第22話 【オーク討伐】撤退戦開始
カムからオーク達の情報を得たアルフレッドは、急いで拠点に戻りエルガーに報告した。
報告を受けたエルガーは、苦虫を噛み潰したような顔をしながらも周りの冒険者たちに指示を出す。
「皆聞け! 敵の数が多すぎる。一時撤退するしかない。ただし、ここから何もせずに引くわけにもいかん! 仮に俺達が戦いを放棄して街に逃げ戻った場合、オーク達がその後を追って街に襲い掛かってくる可能性があるからだ!」
周囲がざわつくが、エルガーはそれにかまわず言葉を続ける。
「まず、街に鳥を飛ばして、こっちの状況を伝える」
エルガーは懐から鳥の形をした魔道具【伝書鳥】を取り出すと、素早く手紙を書いて【伝書鳥】に持たせて解き放つ。
【伝書鳥】とは、連絡用魔道具の1種であり、手紙を持たせて飛ばすと、予め登録した場所に飛んで行き、手紙を届けることが出来るのである。
登録していない場所には届けることが出来ないものの、早馬の何倍も早く届くため、都市間の連絡や今回のような戦場から街や砦などへの緊急報告を出す際に重宝される。
「いま、街の領主宛に騎士団の出動要請を出した。不測の事態に備えて予め話は通してあるから、しばらくすれば騎士団が防衛線を張るはずだ。それまで、俺達はこの森でオーク達の足止めを行う! いいな!」
「「「はい!」」」
エルガーの指示を聞いて、周囲の冒険者も覚悟を決めて返事をする。
「よし! これからの作戦を伝えるぞ! よく聞けよ、お前ら!」
こうしてエルガーがこれからの撤退作戦を説明し始める。
(撤退作戦が既に用意されてた! っていうか手際の良さがすごい。優秀なリーダーは想定される事態に備えて、事前にいくつも作戦を用意しておくものと聞いたけど、こういうことか)
アルフレッドはエルガーの作戦を聞きながら、彼の手腕に感服する。
作戦の説明が終わり、いくつかの質問などのやりとりが行われた後、アルフレッドは再びカム達の元へ向かう。
撤退作戦の内容を伝えるためである。
(エルガーさんの話じゃ、騎士団が防衛線を張るのは長く見積もって3時間後、それまでオーク達が動かずにじっとしていてくれたらいいんだが……そんなわけないよな……)
アルフレッドがそんなことを考えながら走っていると、前方からカムが走ってくる気配を捉える。
アルフレッドはカムのところに駆け寄って話しかける。
「カムさん」
「アルか」
「こっちはエルガーさんに報告してきました。これからは撤退戦で、騎士団が防衛線を張るまでの間、敵を足止めしながら退却します。そっちは、オーク達が動き出したんですか?」
「ああ、いまオーク達が全軍でこっちに向かってきている。俺はそのことをギルド長に報告するために走っているわけだ」
「了解しました。他の2人はオーク達のところですか? 俺はカムさん達に作戦を伝えるように言われているんですが……」
「ああ、そうだ。2人でオークを見張っている。気配を消しているだろうが、オーク達の近くにいるはずだ」
「了解です」
アルフレッドは作戦の概要を簡単に説明すると、残りの2人、バルとホセに伝えるために再び走り出す。
それからしばらく走ると今度は大勢のオーク達の気配を捉える。
(来た! 隠れないと!)
アルフレッドは木々の陰に隠れ、〖隠密〗スキルを使って自分の気配を消す。
少しするとオーク達が歩いてくる姿が見える。
(うーむ……やっぱ多いな。味方は35人しかいないのに、2000体を足止めって……)
オーク達が隊列を組んで歩いてくる様子を、アルフレッドは少し離れた木の陰から伺っていると、彼はオーク集団の先頭付近に一際大柄なオークがいるのを見つける。
普通のオークは人間と大して変わらない大きさなのだが、そのオークは全長2.5mくらいある。
「少し距離があるがいけるか……? 〖鑑定〗」
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<名前> :ゴーイ
<種族> :オークジェネラル
<ジョブ>:豚鬼将Lv30/55
<状態> :防御力上昇(中)
<HP> :450/450
<MP> :鑑定に失敗しました。
<攻撃力>:170 +20
<防御力>:288(240)+10
<魔法力>:鑑定に失敗しました。
<素早さ>:鑑定に失敗しました。
・
・
・
---------------------------------------------------------------------------------
(……ところどころ、鑑定失敗しているけど、これがオークジェネラルの強さか。昨日のハイオークより一回り強いな。こっちのメンバーの中であれと単独で戦えそうなのはリリとエルガーさんくらいか……どうでもいいけど、名前があるんだな……)
魔物の場合、名前がないことが多いが、中には名前を持つ者もいる。
オークのように集団で暮らすタイプの魔物であれば、一種の権威付けのため一定以上の地位にいるものに名前を付けていたりするのである。
アルフレッドはオークジェネラル以外のオークも何体か鑑定してみると、確認したオークは全員、防御力上昇のバフがかかっていた。
(何でどいつもこいつもバフがかかってるんだよ……ただでさえ、オークはタフなのに……)
さらにオークの集団が通り過ぎていくのを隠れて観察し続けると、集団の後ろの方にもう2体のオークジェネラルと全長3mのオークキングがいたので、アルフレッドは鑑定を試みる。
「〖鑑定〗」
---------------------------------------------------------------------------------
