第19話 【オーク討伐】討伐開始

 模擬戦が終わり、アルフレッドとリリヴィアはその場に居合わせた冒険者達からの称賛を浴びながら退出し、宿に戻ってきていた。


 「ふっふっふ。どうよ! 上手く隠せていたでしょう?」

 「確かに、うまく制御できていたとは思うが、勝ちに拘らなくても良かったんじゃ……」

 「何言ってるの! 手加減と油断はちがうのよ! 私はやりすぎないよう手加減はしても、油断して負けるようなことはしないの。ちゃんとギリギリ勝ったように見せていたでしょう?」

 「まあ、確かにそこらの奴らはごまかせていたと思うぞ。ただ、エルガーさんとガイルさん、ダンさんの3人にはある程度実力がバレたと思った方がいいと思う。特にエルガーさんはそれほど驚いていたようには見えなかったから、たぶん、最初から実力を見抜かれていたっぽいぞ」

 「……ふーん……まあいいわ」


 現在2人で今日の模擬戦の振り返りを行っている。

 実力を隠している(つもりの)リリヴィアが、上級冒険者であるダンに勝ってしまったことは良くなかったんじゃないのか、とアルフレッドは問うが、リリヴィアはわざと負ける真似は絶対にしないらしい。

 結果として、一部の実力者にはリリヴィアが規格外の実力を持っていることが知られた可能性が高い。


 <ステータス>の偽装については、はっきり偽の数値を見せたわけではないので、まだ明確な違反をしたわけではないが、誤魔化しにくくなったのは間違いない。


 「<ステータス>の誤魔化しについては、結局変な連中に目を付けられないようにしたいっていうだけだから。もしバレておかしな連中が寄ってきたとしても潰せばいいのよ。ランク昇格を目指す以上、ギルドの上層部には認めてもらわないといけないから、ギルド長や上級冒険者にだけ知らせることが出来たのは良しとしましょう」

 「それもそうだな。あまり気にしてもしょうがないか」

 「それより明日の話をしましょうよ」


 振り返りを終了し、明日のレイドクエストに話を切り替える。


 「じゃあ、明日のレイドクエストについて分かっていることをまとめるぞ。まずクエストの内容はオークの討伐。オークの数は確認できたのは数十体、ハイオークやオークジェネラルといった上位種がいることから、全体で100~1000体の見込みで現在調査中。場所は北東にあるイルドーアの森。レイドクエストの参加者は40~50人程度で全体の指揮はエルガーさんが執る模様。クエストの期間は1~3日程度の見込み」

 「最大で1000体ということだけど、実際にいきなりそんな数が出てきたりするものなのかしらね?」

 「エルガーさんの話じゃイルドーアの森はアッララト山や他の魔境にもつながっているらしいからな。そこから大勢の魔物が流れ込むこともあるんじゃないか?」

 「魔境で縄張り争いでもあったのかしらね。それで負けた方がそのイルドーアの森に流れ込んだとか」

 「かもな。作戦についてだけど、既に調査にあたっている冒険者達が群れの住処を見つければそこへ向かい、見つけきれなければ、3つのグループに手分けして索敵および討伐にあたる」

 「まず一つ目のポイントは調査中の冒険者が群れの住処を見つけられるか、ということね」

 「ああ、でもそこはあまり心配しなくていいみたいだぜ。イルドーアの森の中で、大勢の生き物が生活できる場所は限られているらしいし。長引くとすりゃあ、オークの群れがまた魔境かどこかに移動していなくなっていたりした場合だけど、そんなこと言っていたらキリがない。仮に見つからなけりゃ、数日間森を探索して解散になるんじゃね?」

 「そうよね。見つからなかった場合は心配しなくていいとして、見つかって戦いになった場合は大丈夫かしら? 最大1000体で上位種も含むオークの群れを、40~50人で蹴散らすのはさすがに大変よ? まあ最悪私達だけで蹴散らせば済むけど」

 「そこは俺も少し不安になってるが……エルガーさんの手腕に期待しようぜ。それにガイルさんとダンさんも参加するっていうし、あの人たちならそうそう負けはしねえだろ」

 「そうね。だったら私達は装備品や道具の点検といきましょう」

 「ああ」


 こうして、2人は話を終え、明日の準備を始めるのだった。


——翌日、イルドーアの森にて———————————————————


 イルドーアの森はイーラの街から馬車で2時間ほどすすんだところにある自然豊かでなおかつ大きな森である。

 アルフレッドとリリヴィアの話にあった通り、この森は魔境につながっており、そこから時折魔物が流れ込んできては討伐依頼が出される。

 イルドーアの森とはそんな森である。


 「オーク、いねえなあ」

 「やっぱり、さっきのやつらで全部だったんじゃね?」


 森の中を冒険者の一団が愚痴を言いながら歩いている。

 彼らはオーク討伐のレイドクエストに参加中の冒険者達である。


 オーク討伐は初めのうちは順調だった。

 エルガーやアルフレッド達を含めて総勢42人の冒険者達が集められ、予め調べていたオークの住処を全員で襲撃、味方には1人の犠牲もなくオーク約50体とハイオーク1体を仕留めたのだ。


