第25話 【オーク討伐】討伐終了

 「あぶねえ。気付くのがもう少し遅れていたら奇襲をくらってた……」

 「〖気配察知〗や〖危険察知〗スキルがあっても意外と気付かないものなのね」


 オークキングを探し始めたアルフレッド達だったが、居場所はすぐに判明した。

 後方の森へ向けて〖気配察知〗スキルを発動したところ、走って数分の距離にまで迫られていたことが分かったのである。


 アルフレッド達が防衛線を張った地点とオークキングがいた地点との間は木々が生い茂り、また急な坂道などもあるため、目視では相手の姿を確認できなかった。

 仮にあと10分気付くのが遅れていた場合、背後から不意打ちを受けていたところだった。


 「そういえば、エリック師匠が良く言ってたな。いくら察知系のスキルを鍛えていても無意識な思い込みがあったり油断したりしていると迫る危機に気付けなくなる、と。体験したのは初めてだな」

 「要するに油断大敵ってことね。特に今回は目の前にオークの大群がいたせいで注意を引き付けられていたし……」


 オークキング達は〖隠密〗スキルを持っておらず気配を消し切れていないので、〖気配察知〗スキルで接近に気付けそうなものであるが、目前にオーク達が迫っている状況下では目の前のオーク達に意識が向くため、冷静な判断力がないと意外と気付かないものなのである。


 「オークキング1体とオーク、ハイオークが合わせて約100体。すまんが頼むぞリリ。抜けていこうとする奴は俺が止める」

 「任せなさい」


 アルフレッドとリリヴィアは眼前にオークキング率いる部隊を見据えながら武器を構える。

 一方オークキングの方は———


 (チイッ、奇襲ノ前ニ見ツカッテシマッタカ……背後カラ攻メ、敵ヲ崩シタトコロニ崖下ノオーク達ヲ突入サセテ一気ニ皆殺シニスルツモリダッタノダガ……フン、ソレナラコノ2人ヲ殺シ、ソノママ崖上ヲ攻メテ制圧スルマデヨ)


 ———唸りながら作戦を奇襲から強襲へと切り替え、配下と共に突撃していく。


 「地殻魔法〖ルインオスガーデン〗」


 リリヴィアが魔法を唱えた瞬間、オークキング達の周囲が一瞬で泥沼と化した。

突然地面が沼となったことで、オークキングやその配下のオーク達は足をとられて動きを止めてしまう。 

 さらにその泥沼から幾多の植物が生えてきてオークキング達に絡みつき、拘束しだした。


 これは土魔法系統の最上位、地殻魔法スキルの一つである。

 実力を誤魔化しているリリヴィアは使えないことにしているのだが、この場にはアルフレッドとリリヴィアの2人しかいないので気にしない。


 (クソッ! コンナモノ! ……引キチギレナイダト!? ……シカモ力ガ吸ワレル!? オノレッ!!!)


 突然生えてきた植物に捕らえられたオークキング達は拘束から脱出しようと必死でもがく。

 だがリリヴィアの魔法によって作られた植物は恐ろしく頑丈であり、オークキングの怪力を以てしても逃れることが出来ない。

 しかも、<HP>が吸い取られるおまけつきである。


 「オークキングって本来は相当手強い魔物のはずなんだけど、リリが戦うと呆気ねえな……ていうか俺要らなかった? リリ1人であっさり全滅させられそうなんだけど」


 実際このオークキングは決して弱くはない。

 恐ろしいまでのタフさと並の冒険者であれば一撃で葬れる攻撃力を持つ上に、集団の指揮能力と配下全体に及ぶ強化能力まで持っており、本来なら軍隊を動員して討伐すべき強敵だ。


 ただ戦った相手があまりにも悪すぎた。

 それだけだ。


 「さすがにこれだけだと時間がかかりそうだし、さっさと終わらせるわね。〖衝撃波〗」

 「グオッ!?」


 このままでもいずれ力尽きるだろうが、リリヴィアは止めを刺すために大剣を振るって衝撃波を放ち、オークキングを深く切りつける。

 傷口から鮮血が迸り、一目で致命傷と分かる傷がオークキングに刻まれる。

 

 (コレマデカ……ダガ、セメテ一矢報イテクレル……!)


