第26話 【オーク討伐】打ち上げと振り返り
——イーラギルドの酒場にて———————————————————
「「「乾杯ーい!」」」
オークキングを討ち取った日の翌日、つまりオーク討伐のレイドクエストが終わって解散となった日の夜、冒険者達はギルドの建物内にある酒場に集まって宴会を開いていた。
討伐については、今後は騎士団が行うため、ギルドや冒険者の仕事はひとまず終了となる。
大仕事を終えた者たちを労うためにギルドが宴を用意したのだった。
「いやあ、それにしてもヤバかったなあ……俺、正直言って今回のレイドクエストに参加したこと後悔してたぜ。マジで全滅するかと思った」
「確かに。オークキングなんて騎士団が出動する案件だぜ。それにあの数! 2千体ものオークが出てくるなんて想像できるか? いや、ほんとによく生き残ったよ俺ら」
冒険者達は今回のオーク討伐について、口々に感想を言い合っていた。
感想の大半は「死ぬかと思った」とか「こうなるとは思わなかった」といったものであり、討伐の戦いで死んだ仲間を悼む声も一部にあった。
今回のオーク討伐は開始時点ではオーク達の規模が分からず、討伐途中で想定以上の規模であることが判明したため、参加した者からすると突然窮地に追い込まれた、という感じが強かった。
オーク討伐自体は時折行われるレイドクエストだが、そのほとんどは百以下の小さな群れの討伐であり、オークキングが出現することもなかった。
当初の見込みである「100~1000体」というのも、実のところかなり慎重に出された数字だったりする。
多くの冒険者達はそこまで大事だとは思っておらず、「いつもより少し規模が大きいかも」という程度の認識だったため、そこに想定を超える数とオークキングが現れたのである。
戦いは何が起こるか分からないもの、とはいえそんな事態を想定する者はいなかった。
彼らが動揺したのも無理のない話である。
「それにしてもリリヴィアさんって本当にすごいのね。オークキングも貴女が倒したんでしょ?」
「まあね。ああ、私のことはリリでいいわよ。ところでドゥエも魔法の使い方上手だったわね。拠点の土塁作りとかも慣れている感じだったし」
「いやいや、確かに私も一応それなりに修行してきたけど、リリさんには敵わないわよ。よければ普段どんな鍛え方してるか聞いてもいいかしら?」
「あっ、それ俺たちも興味あるわ。オーク討伐で大活躍してたもんな」
「別に普通だと思うわよ。右手と左手で別々の魔法を発動させて、それを1時間くらい持続するのとか。例えばこんな感じ」
リリヴィアはそう言って右手で小さな火を作り出し、左手を光らせる。
「これは火魔法の〖ファイア〗と光魔法の〖ライト〗ね。この状態で魔力の流れを一定に保ちながら発動を持続させていく感じよ」
「……系統の違う魔法を複数同時発動するのは余程才能があるか長年修行した熟練の魔法使いだけなのだけど……リリさんは本当にすごいわ」
「そう?」
「そうよ。少なくともこの街でそこまで簡単にやってのける人はいないわ。やっぱりリンドの冒険者はすごいのね」
「……模擬戦の時も気になっていたのだけど、私達の村って世間からするとどういうイメージなの? 私達からすると普通の田舎村なのだけど……」
「ええーっと……そ、そうね、とても強い人がいっぱいいるイメージかしらね」
「ふうーん? 具体的には?」
「……元Aランク冒険者やそれに匹敵する猛者が何人も住んでて、一部の人達からは魔境村って呼ばれてる。特に【閃光】のエリックや【暴風】のアセロラとかは現役時代にかなり恐れられていたらしいから、それで村全体が恐れられるようになった感じ……」
(お父さん、お母さん、あんたらが犯人か……)
「あっ、別に悪いイメージばかりってわけじゃなくて、優秀な冒険者も多いって聞くし、憧れている人もそれなりにいるみたいよ」
「ありがとう。おかげで犯人が分かったわ。帰ったら過去に何やったのか問い詰めとく」
故郷の評判がとんでもないことになった原因はやっぱりリリヴィアの両親だった。
それを知ったリリヴィアは密かに両親への追及を決意するのであった。
