなった……」
とある地方都市の街中で一人の少年が頭を抱えていた。
少年の名はアルフレッド・ガーナンド(通称アル)。
身長約170センチ、中肉中背で若干筋肉質な体つきで短い金髪の少年だ。
今年15歳となり、小さいころから憧れていた冒険者になったばかりの駆け出しである。
彼は今大きな問題に直面していた。
「アル、どうしたの?」
この状況を作り出した元凶がアルフレッドに声をかけてくる。
リリヴィア・ファーレンハイト(通称リリ)。
こちらは身長約160センチ、セミロングの銀髪に気の強そうなつり目と整った顔立ちでスタイルも良く、見た目だけなら文句無しの美少女。
……なのだが性格や能力面がぶっ飛んでいて言い寄る男は1人もいないという、そんな女の子だ。
彼女はアルフレッドの幼馴染であり、彼と一緒に冒険者になった。
その少女が原因だった。
「どうしたのって……」
お前のせいだよと思いながらアルフレッドは今朝の出来事を思い返していた。
——回想開始——————————————————————————
「リリ、今日これからギルドに依頼を見に行くんだが、一緒にどうだ?」
その日、アルフレッドは自宅の前でリリヴィアに話しかけていた。
2人は冒険者として登録して、初心者向けの講習を終えたばかりであり、これから冒険者としての活動を始めようというところである。
「ふふん。私達がやることはすでに決めてあるわ」
「えっ!? 私達?」
この場には2人しかいないため、私達ということはアルフレッドも含まれることになる。いつの間にかこちらの予定まで決められていたらしい。
「魔王退治よ!!」
「はあっ!?」
「魔王グリードを討ち取って一気に有名になるのよ。面白いでしょ? 早速出発するわよ!!」
「待て待てぇっ!」
魔王グリードとは数年前に現れた魔物の王である。
鬼系統の上位種とされており、ゴブリンやオーガ、トロールなどを中心とした軍勢を率いていくつかの国を滅ぼしている存在で、大国の軍隊も打ち破ったらしい。
魔王自身も恐ろしく強いうえに多数の配下を従えており、どう考えても駆け出し冒険者が狙うような獲物ではない。
「無茶過ぎだよっ! 普通の駆け出しは魔鼠退治や簡単な薬草採取とかやりながら経験を積んでいくもんだろ」
「私達なら大丈夫!」
「大丈夫じゃねぇっ! だいたいだな……」
「うるさいわね、大丈夫って言ってるでしょ! とにかく旅立ちよ。ふんっ!」
「がふっ!?」
リリヴィアの拳がアルフレッドの鳩尾にめり込み、アルフレッドは意識を手放した。
——回想終了——————————————————————————
「これ、誘拐だぞ! 金もないのに、どうやって帰れっていうんだよ!!」
アルフレッドはリリヴィアによって気絶されられた後、起きないように睡眠薬を盛られたうえで、馬車に乗せられて運ばれた。
馬車は彼らの故郷の村リンドと今いる街イーラを結ぶ定期便なのだが、御者や他の乗客に対してはリリヴィアがうまくごまかしたらしい。
彼が目覚めた時は既に街に着いた後だった。
当然彼は村に帰ろうとするが、それはできなかった。
なぜならこの世界には魔物が存在していて危険だからである。
今いる街と故郷の村との間にも魔物が出没する場所があり、距離自体もそれなりに離れているため、彼が安全に帰るためにはギルドが運営している馬車の定期便を利用する必要がある。
……だが、彼は無理やり連れてこられたため馬車代がなかった。
金がないため馬車に乗れず、徒歩では道中で魔物に襲われる危険がある。
剣や盾、背嚢など冒険に必要なものは持っているため、絶対に無理というわけではないが、あえて危険を冒す気にはなれなかった。
「観念して、魔王退治に行きましょうよ。宿代くらいなら私が出すわよ」
「絶対ヤダ! ……あと宿代もいらん。迷惑料代わりに金だけもらおうかとも思ったが、そうするとズルズル引きずられてお前の思い通りに進んじまうからな!」
アルフレッドはそう言って、今まで散々振り回されていた記憶をいくつか思い返す。
彼らは小さいころから冒険者になるための修行として2人で色々学んでいたのだ。
8歳のころ、剣の素振りをしていると、リリヴィアが模擬戦をやりたいと言い出し、偶然来ていた冒険者に挑み、その後なぜか村に迷い込んだ熊と命がけで戦う羽目になった。
10歳のころ、薬草の調合を学んでいると、リリヴィアが調合した薬を飲むことになり、結果1日中寝込んだ。
その後も度々実験台にされ、泡を吹いて倒れたり体が痺れて動けなくなったり等、散々な目にあった。