 最期を悟ったオークキングは、残る全ての力を込めて叫んだ。


 「オオオォオォオオー――!!!」

 「ああっ、しぶといわねっ! もう1発〖衝撃波〗!」


 再びリリヴィアが攻撃し、オークキングは力尽きた。

 さらに他のオーク達にも止めを刺して全滅させる。


 「ごめん。ちょっと油断したわ。オークキングの最後の咆哮は配下に総攻撃を命じるものみたい……〖気配察知〗で感じ取ったけど、断層での戦いが一気に激しくなったわ」

 「ああ、俺も感じてる。急いで戻ろう」


——イルドーアの森、断層地帯にて————————————————


 「くそっ! こいつら急に激しく……! 何なんだよ、さっきの雄叫びは!」

 「うろたえるな、オークジェネラルの1体は俺が受け持つ! もう1体はお前たち総出で掛かれ! 後ろから聞こえてきた雄叫びについてはアルとリリに任せておけ!」

 「ほ、他のオークも次々に登ってきてます!」

 「まだ数はそこまで多くない! 粘れ!」


 オークキングの最期の咆哮の後、断層地帯のオーク達が一気に総攻撃をかけてきたのである。

 オークキングの死によって固有スキルによる全体強化は解けていたのだが、狂暴化だけ残っていたのか、あるいは主の仇を討とうとしているのか、彼らは全員が死に物狂いで突撃してきた。


 それまで魔法の射程外に控えていたオークジェネラル2体がその身体能力に任せて崖を駆け上がり、その後他のオーク、ハイオーク達が崖下に詰め寄り、目の前の仲間を踏みつけ足場にすることで、後ろのオーク達が崖を登ってきたのである。


 それまでの戦いを優位に進めてきたとはいえ、オーク達はまだ千体ほどは残っている。


 「オオォオォオー-!」

 「うおー! 意地見せてやらあ!」


 冒険者達は見事な連携で立ち向かうが、オーク達は次々と崖を登ってきており、戦況はどんどん不利になっていく。


 「ギルド長! もう退きましょう! これ以上は持ちません!!」

 「まだだ! 死守しろ! もう少しで戦いの流れが変わる!」


 エルガーは激戦の中で叱咤激励を続け、自分自身も剣と大盾を振り回して戦う。


 「〖神速の一閃〗! 〖大切断〗!」

 「風魔法〖ワールウィンド〗!」

 「リリ、アル!」

 「エルガーさん、オークキングは討伐したわ! 後ろに回った奴らも全滅させた!」

 

 そこにリリヴィアとアルフレッドが戻ってきて、戦いながらオークキング討伐を報告する。


 「よし、皆、オークキングは倒したぞ! 後は2体のオークジェネラルを倒せばこいつらは瓦解する!」

 「「「うおー!」」」

 「「「オオォー!」」」


 冒険者達はオークキング討伐の知らせに戦いながら歓声をあげるが、それを挑発と受け取ったのか2体のオークジェネラル達もまたいきり立って武器を振り回しながら突撃してきた。

 1体はエルガーに襲い掛かり、もう1体はオーク達相手に無双しているリリヴィアへ向かう。


 「ふん!」

 「〖刺突九閃〗!」


 エルガーはオークジェネラルの攻撃を大盾で受け止め、ダンが横から槍を突き刺して倒す。


 「〖ナイフ投げ〗!」

 「いいところに来たわ! 〖大切断〗!」


 リリヴィアに向かったオークジェネラルは、アルフレッドが投げたナイフを目に受けて怯んだところをリリヴィアに一刀両断される。


 「後は雑魚だけだ! 掃討開始!」

 「任せなさい! やってやるわ!」


 リリヴィアを筆頭に冒険者達が攻勢に出たこともあり、リーダーを失ったオーク達は急速に勢いを失くし、やがて戦意を喪失して森の奥へと逃げ帰った。


 ちなみに戦いの中で戦術魔法を放った際に周囲の草木に引火してしまっていたのだが、運よく燃え広がることはなく、戦いが終わったころには鎮火していた。


 それから数時間後にアルフレッド達は要請によって出動してきた騎士団と合流し、丸1日様子を見た後に解散、レイドクエストは完了となる。

 その後は国の騎士団によって逃げていったオーク達の残党狩りが行われ、数日後に事態は終結したのであった。




————————————————————————————————


 物語世界の小ネタ:


 〖気配察知〗や〖危険察知〗などの察知系統のスキルは常時発動しているわけではなく、使用者が意識していないと発動しません。


 それほど負担はないので熟練者であれば長時間発動し続けることもできるのですが、何かの拍子に集中が途切れたりすると、スキルも途切れてしまいます。


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