<名前> :グルゴル
<種族> :オークキング
<ジョブ>:豚鬼王Lv36/85
<状態> :通常
<HP> :770/770
<MP> :200/200
<攻撃力>:鑑定に失敗しました。
<防御力>:鑑定に失敗しました。
<魔法力>:鑑定に失敗しました。
<素早さ>:鑑定に失敗しました。
・
・
・
---------------------------------------------------------------------------------
(やべえ。オークキングめちゃ強い……<攻撃力>や<防御力>が鑑定失敗しているからはっきりとは分からないけど、Bランクの中でも上位の部類じゃないかコレ……とりあえず、こいつはバフかかってないんだな。戦闘に入ったら分からんけど……)
さらに2体のオークジェネラルも鑑定するが、こちらは先頭付近にいたオークジェネラルと大体同じような数値だった。
(とりあえず、バルさんとホセさんを探さないとな。 ……いた! いま動くとオーク達に気付かれかねないから、オーク達が少し離れてから合流しよう)
アルフレッドが気を取り直しつつ、周囲を〖気配察知〗で探ると、2人の気配を察知することに成功する。
バル、ホセの2人はオーク達の後方から、すこし距離を置いて尾行していた。
アルフレッドはオーク達が全て通り過ぎた後、見つからないように注意しながら、2人に合流する。
「バルさん、ホセさん」
「アル、よく分かったな」
「こっちはエルガーさんに報告してきまして、これからは騎士団が防衛線を張るまでの間、敵を足止めしながら退却することになりました。来る途中でカムさんに会いましたのであの人にも同じことを伝えています」
「「了解」」
それからアルフレッドは作戦の概要を説明して、その後話題はオーク達の話題に移った。
「あのオーク達、オークキング以外全員に防御力上昇のバフがかかってるんですけど……」
「ああ、それはオークキングの<特性スキル>だ。なんでも〖オークキング〗っていう種族固有スキルがあるらしくてな」
「そのまんまですね……」
「〖オークキング〗は指揮下にいるオーク達全ての<防御力>を引き上げるらしい。上位のハイオークやオークジェネラルなんかも対象だから、今の場合だとあの2000体全部に作用しているわけだ」
アルフレッドが半ば愚痴のように呟くと、バルがオークキングの特性について説明する。
特性スキル〖オークキング〗は少数であれば普通のバフスキルと変わらないのだが、今回のように数百、数千の規模での戦いでは恐ろしい効果を発揮する。
なにせ1体1体が全員パワーアップするため、全体の脅威が一気に跳ね上がるのである。
「ちなみにだが、〖オークキング〗とは別に〖オークディザスター〗というスキルもあるらしいぞ。こっちは<攻撃力>と<素早さ>を引き上げたうえで狂暴化させるんだとさ……もちろんこれも配下全員が対象な……」
「そうなんですねー……なんだか逃げたくなるような情報ありがとうございます……」
「奇遇だなアル。俺も逃げたくなってきたところだ……」
「お前らもか。アル、ホセ、俺も自分で言ってて逃げ出したくなってきた」
3人は死んだ目で乾いた笑いを浮かべて軽口を言い合う。
もちろん本当に逃げ出したりはしないのだが、存在するだけで群れをパワーアップしてしまうオークキングは本当に厄介なのである。
「この速度だと、拠点に着くのは30分後くらいか……一度、誰かが拠点に走って現状を知らせた方がいいかもな。ホセ、アル、お前らどっちか行きたい奴いるか?」
「俺は別にどっちでも構わないな。アル、お前はどうしたい?」
「俺は……うん? やばい! オークがこっちに来ます!」
3人がオーク達を尾行しながら話していると、オーク達のうち4体ほどがこちらに歩いてきていた。
いつの間にか風向きが変わっており、3人の匂いがオークのところに届いたらしい。
「お前ら、少しじっとしてろ」
バルはそう言って、身を屈めて木の根や草むらに隠れてオーク達の視界に入らないように注意しつつ、2人から距離をとると弓を構える。
「〖マジックアロー〗!」
バルは魔法の矢を放つ弓術スキルで1体のオークを射殺すると、その後素早く誰もいない方向に走る。
「「「プモォー!」」」
そしてその後を3体のオークが追っていった。
他のオーク達もバルに気付くが、彼らは追わずに進軍を続けている。
どうやらバルのことは3体のオークに任せることにしたらしい。
「追ってるのが3体だけなら、バルさん1人で何とかなるでしょう……ホセさん、俺が拠点に行って連絡したいと思います。こっちはお願いしても?」
「おう。こっちの見張りは任せとけ。それより見つからないように気を付けろよ」
「はい」
アルフレッドはオーク集団を迂回しながら拠点に走った。
上手く先回りして拠点に着いたアルフレッドは、エルガーにオーク達の現在地とここへの到着時間の見込みを報告し、エルガーはそれを受けてアルフレッドに指示を出す。
「了解だ。アル、お前の配置は俺と一緒で拠点北側の入り口だ。基本的には俺と一緒に行動しろ」
「了解しました」
その後しばらくしてオーク達が拠点に到着し、撤退戦が始まるのであった。
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物語世界の小ネタ:
魔物は生きて行く中で次第にレベルが上がっていきます。
基本的に鍛えるという考えを持たないはずの魔物がなぜレベルアップするのかは謎につつまれています。
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