第23話 【オーク討伐】撤退戦1

 オーク達が拠点に現れるとエルガーが声を張り上げる。

 この拠点には東西南北に4箇所の入り口があり、エルガー達がいるのは拠点北側の入り口である。


 「全員に通達! オークが来たぞ! 各自、作戦は頭に入れているな! まずはここで敵の数を削る!」

 「「「うおーー!!!」」」

 「「「オォーー!!!」」」


 エルガーの言葉に冒険者達が雄叫びを上げ、それに触発されたのかオーク達も雄叫びを上げながら突撃してくる。


 「よし! 南側の入り口まで退却! オークを拠点の中に誘い込め!」


 オーク達が入り口に迫ってきたところで、エルガーが退却の指示を出し、入り口に配置されていた10人ほどの冒険者達は退却を始める。


 (まず、上手く拠点内に誘い込めるかどうかが肝心だが……)


 アルフレッドは他の冒険者達と一緒に退却しつつ後ろを見る。

 〖気配察知〗で確認してみるとオーク達は大半が拠点内に雪崩れ込んで来ているが、一部が拠点の左右に周り込もうと動いているのが分かる。

 

 (……一応上手くいっているな。左右に移動している奴らに退路を断たれたら厄介だけど、そこは東西に配置された人達に期待しよう)


 東西の入り口には2人ずつ冒険者が配置されており、彼らが左右に周り込んできたオーク達を拠点内に誘導するのである。


 「「こっちだ! 来いよオーク共!」」


 冒険者達は大声をあげてオーク達を挑発して拠点内に入ると、オーク達は我先にそれを追って拠点に入っていく。


 「正面の北側じゃなかったから、ついてると思ったのに、むしろ貧乏クジじゃね?」

 「ははは、死にたくなかったら走れ。足の速さには自信あるんだろ?」


 東西の入り口から拠点内に逃げ込んだ冒険者のもとには既に北側の入り口から入ってきたオーク達が迫ってきているのである。

 彼らは苦笑しながら、すぐそこまで来ているオーク達から逃げる。


 そのころ南側では土塁の上に冒険者達が陣取っており、オーク達が3つの入り口から拠点に雪崩れ込むのを眺めていた。


 「作戦通り、順調ね」

 「リリヴィアさん、よくそんなに落ち着いていられるわね。私なんか不安に圧し潰されそうなのに」


 リリヴィアも南側に配置されており、他の冒険者達が緊張している中で1人だけ余裕の表情をしている。

 その様子を見て、隣にいる冒険者の女性が声をかける。


 「ドゥエ、こういうのは楽しまなきゃ損でしょ! せっかく魔法が使えるんだから、ガンガン行くのよ」

 「この状況を楽しめるってすごいわ……」


 彼女らの目の前では北側、西側、東側に配置されていた冒険者達が南側の入り口付近に移動しており、それを追うオーク達もすぐそこまで来ている。

 拠点内はオーク達で埋め尽くされようとしており、ドゥエと呼ばれた冒険者にとってはとても楽しめる状況ではない。


 「〖フォートレスガード〗!」


 オーク達が殺到する直前にエルガーが盾術の上位、盾聖術のスキルを使用し、半透明の巨大な障壁を作り出す。


 ガンッ!

 ガキン!


 オーク達は突然出現した障壁に攻撃するが、障壁はびくともしない。

 エルガーの横にいたアルフレッドは障壁をこっそり鑑定してみる。


 「〖鑑定〗」


---------------------------------------------------------------------------------


<名称>:フォートレスガード

<説明>:盾聖術Lv2以上で使用できる防御スキル。

     使用者を中心に半円状の障壁を作り出す。

     障壁の大きさや強度はスキルレベル、消費MP、魔法力に依存する。

     発動中は継続的に<MP>を消費する。


---------------------------------------------------------------------------------


 (盾術系統の防御スキルか。こんなのもあるんだな。発動中はずっと<MP>消費するから長時間維持はできないみたいだが、軍団の突撃を受け止めたのはすごい)


 アルフレッドが感心していると、エルガーが味方に指示を出す。


 「南側部隊、いまだ! 始めろ!」

 「「「戦術魔法構築開始!」」」


 エルガーの指示で南側に配置されていた冒険者達が魔力を同期して戦術魔法の発動に取り掛かる。


 戦術魔法とは複数の術者が魔力を同期した状態で同時に発動することで、強力な魔法を放つ技法である。

 魔法の発動に時間がかかるものの、術者それぞれが単発の魔法を放つよりも大きな破壊力を持たせることができるため、戦争でも切り札の一つとされている。

 南側にはこの戦術魔法のために、魔法が得意な冒険者を固めて配置されていたのである。


 「「「火魔法〖ファイアボム〗!」」」


 ズガァーーン!!!


