第2話 魔鼠退治

——ギルドにて—————————————————————————


 ギルドに到着して、アルフレッドは依頼が張り出されている掲示板を確認する。


 「やっぱり大した依頼はないか。とりあえず魔鼠退治の依頼でも受けとこう」


 残念ながらあまりいい依頼はなかった。

 現在はすでに夕方である。

 条件の良い依頼は他の冒険者達が受注済であり、残っているのは魔鼠退治のように常に出されている常設依頼や、もしくは達成が難しくて誰も引き受けないようなものばかりとなっていた。

 アルフレッドは受付に行って魔鼠退治を受注し、魔鼠が多くいる場所や最近の状況など、必要な情報を尋ね、その後移動を開始する。


——下水道にて—————————————————————————


 (魔鼠は3匹で1セント、村までの馬車代は10セントだから目標は最低30匹だな。見つかるといいんだが、1日に狩られる魔鼠はせいぜい10匹程度って言われたから無理かもなあ)


 魔鼠が多く見つかるといわれた、とある下水道のメンテナンス用の通路を歩きながら、アルフレッドは辺りを見回していた。

 ちなみに魔鼠とは鼠の魔物で、大きさはだいたい猫くらい、魔物の脅威度を示すランクは最下級のFランク(小動物程度の強さ)で一般人でも倒せる程度の魔物である。

 魔鼠は繁殖力が強く、放置すると農作物を食い荒らしたり疫病の原因になったりするため、常に討伐対象となっている。


 (早速見つけた! 幸先いいぞ)


 アルフレッドはすぐに魔鼠を1匹見つけて、持っていた剣で切り裂いた。

 切り裂かれた魔鼠はすぐに息絶え、アルフレッドは討伐証明部位である尻尾を切り取り、また次の獲物を探していく。


 開始から10分後。


 (よし。目標達成! 魔鼠はまだまだ居るみたいだし、もっと狩るか)


 割とすぐに目標の30匹討伐を達成したアルフレッドは上機嫌で魔鼠退治を続けていた。

 馬車代の分は稼いだことになるのだが、意外と魔鼠の数が多いため、どうせならばさらに狩ることにしたのである。

 もうすぐ暗くなる時間だが、明かりについてはギルドでランタンを借りているため、そこまで問題はなかった。


 開始から1時間後。


 「おかしい。いくら何でも魔鼠の数が多すぎるよなあ……」


 アルフレッドは戸惑っていた。

 彼は既に100匹以上の魔鼠を討伐しており、事前に得ていた情報と実際の状況が異なっているためである。

 受付で聞いた限りでは魔鼠が大量発生しているなどといった話はなく、1日に狩られる魔鼠はせいぜい10匹程度とのことだった。

 これはつまり、ギルドが知らないうちに魔鼠が繁殖しているということになる。


 「とりあえず、暗くなってきたしここらで切り上げてギルドに報告しとくか。引き上げる前に魔鼠を焼いてどこかに埋めないと。……うん?」

 「ギチギチギチ」


 アルフレッドが引き上げを考えていると、前方の通路の奥から体長1メートル程の鼠が3匹現れた。


 「牙鼠か。魔鼠から進化したものまで出てきちまっているとなると、本当にマズいかも……って戦鼠まで!? どうなってるんだよぉ!」


 牙鼠の後ろから体長2メートルほどの巨大鼠が走ってきている。しかも


 「前からだけじゃなく後ろからも来てるし、マジでヤバイ!」


 振り返ると後ろからも戦鼠1匹と牙鼠3匹がこちらに走ってきていた。


 魔鼠を含む魔物の多くは一定以上に強くなると進化と呼ばれる現象が起きて姿を変えることがあり、魔鼠が進化したものが牙鼠、牙鼠がさらに進化したものが戦鼠である。

 ちなみにランクは牙鼠がEランク(一般人と同程度の強さ)、戦鼠がDランク(一般的な冒険者や兵士と同程度の強さ)となっている。


 定期的に駆除されているはずの街中で牙鼠が現れるのは稀であり、戦鼠まで出てくるのは異常といってよい。


 「ちくしょおーっ!」


 アルフレッドは叫びながら後方に向かって走り出した。

 とにかく動きが少なからず制限されてしまう通路内で、前後から挟み撃ちにされるわけにはいかない。

 片方を強行突破して逃げるしか活路がないのである。

 アルフレッドは走りながら前方に片手をかざし、


 「風魔法〖ワールウィンド〗」

 「ヂーッ」


 小さな竜巻を作り出す魔法スキル〖ワールウィンド〗で牙鼠達を蹴散らす。


 「ヂヂッ!」

 「ふんっ! ……でぇぃ!」


 体の大きな戦鼠は〖ワールウィンド〗に耐えてアルフレッドにとびかかってきたため、彼は体を前に傾け、戦鼠の下に潜り込み、下から剣を突き刺した。

 そしてそのまま背負い投げの要領で反対側から迫ってきていた鼠達にぶつけるように投げつけると、再び走り出す。

 戦鼠や牙鼠が追ってくるがスピードはアルフレッドのほうがわずかに速く、通路の出口まで追いつかれることなく外に出ることが出来た。


 (とりあえず、脱出成功だ……追ってきているのは戦鼠1匹、牙鼠5匹。速攻で戦鼠を倒せればいけるか……)


