第24話 【オーク討伐】撤退戦2

 アルフレッド達はひたすら走る。

 拠点を捨てて目指すは森の中にある断層地帯である。

 拠点から走って10分程の距離にあり、高さ5m前後の段差で敵の突撃を食い止めることが出来るため、拠点を捨てた後の防衛地点として選ばれていたのだった。


 「くそっ、オークの方が速い! 追いつかれる!」


 彼らの後ろからオークの軍団が追いかけてきている。

 拠点から離れる際に使った【煙玉】による煙幕で、多少は距離が開いていたのだが、それがだんだん縮まってきているのである。


 あまり素早くないオーク達だが、彼等はオークキングのスキル、〖オークディザスター〗の影響で素早さが上昇しており、中にはアルフレッド達を上回るスピードで走っているものがいるのである。


 「おいアル、俺を降ろせ! 【ポーション】を飲んだから傷はもう塞がった」

 「ホセさん、走れますか?」

 「もちろんだ! 安心しろ!」


 アルは走りながら背中に背負っていたホセを降ろす。

 ホセは拠点から離脱する際にオークに斬られ、アルフレッドに助けられたのだった。


 「死ぬ気で走れ! 追いつかれるぞ!」


 エルガーが檄を飛ばすが、オーク達の先頭を走っていたオークジェネラルがついに冒険者達に追い付く。


 「ウオォー!」

 「ちくしょう! 追いつかれた!」

 「泣き言言うな! なんとか凌ぐぞ! ギルド長は先に行ってください」

 「すまんが、任せた」


 ガイルとダンがオークジェネラルに攻撃を仕掛け、殿を買って出るが、他のオーク達も次々に追い付いてくるため、アルフレッドも殿に加わる。

 ガイルに襲い掛かろうとしていたオークを切り伏せ、近づいてくるオークジェネラルを鑑定する。


 「〖鑑定〗」


---------------------------------------------------------------------------------


<名前> :ブル

<種族> :オークジェネラル

<ジョブ>:豚鬼将Lv31/55

<状態> :攻撃力上昇(小)、防御力上昇(大)素早さ上昇(小)、狂乱(中)

<HP> :470/470

<MP> :135/145

<攻撃力>:191(174)+22

<防御力>:350(250)+ 5

<魔法力>:118

<素早さ>:123(112)

 ・

 ・

 ・


---------------------------------------------------------------------------------


 (うわ……分かっちゃいたけどめちゃくちゃ強い。しかもさっきガイルさん達から攻撃受けたはずなのに<HP>が全然減ってない。<防御力>が高すぎてダメージが通ってないのか)


 アルフレッドはオークジェネラルが突き出してくる槍を躱す。

 そこに別のオークが槍で攻撃してきたので左腕の小盾で弾く、さらに後ろに回ってきたオークが———


 「〖鎧通し〗! からの魔剣能力発動!」

 「プギャッ!?」


 ———攻撃してきたのを躱し、カウンターで仕留める。


 「〖火炎突き〗!」

 「〖紫電槍乱舞〗!」


 ガイル、ダンも群がってくるオーク達を相手に奮闘しているが、そこにオークジェネラルの槍が来る。


 「ヴァーー!」

 「ぐっ!」

 「がっ!?」


 2人はすんでのところで躱すが、直後にオークジェネラルは槍で薙ぎ払うように振り回し、2人は吹き飛ばされて地面を転がる。

 そこにオーク達が襲い掛かるが———

 

 「〖連射〗! 早く退け! 逃げられなくなるぞ!」


 ———カムが少し離れたところから弓矢で援護する。


 「退くぞ! 急げ!」

 「グオー!!」

 「くそっ!」


 ガイル達は即座に退却しようとするがオークジェネラルがしつこく攻撃してくる。


 「〖一閃〗! ……ちくしょう、固すぎる」


 アルフレッドがオークジェネラルを斬り付けるが、剣の刃がオークジェネラルの肉体に撥ね返されてしまった。

 オークジェネラルはオークキングの能力だけでなく、自分自身の能力も使用して防御力を最大限に高めているので、アルフレッドの攻撃力ではまともなダメージを与えられないのである。