 巨大な火の玉が作り出され、障壁の上を飛び越えてオークの集団の中に入り、炸裂した。


 「……戦術魔法ってこんなすげえの!?」

 「いや、前にレイドクエストで見たことあるけど、ここまでじゃ……」

 「すげえ……オーク達があっという間に吹っ飛んだ……」


 〖ファイアボム〗は比較的下位の火魔法スキルだが、戦術魔法として放たれたことでその威力は桁違いに強化されていた。

 本来の〖ファイアボム〗の威力は敵1体を爆発で攻撃する程度なのだが、いま放たれたものは拠点内に入っていたオーク達全てを巻き込む大爆発を起こしたのだった。

 辺りには炭化したオークの死体が転がっている。

 冒険者達はエルガーの〖フォートレスガード〗のおかげで無事だったが、皆目の前の光景が信じられずに目を丸くしている。

 ちなみに四方を土塁で囲まれている拠点の中に放ったため、周囲の森への延焼はない。

 

 (……何だこの威力……戦術魔法といっても10人足らずでこんな威力出すのは無理だろ……いや確かにありがたいんだが……)

 「ふっ」

 (あいつかー!)


 エルガーも予想以上の威力に戸惑っていたのだが、唖然とする冒険者達の中で1人だけドヤ顔を決めるリリヴィアが見えて原因を察した。


 彼の想定ではオークを10数体吹っ飛ばす程度の威力だったのだ。

 もちろんそれだけでは大した戦果は見込めないため、周囲の草や木を切って拠点内に積んでおり、〖ファイアボム〗で火を放つことで拠点内を炎で包みこみ、オークが混乱している間に退却するというのが本来の作戦であった。


 しかし実際にはリリヴィアが戦術魔法の術者に加わったことで、威力が劇的に跳ね上がったのである。


 リリヴィアの<魔法力>は900(装備品の補正込み)で他の魔法使いの5~10倍くらいはある上に〖魔法規模拡大〗スキルによって放つ魔法を強化することができ、その結果数百体のオークを一撃で吹き飛ばす威力の〖ファイアボム〗を放つことが出来たというわけだ。


 (……なんか、リリをぶつければ逃げなくても勝てる気がしてきたんだが……いやいや、急に作戦を変えると混乱を生む。それに倒したのは拠点内に入ってきていたオーク達だけで、後ろの方にはまだかなりの数が残っているし……ここは当初の作戦通りに行くべきだ!)


 エルガーは迷ったものの、撤退を続行することにして大声を張り上げる。


 「いま、戦術魔法を放った奴らは退却開始! それ以外の奴らは時間を稼げ! 5分でいい!」

 「「「り、了解!」」」


 エルガーの言葉に他の冒険者達も我に返り、動き始める。

 その時————


 『オノレ! ヨクモ我ガ精鋭タチヲ……!』

 「何だ? 〖念話〗か?」

 「動きを止めるな! さっさと退却しろ!」


 ————オーク達の方から頭の中に直接語り掛けてくるような思念が飛んでくる。

 自分の思考を相手に読ませて相手の思考を読み取るスキル、〖念話〗である。

 魔物の中にも〖念話〗が使えるものはおり、そういった魔物が人間と意思疎通を図ることは稀にあるのだが、どうやらオーク達の中にも〖念話〗の使い手がいるらしい。


 『我ラオークノ恐ロシサヲ思イ知ラセテヤル! 〖オークディザスター〗!』

 「「「グオォーーー!!!」」」


 怒りの感情と共に思念が飛び、オーク達が雄たけびを上げて向かってくる。


 「来るぞ! この声、オークキングだ!」

 「オォーーー!」

 「オークジェネラルっ! 生きてたのか」


 さらに〖ファイアボム〗を受けて倒れていたオークジェネラルが立ち上がり、突撃してくる。

 アルフレッドは相手の状態を確かめるために鑑定を行う。


 「〖鑑定〗」


---------------------------------------------------------------------------------