 どうやら挟まれた際の戦闘で戦鼠と牙鼠を1匹ずつ仕留めきれていたらしい。

 アルフレッドは追ってきた敵の数を確認すると、剣を構えて呼吸を整える。


 「かかってこいや鼠ども!」


 アルフレッドの挑発に戦鼠が反応してとびかかってくるが、


 「〖一閃〗、〖強撃〗!」


 戦鼠を十分引き付けて、素早い斬撃を繰り出す剣術スキル〖一閃〗と重い一撃を繰り出す剣術スキル〖強撃〗で迎え撃つ。

 戦鼠の後に続いてきた牙鼠の攻撃を左腕に着けた小盾で防ぎながら瀕死となった戦鼠にとどめを刺すと、勢いのまま残りの牙鼠達も斬る。


 「……終わったか」


 全ての鼠を倒し、下水道の通路から新たな鼠が来ないことを確認すると、アルフレッドは倒した戦鼠と牙鼠の尻尾を切り取り、残りの死骸を処分してギルドに戻った。


 魔物の死骸は放置すると疫病の原因となったりするため、街中や街道など人通りのあるところで倒した場合、素材となる部分や討伐証明部位などの持ち帰る部分以外については燃やして埋めることが冒険者のマナーとなっている。


 本来なら下水道の通路で倒した分も同様に処分しなければならないのだが、


 (下水道の死骸の処分は明日にしよう……今処分しに行って、また囲まれでもしたら生きて帰れる気がしない……)


 というわけで一旦ギルドに報告しに行ったわけである。


——翌日、再び下水道にて————————————————————


 次の日、アルフレッドは再び下水道で魔鼠退治を行っていた。

 ギルドには既に報告済だ。

 戦鼠がいたことに驚かれはしたものの、討伐証明部位の尻尾を提示したことで報告は事実として受け入れられ、ギルドでも調査を行うこととなった。


 彼は魔鼠退治の報酬を受け取っているため、故郷へは帰れるのだが、魔鼠の死骸を処分できていないことやギルドに調査の協力を求められたこともあり、調査員の一人として魔鼠退治を続行することにしたのだった。


 現在、彼を含めた数人が別々の地点で魔鼠退治を行い、魔鼠の数や上位種の有無を調べている。


 (昨日と違って今日はあまり見かけないな。 ……うん?)


 死骸の処分を終えた後、改めて下水道を探索するが昨日とは打って変わって魔鼠がいなくなっていた。

 とはいえ油断して囲まれるのは避けたいため、慎重に気配を探りながら戦鼠と出くわした辺りを歩いていると通路の壁に妙な違和感を感じる部分があった。


 (ここの部分、幻影の魔法で壁に見せかけているけど実際は通路になっている……)


 違和感のある壁に手を触れようとするが、彼の手は壁を突き抜けてしまった。

 実際にはそこに壁はなく、魔法で壁があるように見せかけられていただけだったためである。

 壁の先を確認すると、通路になっており、少し進んだ先に下へ行く階段があった。


 (隠し通路か。魔鼠の大量発生とは無関係かもしれないが、気になるな。このまま先に進んでみるか、それとも一旦ギルドに戻って聞いてみるか……軽く様子を見てマズそうだったら引き上げよう)


 アルフレッドは少し躊躇ったが、結局好奇心に駆られて階段を下りた。

 階段の先には扉があるが、壊れてしまっておりそのまま進むことが出来た。


 (ここは地下倉庫か? ……なんか妙なところだな……)


 壊れた扉の先は広い空間になっており、所々に魔物が入れられた檻や飼育ケース、木箱などが積まれていた。

 檻や飼育ケースの中には戦鼠や牙鼠も入っており、床には血で描かれた魔法陣もあり、はっきり言ってとても怪しい。

 何かのカルト宗教の拠点と言われても信じるだろう。

 奥には階段があり、その階段を上がれば地上に行けると思われるが、さすがに気味が悪く、これ以上進む気にはなれない。


 (いったん引き上げよう。誰かに見つかったらヤバイ気がする)


 アルフレッドが危機感を覚えて壊れた扉から出ようとしたとき、


 「まあ、待ちたまえよ。侵入者君」


 誰かから呼び止められた。




————————————————————————————————


 物語世界の小ネタ:


 この街は整備が行き届いているので、下水道は意外ときれいだったりします。

 汚水を浄化する魔道具なんかもあります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る