第18話 模擬戦
——ギルドの訓練場にて—————————————————————
ギルド執務室での話が終わったアルフレッド、リリヴィア、エルガーの3人はギルドの敷地内にある訓練場に移動していた。
「これから模擬戦をするわけだけど、お前はあまりやりすぎるなよ」
「もちろんよ。ちゃんとレベル相応の強さで戦う練習もしてきたから問題ないわ」
リリヴィアは目立ちすぎて動きづらくなることを避けるため、レベルを〖Lv40〗に偽装している。
今回の模擬戦であまり実力を出しすぎると早速バレることにもなりかねないため、アルフレッドが忠告したわけだが、リリヴィアは問題ないらしい。
ほどなくして訓練場に着き、エルガーが中にいた男2人に声をかけて呼ぶと、呼ばれた2人の男がやってきた。
「ガイル、ダン、この2人が例の新人だ。挨拶してやれ」
「俺はガイル・マードッグ。Bランクで<ジョブ>は【格闘家】だ。よろしく」
「俺はダンケルト・ハルノア。皆からはダンと呼ばれている。Bランクで<ジョブ>は【槍士】だ。よろしく」
アルフレッドとリリヴィアも自己紹介を行い、早速模擬戦に移ることになった。
訓練場は広く、ガイルとダンの他にも10人ほどがそれぞれの訓練を行っていたが、他の人も模擬戦と聞いて集まってくる。
「昇格時の模擬戦か。誰だ?」
「新人らしい。相手の方はガイルとダンだ」
「あいつらBランクだぞ。新人大丈夫か?」
周りが少しざわついている。
熟練冒険者が新人冒険者と手合わせをすること自体は別に珍しくないのだが、Bランク以上は数が少なく、また指名依頼などで忙しいことが多いため、彼らが新人の相手をすることは少なかった。
ちなみに、ガイルとダンはイーラの冒険者の中ではトップクラスなのである。
「ルールは剣も魔法も何でもありだが、命の危険を伴うものは禁止。降参か気絶したら負け。また倒れた者への攻撃や急所への攻撃は寸止めすること。危ないと判断したら俺が止めるから、そうなった場合は即終了だ。分かったな。ちなみに模擬戦の最中は周囲に被害を出さないように魔道具で障壁を張るから、周囲の被害はそれほど心配しなくてもいいぞ。 ……それじゃあ模擬戦を開始するぞ。 ……ガイル、ダン、お前らも油断するなよ。こいつらは、あのリンドの冒険者だ」
「えっ!? あの!?」
「くっ! 【閃光】、【暴風】、【疫災】に【神滅】 ……こいつらも!?」
((えっ? 俺(私)達の村っていったい!?))
アルフレッド達の村はBランク冒険者からも恐れられているらしい。
ちなみに【閃光】とはリリヴィアの父エリック、【暴風】はリリヴィアの母アセロラ、【疫災】は薬屋で元錬金術師のカルア、最後の【神滅】は村長の二つ名である。
アルフレッドもリリヴィアも知らないが、彼らの若いころの暴れっぷりは結構有名だったりするのだ。
予想外の反応に戸惑いながらも、まずはアルフレッドとガイルの模擬戦が始まる。
アルフレッドは練習用の木剣を持って、対するガイルも革製のグローブと手甲、脚甲を付けて向かいある。
「なんか、気になる反応がありましたが、俺は普通の冒険者なんで……胸をお借りします」
「おう! 来い!」
アルフレッドは改めて対戦相手のガイルを観察する。
ちなみに〖鑑定〗スキルは使わず、体つきや身のこなしから相手の実力を探っている。
<ステータス>は個人情報であるため、むやみに人を鑑定するのはマナー違反だからである。
相手が盗賊など明確な敵であれば話は別だが、無断で鑑定した場合にバレると、それがもとで喧嘩になったりする。
(やや細身で筋肉質な体格、片手を前に出して腰を落とす構え……見た感じは典型的な格闘家って感じだな。Bランクならレベルは40台ってところだが、向かい合って感じるプレッシャーもそのぐらいか。力も技も明らかに俺より格上……ならまずは回避優先で弱点を探す!)
アルフレッドは意を決すると即座に動き出す。
「火魔法〖ファイアボール〗!」
周りには魔道具によって透明なバリアが張られているため、周囲の被害は気にしなくてよい。
ガイルも周りを気にする様子はなく、普通に躱す。
「ふん!」
ガイルが躱した直後に、こっそり近づいていたアルフレッドが木剣で追撃する。
(〖思考加速〗! 〖一閃〗!)
「ふっ。そらっ!」
アルフレッドの追撃をガイルは余裕で躱し、それだけでなくカウンターを放つ。
そのカウンターをアルフレッドは〖思考加速〗で見切り、紙一重でかわして距離をとる。
「今度はこっちから行くぞ!」
今度はガイルが攻撃に転じ、アルフレッドに猛攻を加える。
正拳突き、手刀、裏拳、前蹴り、貫手、回し蹴り、掌底、正拳と見せかけて横蹴り……
(速い! 〖思考加速〗が無いと避け切れない! ……何とか隙を見つけて反撃しないと!)
アルフレッドが襲い掛かる攻撃を、〖思考加速〗で反応速度を引き上げ、かろうじて躱しつつ反撃の隙を探り———
(今だ! ……げっ!?)