 「アァー!!」

 「くぅっ!」

 「俺に任せろ!」


 オークジェネラルの攻撃をアルフレッドが躱したところにガイルが割って入る。


 「ガイルさん!」

 「〖鬼怒烈衝〗!」

 「グッ!?」


 ガイルが強烈な掌底を放ち、オークジェネラルを突き飛ばす。

 それと同時に横から別のオークがガイルに襲い掛かるが、カムの放った矢を頭に受けて倒れる。


 「少し時間稼いだらすぐに俺も行く! お前らは先に行け!」

 「ガイル、すまんが頼んだ! アル、あいつは過去に数十体のオーガに囲まれて袋叩きにされても生き延びた奴だから心配するな。行くぞ!」

 「すごいっすね!? ……すみませんが頼みます、ガイルさん」


 ガイルに殿を任せ、ダンとアルフレッドは再び退却を始める。

 彼らを逃がすまいとオーク達が追ってくるが———


 「〖乱れ射ち〗!」

 「〖刺突九閃〗!」

 「〖鉄切り〗!」


 ———カムの援護射撃のもと、ダンとアルフレッドは群がるオークを斬り伏せながら走る。

 アルフレッドが後ろを見ると、ガイルはオーク達の攻撃を捌きながら後退していた。

 ちなみにカムは後ろ向きに走りながら射撃を行っている。

 ここは森であり、当然そこら中に木の根や枝があるのだが、彼は後ろを向いたまま全く躓くこともぶつかることもなく走っているのだ。


 「カムさん、よく後ろ向きで森の中を走れますね!」

 「ははっ、〖魔力探知〗の応用だ。魔力を周囲に飛ばして、反射してくる魔力を感じ取って地形や障害物を調べる技法があるんだよ。〖ソナー〗って呼ばれている。アルも慣れさえすれば出来るんじゃないか?」

 「今度練習します」


 そんなことを言っている間もオーク達が後ろから襲ってくるが、彼らは止まることなく走る。

 やがて、次の目的地である断層地帯に近づいてきた。


——イルドーアの森、断層地帯にて————————————————


 「ギルド長が着いたぞ!」

 「他のやつらも到着し始めたけど、後ろの一部が追いつかれて追撃されてる……」


 次の防衛線となる断層地帯では、一足早く退却した者達がエルガー達を出迎えていた。

 そこは5m程の高さの崖となっており、土魔法で作った即席の土板で崖下から崖上への道を作り、退却してきた冒険者達を通している。


 「仲間の退却が済み次第、お前らにはもう一度戦術魔法を使ってもらう。できるな?」

 「「「了解」」」

 「エルガーさん。私の<MP>は余裕があるから、退却の援護もできるけど、やってもいい?」

 「リリか。よし、それなら頼む。言うまでもないが戦術魔法に支障をきたさない範囲でやれよ」

 「了解」


 エルガーの許可を受けたリリヴィアは魔法攻撃で退却を援護する。

 味方に当てないように、しかし敵は必ず仕留めるように、まるで生粋のスナイパーのごとく的確に放たれた攻撃は、タフなはずのオークを次々と仕留めていく。


——イルドーアの森、オーク集団の後方にて————————————


 オークキングは苛立っていた。


 彼は配下のオークから人間が攻めてきたという報告を受け、動かせる全兵力を持って迎撃に出た。

 攻めてきた人間はわずか数十人程度であり、約2千からなる勇猛なオーク達がひとたび立ち向かえば容易く皆殺しにできる。

 そう考えていたが、実際は人間による強力な魔法攻撃で大きな被害を受けた。


 想定外の反撃を受けたことで手下が動揺し、その動揺を抑えて戦いを続行するために切り札である〖オークディザスター〗を発動。

 狂暴化することで再び勢いを盛り返し、逃げる敵を追撃するものの、味方の被害の方が大きい。

 追撃の中で数人の敵を仕留めたが、壊滅させることはできていない。


 敵は断層地帯に拠って対抗する構えであり、このままいけば断層を乗り越えようとしたところで再び魔法攻撃の餌食にされてしまうことが目に見えている。


 (〖オークディザスター〗ヲ使ッタノハ失敗ダッタカ……? 狂暴化シタコトデ勢イヅイタガ、ソノ代ワリニ細カイ指示ガ出来ナクナッタ。スキルヲ解除スルコトモ出来ルガ、ソレヲスルト士気ガ保テズ、戦イヲ続ケラレナイカモシレン……オノレ……)


 オークキングは少しの間悩んだ後、隣にいるオークジェネラルに狂暴化中でも実行できる程度の簡単な指示を出し、自身は百体ほどの手下を率いて行動を始めるのだった。


——イルドーアの森、断層地帯にて————————————————


 「急げ急げえ!」

 「ぎゃあ!」

 「くそ」


 新たな防衛線となった断層地帯では、冒険者達が退却していた。

 オーク達の追撃は激しく、中には攻撃を背中に受けて倒れる者もいたが、皆優秀な冒険者であり、先に退却していた者達からの援護もあって、間もなく退却が完了しようとしている。