13歳のころ、村の近くにゴブリンが出現したため、リリヴィアが退治すると言ってゴブリンの巣に突撃し、それを止めきれずに自分もゴブリンの巣に突撃して2人でゴブリンの群れを討伐したら、吸血鬼が出てきた。
その吸血鬼は封印された邪神を復活させて世界征服を目論む集団の一員であり、2人が討伐したゴブリンを尖兵として使っていたため、その吸血鬼や吸血鬼が所属する集団とも戦う羽目になり、最後は復活しかけた邪神を再封印した。
実はこの2人は既に魔王退治に匹敵する偉業を成し遂げていたりするのだが、アルフレッドにその認識はない。
ただ大変な目にあった、と思うだけである。
「強情ね……」
「なんたって、ゴブリン退治に行って成り行きで邪神を倒すなんて経験があるからな。」
「別に倒してはいないでしょ。復活しかけたところを再封印しただけで」
「森に狩りに行ったら、なぜか地割れに巻き込まれたことあるし」
「魔法の練習で巻き込んじゃったのは悪いと思っているわよ。もう謝ったでしょ」
「昨日も川へ釣りに行っただけなのに、ドラゴンに出くわした。戦わずに済んだけど……」
「えっ? それ知らないんだけど? 私関係なくない?」
アルフレッドはリリヴィアと関係ないところでもよくトラブルに巻き込まれていたりする。
本人は自覚していないが、実はかなりのトラブル体質であった。
ちなみに昨日出くわしたドラゴンはたまたま迷い込んできただけであり、そのドラゴンは特に襲い掛かってくることもなく飛び去ったので、大惨事にはなっていない。
「まあ別に全部がお前のせいだと言っているわけじゃねえさ。だが魔王退治になんか行ったら、それ以上の何かと戦う羽目になりそうな気がする……」
「魔王以上の存在って邪神くらいでしょ。何とかなるわよ。むしろ楽しみじゃない?」
「楽しみじゃねーよ! それより俺は依頼をこなして冒険者ランクを上げたいんだよ」
「魔王倒したら一気にランク上がると思うわよ? やってみない?」
「俺の目標はあくまで、一歩ずつ、地道に経験を積んで、ランクを上げていくことなの!」
「なによ、そのこだわり。……私達なら絶対勝てると思うのに」
「私達っていうか、勝てるのお前だけだろ。俺は魔王と戦ったら瞬殺される自信があるぞ……」
この世界では強さの個人差が大きい。
<ジョブ>、<スキル>などが存在し、それらの才能に恵まれた者や長年修行してきた者の中にはドラゴンなどの強力な魔物と互角以上に戦える者もいる。
リリヴィアは【勇者】の<ジョブ>を持つ、恐ろしいほど才能に恵まれた人間であり、本当に魔王に勝ってもおかしくないくらい強い。
彼女は【転生者】でチート能力を持っている、などと過去に打ち明けてきたことがあり、そのため人類最強格といっても過言ではないくらい、とにかく強い。
一方でアルフレッドは幼いころから鍛えてはいるものの、才能自体は凡人の範疇であり、強さは普通の冒険者とそう変わらない。
彼の<ジョブ>は【斥候】であり、それほど珍しいものではない。
彼がまだ駆け出しの身で普通の冒険者並みの実力があるということを踏まえれば、十分強いといえるのだが、魔王と戦うには実力も経験も足りないのだ。
「とにかく俺は自力で帰る。お前もあまり無茶するなよ。じゃあな」
ここで別れないと本当に魔王退治の旅に出ることになると思ったアルフレッドはリリヴィアと別れ、街のギルドに向かった。
もちろんギルドで依頼を探して故郷の村までの馬車代を稼ぐためである。
また宿に泊まるだけの金もないので、ギルドに頼み込んで泊めてもらうためでもある。
(リリのやつ、無茶ばっかりしやがって。誰が魔王退治になんか行くか。 ……まあ、あいつのことだから何だかんだで上手くやるだろ。 ……たぶん)
ちなみにこの時点では一緒に行く気などない彼だが、この後色々あって、結局はリリヴィアと一緒に魔王退治の旅に出ることになる。
彼のトラブル体質は、もはや呪われているのではないか、というくらい強力だった……
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物語世界の小ネタ:
この世界の人々は都市間を移動するときは大体、馬車で移動します。
移動のための馬車は国やギルドで運用されていて、お金を払うと乗れます。
また国やギルドで運用されている馬車には護衛がついているので、徒歩より安全です。
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