 その後、他にもいるであろうオークの群れを探すため、14人ずつ3つのグループに分かれて探索にあたっているのだが、その後数時間、一向に見つけられないでいた。

 そのため、初めのうちは警戒していた冒険者達も次第に緩みだし、愚痴を言うようになっていた。


 「まだ初日だろうが。油断するな。そろそろ次のポイントだぞ」


 Bランク冒険者のガイルが愚痴を言っていた冒険者たちに注意する。

 彼はこの冒険者グループのリーダーとされているのである。

 ガイルの言葉に冒険者達も気を引き締める。


 「これから次のポイントに偵察を出す。やりたい奴はいるか?」

 「じゃあ、自分が」

 「俺も行きます」

 「よし、ホセ、ドン、行ってこい」


 ガイルの言葉によって、2人の冒険者が名乗り出て、先行して次のポイントに向かう。

 そして数分後……


 「オ、オークがいた! 100体近い数がこっちに来るぞ! ……それと、ドンがやられたっ!」

 「くっ、一旦下がるぞ。ギルド長と合流する。急げ!」


 先行して偵察していた冒険者、ホセが慌てて走ってきており、その後ろには彼の報告通り大勢のオークが迫ってきていた。

 どうやらオークの中に弓兵がいるらしく、ホセの着ている鎧には矢が突き立っている。

 ガイルはその様子を見てすぐさま退却を決意するのだった。


——イルドーアの森の別地点にて—————————————————


 そのころ、ギルド長のエルガーは冒険者十数人と共に森の中のやや拓けた地点に臨時拠点を作り、待機していた。


 「ギルド長、ガイル班からの狼煙です。緊急事態です」


 そこに冒険者の1人から報告が齎される。

 グループ分けを行う際にエルガーは各班に狼煙をあげるアイテムを配備しており、ピンチになった場合には、それを使って連絡することとしている。


 「狼煙の色は黄色。事前の取り決め通りなら、こちらに合流してくるはずです」


 あげる狼煙には色によっていくつかのパターンがあり、ガイル班があげている黄色はその中の「緊急事態のため、拠点まで退却する」ということを意味するものである。

 これはつまり1班だけでは勝てない規模の敵に襲撃されているということである。


 「ああ、バル、カム、お前ら2人はガイルのところに行って退却を援護しろ。他の奴らは戦う準備と周囲への警戒だ。それと、全員合流の狼煙をあげてダン班も呼べ!」

 「「「はい!」」」


 エルガーはすぐに指示を出し迎撃の準備に取り掛かる。


 「リリ、俺らも備えようぜ」

 「ええ」


 アルフレッドとリリヴィアはエルガー班だった。

 2人はエルガーの指示のもと、援護に向かう冒険者の背を眺めながら、予め決められた配置に着く。

 そのときアルフレッドの目に、ガイル班とは別の場所で狼煙が上がっているのが見えた。


 「エルガーさん! ダン班からの狼煙です! 赤色! ダン班、退却不可です!!」

 「リリ、急いでダン班の救援に行け!」

 「OK! すぐに行くわ!」


 狼煙の赤色は「不測の事態のため、退却できない」ということを意味するものである。

 これはつまり敵に囲まれるなどして、退却が出来ない状態に陥っているということであり、さらに言えば全滅の危機に瀕しているということになる。


 エルガーはすぐにリリヴィアに救援命令を出し、リリヴィアはダン班のもとに急行する。

 ちなみに最初は「アルフレッド」、「リリヴィア」と呼んでいたエルガーだが、今では「アル」、「リリ」と呼んでいる。

 長い名前は緊急時に呼びづらいため、戦場では通称で呼び合うのが一般的なのである。


 その後、10分ほどして逃げてきたガイル班と、それを追ってきたオークの群れが姿を現す。


 「来たぞ! 土塁を使って迎撃する! 上の奴らは準備しろ! ガイル班、そのまま入ってこい!」


 エルガー班は待機している間、主に土魔法を使用して簡単な土塁や物見台を築き、拠点をちょっとした砦のようにしていた。

 土塁はただ土を盛って補強しただけの簡単なつくりだが、高さ4mほどあるため、簡単には登れない。

 土塁の上は幅2m程度の通路になっており、そこには【魔法使い】や【弓士】など遠距離攻撃主体の冒険者が配置されている。


 土塁や物見台の上から魔法や弓矢で攻撃、入り口から入ったところには接近戦主体の冒険者達が待ち構えており、敵が拠点に入ろうとしたところを叩くわけである。


 入り口近くの物見台からエルガーは拡声器のような道具を使って指示を飛ばす。

 ガイル班は指示通りそのまま入り口から拠点に駆け込む。


 「よし、上の奴らは攻撃開始! ガイル班、怪我人の手当てが終わり次第、戦える奴は迎撃に参加しろ! 俺は入り口に合流する!」


 エルガーは矢継ぎ早に指示を出し、物見台から飛び降りて入り口の傍に着地する。

 物見台の高さは5m以上あるのだが、エルガーはかなり頑丈なため、飛び降りても平気なのだ。


 (まるで戦争だな……やってやるぜ!)


 アルフレッドは闘志を燃やし、迫ってくるオークの群れを待ち受けるのだった。

 ちなみに彼の配置は入り口(=最前線)である。




————————————————————————————————


 物語世界の小ネタ:


 土魔法は周囲の地面を操作したり、魔力で土を作り出したりするため、土木作業に便利です。

 ちなみに土魔法は以下のように派生していきます。


  土魔法 → 大地魔法 → 地殻魔法

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