<名前> :ゴーイ

<種族> :オークジェネラル

<ジョブ>:豚鬼将Lv30/55

<状態> :攻撃力上昇(小)、防御力上昇(中)、素早さ上昇(小)、やけど(大)、狂乱(中)

<HP> : 37/450

<MP> :鑑定に失敗しました。

 ・

 ・

 ・


---------------------------------------------------------------------------------


 (うん。完全に〖オークディザスター〗発動してるな。死にかけだけど)

 「俺に任せろ! 〖鬼突連撃〗!」

 「ガァッ!?」

 

 アルフレッドの近くにいたガイルが素早くオークジェネラルの懐に潜り込み、拳による連撃で止めを刺す。


 「よし! だがまだ油断するな! 土塁を利用して迎え撃つ! 退路を断たれないように気を付けろ!」


 エルガーは大声で指示を出し、その指示に沿ってアルフレッド達が動く。

 既にリリヴィアを含む戦術魔法のメンバーは退却を始めており、それ以外の冒険者達は南側入り口を出たところで土塁を盾にするように陣取る。

 

 「〖フォートレスガード〗!」


 エルガーが〖フォートレスガード〗を再発動して、消えていた障壁を再び出現させてオーク達の突撃を受け止める。


 「正面は俺に任せろ! お前たちは左右から回ってきている奴らを足止めしろ!」

 「「「はい!」」」


 アルフレッドを含む冒険者達は拠点の左右から回り込んできた数十体のオーク達を迎え撃つ。


 「「「うおーー!!!」」」

 「「「ガァーー!!!」」」

 「〖一閃〗!」

 「〖刺突九閃〗!」

 「〖衝撃波〗!」


 アルフレッドがオークの1体を斬り付け、ダンが別の1体を槍で刺し殺し、ガイルが繰り出した拳から衝撃波を発して攻撃する。


 「〖連射〗!」

 「〖強撃〗!」


 カムが続け様に矢を放ち、見張りに出ていたホセがオークを攻撃しつつ合流する。


 「〖狙い撃ち〗!」

 「バルさん! 無事だったんですね。」


 見張りの際にオーク達に見つかって追われていたバルが現れてオークの1体を射殺する。


 「次々に来るぞ! 油断するな!」

 「「「ガァーー!!!」」」

 「くそっ、こいつらしぶとい!」


 奮戦する冒険者達だったが、次第にオーク達の数に押され始める。

 アルフレッドがオークの攻撃を躱しつつ反撃して1体を倒すが、すぐにその奥から別のオークがアルフレッドを攻撃してくる。

 さらにそのオークの後ろからは先ほどとは別個体のオークジェネラルが迫ってきていた。


 「オークジェネラル!」

 「ガァー!」

 「くっ、なんの!」

 「5分たったぞ! 全員退却開始!」


 アルフレッドがオークジェネラルの攻撃を凌いでいるとエルガーから退却の指示が出る。

 指示が出た直後、そこかしこから煙が出始め、視界を奪った。

 【煙玉】というアイテムであり、名前の通り使うと大量の煙を出す撤退用の道具である。

 エルガーを含む数人の冒険者が撤退のために使ったのであった。


 「今のうちに撤退しろ! 急げ!」


 こうしてアルフレッド達も撤退を開始するのであった。




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 物語世界の小ネタ:


 オーク討伐で出てきた冒険者たちの<ジョブ>は以下の通りです。

 ちなみにカムはアルフレッドと同じ【斥候】ですが、武器は剣ではなく弓矢を使います。


 ホセ (Dランク冒険者) : 【剣士】

 ドン (Dランク冒険者) : 【剣士】

 バル (Cランク冒険者) : 【弓士】

 カム (Cランク冒険者) : 【斥候】

 ドゥエ(Dランク冒険者) : 【魔法使い】

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