———ガイルの突きを躱して背後に回り、横回転しながら切りつける。
だがガイルはしゃがんで手甲を用いて攻撃を弾き、下から蹴り上げる。
アルフレッドはかろうじて反応が間に合い、後ろに仰け反って躱し、さらに後ろに跳んで距離をとる。
「なるほど。普通の攻撃じゃ当てられそうにないな」
(何か来る!)
ガイルは自分の猛攻を凌ぎ切ったアルフレッドの回避能力に感心しつつ、体内で魔力を練り上げる。
その様子を見たアルフレッドは〖思考加速〗や〖気配察知〗といった感知系スキルを総動員して備える。
「〖精神集中〗 ……〖瞬動〗、〖衝撃波〗!」
「う、ぐあっ!」
ガイルは複数のバフを発動した状態で、突き出した拳から衝撃波を放ったのである。
アルフレッドは体を捻って躱そうとしたが、間に合わない。
放たれた衝撃波は凄まじいスピードでアルフレッドの胸に命中し、彼は後ろに吹き飛ばされて膝をつく。
アルフレッドが顔を上げると、既にガイルは目の前に迫っており、追撃の拳を寸止めしていた。
「参りました」
「それまで!」
アルフレッドは降参し、エルガーが終了を宣言する。
「やるな、あの新人」
「ガイルのスピードに、あれだけついていけたら大したものだよ」
周囲で見ていた冒険者達もアルフレッドを褒めている。
負けたとはいえ、Bランク相手に善戦したということで周りからも認められたらしい。
そこにリリヴィアが寄ってきて回復魔法でアルフレッドを回復する。
「アル、戦ってみてどうだった?」
「ああ、さすがBランクだ。俺の攻撃は完全に見切られていた。力も技もスピードも、みんな俺より格上だ。 ……たぶん、最後に見せたバフ付きの戦いが、あの人の本来の戦い方なんだろうな」
「ふふふ。私も同意見よ」
「お前も気を付けろよ。たぶんダンさんの実力も同じくらいだぞ」
「問題ないわ。きっちり勝って仇を取ってあげる」
(いや、どちらかというとうっかり大怪我をさせないように気を付けろと言いたいんだが……)
リリヴィアが本来の実力を発揮すれば、ダンがガイルと同等の実力を持っていても勝つのは容易い。
というか、怪我させないように手加減しても余裕で勝てる。
だが、現在リリヴィアは自身の強さを〖Lv40〗程度に偽っており、そのために表立って発揮できる実力は、Bランク冒険者レベルにまで抑えなければならない。
慣れない制限がある状態で、相応の実力者であろうダンを相手取った場合、誤って大怪我をさせてしまうのでは、とアルフレッドは心配していたが、リリヴィアは自信満々といった感じでダンと向かい合う。
「よろしくお願いします」
「よろしく」
木製の大剣を持つリリヴィアと、同じく木製の槍を持つダンはお互いに一礼をした後、いきなり激しく打ち合う。
「ふふっ」
「……っ! くっ!」
剣と槍が打ち合う音が響き、猛スピードで技の応酬がなされていく。
「すげえ! ダンと互角に打ち合ってる!」
「……互角か? むしろ押してねえか!?」
攻防が続くと次第にダンがリリヴィアに押され出す。
リリヴィアは確かに力やスピードを〖Lv40〗相当に抑えていたが、剣の技量についてはそこまで抑えておらず、技でダンに対してやや優勢に立っていた。
「……〖瞬動〗! 〖疾風突き〗! 〖薙ぎ払い〗!」
「おっと。ふふん、でもまだまだ」
ダンは劣勢を跳ねのけるため、スキルを使用して挽回を図るが、リリヴィアは余裕を持って対処する。
「ダンが押し返したな、やっぱ地力が違うか」
「いや、それでも新人の娘も良く凌いでるぞ」
観客になっている冒険者達はダンが優勢とみていたが、ダン本人はというと……
(……こっちは全力でやってんのに、余裕で捌いてやがる! ……どんな化け物だよ!)
リリヴィアが圧倒的格上であることを感じ取り、このままでは敗けると焦っていたのである。
ダンはリリヴィアの足元に突きを放ち、それをリリヴィアが後ろに跳んで躱すと、そこにすかさず奥の手を放つ。
「〖刺突九閃〗!」
〖刺突九閃〗は一瞬のうちに9つの突きを放つ槍術の上位、槍聖術のスキルである。
いまだ空中にいるリリヴィアには絶対に躱せない、とダンは踏んだのだが……
「〖空間機動〗、〖瞬神〗、〖一閃〗!」
「ぐぁ……」
「それまで!」
リリヴィアは空中を蹴り、超スピードで攻撃を回避、そのままダンの横に周り込み、彼の顎に一撃を入れた。
ダンは意識を失って崩れ落ち、直後にエルガーが終了を宣言する。
「「「……すげえ!」」」
(えーっと……目立たないために実力を隠すんじゃ……でもまあ、このぐらいならいいのか……?)
模擬戦を見ていた冒険者達は予想外の結果に沸き上がり、その中でアルフレッドだけが「これ、もう実力隠せないんじゃ」と戸惑っているのだった。
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物語世界の小ネタ:
アルフレッド達の故郷のリンド村には、実は強い人がいっぱいいたりします。
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