最も彼女はこの後魔王退治の旅を続ける予定なので、故郷に帰るのは当分先の話になるのだが。
「ところで、数日前のリッチ騒動の件って調査は順調なんですか?」
酒場の別のところではアルフレッドがエルガーにリッチ騒動について聞いていた。
「ああ。犯人のリッチは元宮廷魔法使いで、国で禁じられている不死者の研究を行っていたことがバレて行方を晦ましていた奴だった。名前はデイジー・エンドっていうんだが、それがこの街に潜伏して研究を続けていて、実験用の魔鼠を逃がしたことでお前に見つかったわけだな。優秀なんだがどこか抜けているところがあって、たまにつまらん凡ミスをする奴だったらしい。この件についての調査は既に国の騎士団に引き継いでいて、今ではギルドではなく国で調査しているな」
エルガーは料理を食べながら、アルフレッドに状況を話す。
「なるほど。でもよくそんな奴が、街に入り込んだりドラゴンゾンビを手に入れたりできましたね」
「それについてなんだが、どうも【不死教団】の奴らがリッチに協力していたらしい」
「何ですかその【不死教団】って?」
「【不死教団】は死神を信奉する集団で、要約すると死神に生贄を捧げて不老不死にしてもらおうという主張を掲げている宗教団体だ」
「何かいかにも邪教って感じですね」
「実際、生贄のために誘拐やら人身売買やらを行っていたことが判明して、国から邪教認定されているよ。 ……だが一方で不老不死を夢見る有力者も、一部にはいるらしくてな。けっこうな資金や人材が流れ込んでる上に、国の捜査も難航しているらしい」
リッチの背後には思ったより大きな組織があるらしい。
「ひょっとして、下手すると事件を揉み消されたりとかありえます?」
「いや、さすがに表沙汰になったものを揉み消すことはできんさ。国の上層部にも教団を危険視する者はそれなりにいるしな。ただ、リッチ騒動の件から【不死教団】全体を摘発するところまで持っていくのは厳しいだろうな」
「とりあえず、そういうのもいるんだと警戒した方が良さそうですね」
「ああ、そういえばお前らは帝国に行くんだよな?」
「はい。オーク討伐が終わったらそのまま帝国に向かう予定で、この宴会が終わったらリリとその辺りを相談するつもりです」
「今言った【不死教団】の本拠地は帝国にあると言われているから、気を付けておけ。帝国でも同じように犯罪を行っていて、向こうでも邪教認定されているから」
「マジっすか……」
どうやら随分厄介な集団がいるらしい。
アルフレッドはなんとなく今度はカルト宗教と戦うことになりそうな予感がしてきたため、エルガーにより詳しい情報を教えてもらうのだった。
——宿屋にて——————————————————————————
酒場での宴会が終わった後、アルフレッドとリリヴィアは宿屋に戻りアルフレッドの部屋でオーク討伐の振り返りと今後の予定を話し合っていた。
オーク討伐では42名の冒険者のうち死者が14名と多くの犠牲が出た。
しかし一方で2人にとっては集団戦や戦術魔法の経験や、先達からのアドバイスなど多くのものを得た戦いだった。
また想定以上の規模になっていたオーク達や想定外といえるオークキングの出現など、事前の情報と異なる事態に遭遇した場合の対処についても熟練者の手腕を見ることが出来た。
これらの経験は魔王との戦いにも活かさなければならないため、2人で気の済むまで意見を出し合い、ついでに討伐中やその後の宴会で得た情報も共有するのだった。
「———オーク討伐については一通りまとめ終わったと思うけど、アルは他に何か気付いた点とかあるかしら?」
「いや、言いたいことはもう全部言った。あとは今後の予定だな」
「冒険者ランクを上げながら帝国の都リウヘルムを目指し、道中で【不死教団】とかいうカルト宗教を潰すのね」
「いや、【不死教団】とはまだ戦うと決まったわけじゃないと思うんだが……」
「何言ってるのよ。完全にフラグが立ってるじゃない! もう確定事項よ!」
「フラグって……」
リリヴィアの中では既に確定事項らしい。
