第27話 護衛依頼
——ギルドにて—————————————————————————
翌日の朝、アルフレッドとリリヴィアはギルドの掲示板に張り出された依頼を見ていた。
「都合良く帝国行きの商人の護衛依頼とかがないかなと思ったんだが、そう上手くはいかないか」
「そうね。他に良さそうな依頼もないみたいだし、少し残念だけど普通に国境行きの馬車に乗りましょうか」
2人がここに来ていたのは前日に話し合った通り、西の帝国に行くうえで都合の良い依頼がないか確認するためである。
この世界において、庶民が都市間を移動する際には国やギルドが運航している馬車の定期便を利用するのが一般的なのだが、馬車の利用は当然有料。
別に馬車の利用料金が払えないわけではないのだが、もしも運よく手頃な護衛依頼などを受けることが出来れば、タダで移動できる上に報酬も貰えるので、ギルドで確認しているのだった。
結局そんな都合の良い依頼は無かったわけだが、別にがっかりするほどのことでもない。
依頼が無いなら素直に馬車を利用すればいいと、2人がギルドを出ようとして———
「あの、ちょっといいですか?」
———ギルドの受付嬢に呼び止められた。
「あ、はい。えっとロミーナさんでしたよね。何でしょうか」
「実はあなた方のさっきの会話が聞こえてきまして、帝国行きの護衛依頼を探していると聞こえてきたんですけども?」
「ええ、その通りですけど……」
「であれば、紹介したい依頼があるんですがいいでしょうか?」
アルフレッドからロミーナと呼ばれた受付嬢はそういって受付のカウンターに戻り依頼書を取り出して2人に見せる。
その依頼書は確かに2人が探していた帝国行きの護衛依頼だった。
「この依頼って掲示板には張り出されていなかったわよね?」
リリヴィアがロミーナに疑問を投げかける。
「ええ、掲示板に張り出すのは基本的に誰でも受注できるものばかりなんですよ。もちろんちょっとした条件が付いている物もありますが……これについては依頼者側から是非にと受注条件がはっきり指定されていまして、このような依頼の場合はギルドの方で条件を満たす人に声をかけるんです」
依頼書の受注条件を見るとそこには「最低1人以上女性を含むこと」と書いてあった。
「なるほど。受注条件があるからこうして個別に紹介しているわけですね。ちなみになぜこんな条件が付いているのか聞いてもいいですか?」
「依頼者が女性だからですよ。数日間一緒にいることになるので、どうしても同性の人がいてほしいんだそうです。ほら、お花摘みや着替えの時とか、異性の方だとそういう時傍にいることが出来ませんし」
「ああ、確かに。了解です」
「アル、私は受けてもいいと思うけどどうする?」
「俺もいいと思うぞ」
2人は依頼を受けることに決めて受注手続きを行い、ロミーナから依頼人の連絡先を聞いてそこに向かった。
——とある宿屋にて———————————————————————
アルフレッドとリリヴィアは依頼人が泊っている宿に向かい、宿の従業員に頼んで依頼人を呼んでもらい、宿の1階にある食事処を兼ねた広間で面会した。
「初めまして。今回護衛依頼を受けたリリヴィア・ファーレンハイトです。リリと呼んでください。冒険者ランクはDランクです」
「同じく護衛依頼を受けたアルフレッド・ガーナンドです。アルと呼んでください。冒険者ランクはEランクです」
2人は護衛依頼の依頼主である行商人メノア・ミラノアに対して依頼を受けたことを示す書類や冒険者証を提示する。
「……よろしく。私が依頼を出した行商人のメノア・ミラノアです。依頼を受けてくれてありがとう。さっそくだけど依頼の詳細について説明するわね」
メノアは予想以上に若い冒険者が来たことに困惑しつつも、とりあえず依頼の詳細に関する説明を行う。
彼女はイーラの街と国境沿いにある帝国の都市、アルタとの間を行き来する行商人であり、道中の護衛をしてもらう冒険者をギルドに募集してもらっていたのだった。
机の上に簡単な地図を広げ、2人に対してこれから通る予定の道筋や日程などを説明する。
「———こういう感じで途中の村に立ち寄って商売をしながら4日ほどかけてアルタを目指すの。ここまでで何か質問はあるかしら?」
メノアは一通り説明を終えて2人を見る。
「いや、特にないわ。これからよろしく」
「俺も特にありません。よろしくお願いします」
(今回の護衛は真面目そうね。駆け出しかと思ったら冒険者ランクもDとEだし)