 (土板のところから結構流されちまったな)


 アルフレッドは冒険者達の中では最後尾にいたためオークからの追撃を捌きながら走っていた。

 崖下から崖上へと上がるための土板を目指して走っていたのだが、後ろからの攻撃が激しく、また数体のオークが前に回り込んでくるのを避けて走ったため、方向がずれて土板にたどり着けなかったのである。


 走る彼の目の前には4~5m程度の高さの崖があり、すぐ後ろにはオーク達が迫っている。


 (まあ、このぐらいなら板なんてなくても問題なく上がれるか。跳んだ時に後ろから攻撃を受けないように注意して……)


 アルフレッドは走る速度を落とさず跳躍し、そのまま駆け上がるようにして崖上に登った。

 後ろのオーク達は彼と同じ芸当はできなかったようで、崖をよじ登ろうとして失敗している。


 「戦術魔法を始めろ! 狙いは土板近くのオークどもだ!」

 「「「戦術魔法構築開始!」」」


 アルフレッドの退却が終わったのを見たエルガーは、土板の上を走って突撃してくるオーク達を抑えながら、戦術魔法の指示を出す。

 退却はアルフレッドが最後だったのである。


 (オーク達は狂暴化しているせいか、勢い任せの突撃しかできないみたいだな。密集しているところに戦術魔法を撃ち込んで、また数を減らせば勝ち目も見えてくるぞ。)

 「「「火魔法〖ファイアボム〗!」」」


 アルフレッドの期待通りに戦術魔法が放たれ、土板の近くにいた2百~3百体ほどのオーク達が爆発によって吹き飛ばされる。

 拠点で放った時に比べると、オーク達がやや分散した状態になっているため討ち取った数は少なくなったものの、攻撃と同時に土板も破壊したため、オーク達は崖上へは簡単には上がれなくなった。


 「戦術魔法を撃った奴らは下がって<MP>を回復しろ! それ以外の奴らはオークの迎撃! 飛んでくる矢に注意して弓兵を優先して叩け! 崖をよじ登ってくる奴らもいるだろうが蹴落としてやれ!」

 「「「はい」」」


 数はいまだにオーク達が圧倒しているが、崖下にいるオーク達からは一部の弓兵しか攻撃できるものはおらず、また崖をよじ登れるものも多くはない。

 そのためしばらくの間、戦いは冒険者達の優位に進んだ。

 ……だが、一部の冒険者達の顔つきがだんだん険しくなってくる。


 「エルガーさん。敵の中にオークキングがいません。気のせいかと思ったんですが、何回確認しても〖気配察知〗にかかりません」

 「お前もか。アル、俺もさっきから探しているんだが、全く見つからん。お前もそうだと言う以上、気のせいではないな。どこかのタイミングで戦場から離脱したとみるべきだろう」

 「向こうが何を狙っているのか、分かりますでしょうか?」

 「……この状況なら、一番可能性が高いのは俺たちの背後を突くために迂回しているパターンだろうな。どこかから崖上に登って俺たちの背後に現れる気だ」

 「オークキングを探して討ち取りたいんですが、リリを連れて行ってもいいでしょうか? ……見張っていた時にオークキングの<ステータス>を見たんですが、あいつじゃないと倒せないです」

 「許可する。その代わり、しくじるんじゃないぞ。戦いの勝敗はお前たちにかかっていると思え。俺たちは目前のオーク共の相手に専念する」

 「了解です」


 こうしてアルフレッドはリリヴィアを連れて森の中を走るのだった。




————————————————————————————————


 物語世界の小ネタ:


 魔物のランクとレベル上限について:


 魔物はランク毎にレベルの上限がだいたい決まっており、鑑定でレベルの上限を確認することで対象の魔物がどのランクなのかが分かります。

 また、同じランクかつ同レベルの魔物同士でもレベル上限が高い方が強かったりします。


 ランク別のレベル上限は以下の通り。


 Fランク : Lv5~10

 Eランク : Lv8~20

 Dランク : Lv20~50

 Cランク : Lv45~70

 Bランク : Lv65~90

 Aランク : Lv90~135

 Sランク : Lv140~


 一般の冒険者や兵士にとって、Eランク以下は雑魚、Dランクはやや強めの敵、Cランクは強敵、Bランク以上はボスといった認識です。

 Cランク以上の魔物を倒すことが出来れば、周りから一目置かれるようになります。

 ちなみにAランクの魔物は極めて数が少ないので、普通の冒険者はまず出会いません。

 Sランクにいたってはほとんど伝説上の存在であり、一般的にはおとぎ話の中にしかいないと思われています。

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