まだ確定していないだろと言いたいところなのだが、アルフレッドも結局戦うことになるんだろうなという予感がしているので、強く反論できないのだった。
彼らは結構なトラブル体質なので、こうなったら大体戦う羽目になるのである。
「とりあえず、明日出発でいいか?」
「いいわよ。あっ、でもまずはギルドに向かいましょう。丁度いい依頼があるかもしれないし」
「そうだな。まずはギルドだな。それと他に買っておきたいものとかはあるか?」
「特にないわね。その辺りはギルドで依頼見てから決めましょう」
「了解。他には何かあるか?」
「そうねぇ。アルの<ステータス>を見せてよ。オーク討伐でまた少しは上がったんでしょ?」
「ああ、いいぞ」
アルフレッドは冒険者証に表示した<ステータス>をリリヴィアに見せる。
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<名前> :アルフレッド・ガーナンド
<種族> :人間
<ジョブ>:斥候Lv27/50
<状態> :通常
<HP> : 96/96
<MP> : 41/41
<攻撃力>: 80+40
<防御力>: 37+60
<魔法力>: 72
<素早さ>:116
<装備> :風の下級魔剣、鎧蜥蜴の鱗盾、鎧蜥蜴の鱗鎧、鎧蜥蜴の鱗兜
<特性スキル>:
特になし
<技能スキル>
〖剣術〗 :Lv7
〖短剣術〗 :Lv3
〖盾術〗 :Lv4
〖格闘術〗 :Lv4
〖投擲〗 :Lv3
〖火魔法〗 :Lv4
〖風魔法〗 :Lv7
〖光魔法〗 :Lv2
〖鑑定〗 :Lv5
〖気配察知〗:Lv9
〖危険察知〗:Lv8
〖魔力探知〗:Lv6
〖魔力制御〗:Lv5
〖思考加速〗:Lv3
〖暗視〗 :Lv6
〖隠密〗 :Lv6
〖回避〗 :Lv8
〖瞬動〗 :Lv5
〖跳躍〗 :Lv3
〖調理〗 :Lv5
〖調合〗 :Lv3
〖開錠〗 :Lv2
<耐性スキル>:
〖物理耐性〗:Lv4
〖魔法耐性〗:Lv1
〖毒耐性〗 :Lv6
〖麻痺耐性〗:Lv3
〖幻覚耐性〗:Lv3
〖恐怖耐性〗:Lv5
〖混乱耐性〗:Lv2
〖呪い耐性〗:Lv1
<称号> :〖ザ・苦労人〗
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「どうだ、オーク討伐でまたレベルが上がったぜ」
「ま、良さげな感じね。」
「だろ。それと、いままで失敗ばかりで全然使えなかった〖鑑定〗スキルがやっと実用的なレベルになったぞ」
「ああ。〖鑑定〗って低レベルのうちはまともに鑑定できないんだっけ? ところでスキルについてはどんな感じに鍛えるつもりなの?」
「俺としては、機動力を伸ばしていきたいな。〖回避〗や〖瞬動〗とか。あと、魔法についてはここらで〖光魔法〗のレベルを上げて〖ヒール〗を取得したい。確か〖Lv3〗で取得できるんだよな?」
「そうよ。まあ何か分からないことがあれば相談に乗ってあげるから、遠慮なく言いなさいな」
「ありがとよ。もし躓いたときはよろしく頼むわ」
アルフレッドの返事にリリヴィアは満足げに頷く。
「あと、借りてた宿代、忘れないうちに返しとく」
アルフレッドは宿を取るときに借りていた金を返した。
「あら、いいの? アルは装備にお金使っちゃったから余裕ないんでしょ? 別にしばらく貸したままでもいいのよ?」
「一応道具類は一通り揃っているし、オーク討伐で最低限の旅費は稼げたからな。それにこういう借りはなるべく早く返しときたいんだよ」
「了解」
こうして2人の話し合いは終わり、翌日にこの街を旅立つのであった。
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物語世界の小ネタ:
〖光魔法〗などの技能スキルはレベルが上がると、そのレベルに応じた新しいスキルが使えるようになります。
また、同じスキルでもスキルレベルが高くなるほど、精密な操作ができるようになります。
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