アルフレッドとリリヴィアはメモを取りながら真面目に説明を聞いており、その態度を見てメノアは少しばかり安心する。
彼女はとある大きな商会の会頭の娘であり、数年前から修行として行商を行っているのだが、わりと頻繁にトラブルに遭っていた。
あるときは他の商人との商談で詐欺まがいの方法で商品を売りつけられたり、またあるときは旅の途中で馬車の車輪が壊れて立ち往生したり……
この前は護衛として雇った冒険者から旅の途中で料金のつり上げを求められた。
(この前みたいに変なのが来なくてよかった……ああ、思い出したらまた腹が立ってきた……)
彼女は前回の行商でアルタからイーラに来る際に冒険者を護衛に雇ったのだが、雇った冒険者の男は旅の途中、魔物が出現する場所で突然護衛料のつり上げを求めてきたのだ。
普通ならそんなことを言われた場合、護衛依頼そのものをキャンセルするのだが、危険な場所でキャンセルなどしてしまえばメノアの命が危うくなってしまう。
そんな状況だったため、メノアはつり上げに応じるしかなかった。
後でギルドに苦情を入れたのだが、その冒険者の手口は巧妙であり、ギルドからは処罰できないと言われてしまった。
(文句を言おうにもあの男はいなくなっていたし、完全に初めからそうするつもりだったんだわ……)
((なんかめちゃくちゃ怒ってる……))
その時のことを思い出したメノアが怒りのオーラを放ち、彼女の後ろに荒れ狂う鬼神を幻視したアルフレッドがおずおずと尋ねる。
「あの、何かお気に召さない点でもありました?」
「ああ、いえいえ。別に何でもないわ。ちょっと前の出来事を思い出していただけだから気にしないで」
メノアはすぐに表情を取り繕い、何でもないと返事をする。
(いけない。落ち着かないと。商人としてやっていくと決めたのだから、女だからって舐めてかかるような奴らになんか負けちゃ駄目よ。気持ちを切り替えて)
世の中には差別や偏見というものが少なからず存在する。
この世界には魔法やスキルがあるため、必ずしも女性が男性より弱いというわけではないし、冒険者や兵士のような戦う職業にも一定数女性がいたりするのだが、それでも見た目や体格などで弱く見られる場合がある。
行商人であるメノアのように女性であっても自立している者もおり、女性だから職に就けないなどということはないのだが、それでもやはり女だからという理由で舐められることが多いのだ。
行商を始める際にメノアは父親からもそのことについて注意するように言われたし、同じ行商人の知り合いからも女は男以上にトラブルに遭いやすいと言われていた。
しかし彼女はそう言われても商人を辞めようとは思わず、むしろ大成して見返してやると奮起していたのだ。
彼女の目標は大商人として知られる父親以上の商人となることである。
そのためには一度や二度のトラブルで泣いているわけにはいかない。
例え周りから女だからと舐められたとしても、それに負けるようでは彼女が目指す商人にはなれないのである。
依頼料つり上げの件に関しては犬に噛まれたとでも思ってあきらめるしかない。
今後同じ目に合わないように気を付けなければならないため忘れはしないが、いつまでも気持ちを引きずっていても意味がない。
気持ちを切り替え、次の行商に専念しなくてはいけないのである。
「問題なければ、準備が整い次第出発したいのだけど、あなた達はすぐ出発できるかしら?」
「こっちは宿に置いてある荷物を取ってくれば、すぐ出発できます」
「そう。じゃあすぐに出発したいから、その荷物を取ってきてもらえるかしら。こっちも支度を整えておくわ」
「了解です」
メノアの問いにアルフレッドが答え、護衛依頼の打ち合わせが終了。
アルフレッドとリリヴィアは退出して自分達の宿へ向かう。
「さあて、私の方も旅支度をしないと」
そう言って2人が出ていくのを見届けるとメノアも荷物をまとめ始めるのだった。
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物語世界の小ネタ:
この世界では行商人が意外と活躍しています。
道中に魔物や盗賊が出る関係で一般人は移動しづらいので、その分だけ各地を回る行商人が重宝されています。
小さな村などになると、物資の売買を行商人に頼っているところも少なからず存在します。
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