第21話 【オーク討伐】初日の結果と2日目
——イルドーアの森の臨時拠点にて————————————————
オークの群れとの戦いが終わった後、ほどなくしてダン班が臨時拠点に戻ってきたため、エルガー、ガイル、ダンの3人ですぐに状況確認と話し合いがなされた。
そしてその夜、見張りを除く冒険者達が集められ、初日の戦いにおける結果と今後の方針が発表された。
結果は以下のとおりである。
戦果 :
討伐したのはオーク235体、ハイオーク5体。
オークジェネラルは討伐無し。
損害 :
エルガー班3名死亡、ガイル班4名死亡、ダン班死者無し。
負傷者は全員治療済、回復薬や食糧などの物資は十分余裕あり。
状況 :
相当数のオークを討ち取ったものの、事前報告にあったオークジェネラルがいなかったことから、いまだに敵が残っていると見られる。
人員について少なくない犠牲が出たが、物資はまだ余裕があり、レイドクエストの続行は可能。
ちなみに現在の人数は35名。
そして今後の方針はというと……
方針 :
オーク討伐のレイドクエストは継続。
ただし、戦力分散は危険なため、明日以降は基本的に全員でまとまって動く。
というわけで、オーク討伐は明日も続行することとなった。
これを聞いた冒険者達は一様に「げっ、まだ続くの? もう終わりで良くね?」という顔をするものの、特に方針に反対する者はおらず、解散となった。
冒険者達はそれぞれ仲間内で話し合ったり、拠点内に割り当てられたテントに戻るなど思い思いに過ごしている。
「リリ、思ったより大変なことになってきたな」
「そうね。一応まだ想定の範囲内だけど、一番悪いパターンの流れだわ」
アルフレッドはさっそくリリヴィアに話しかける。
今日は合計200体以上のオークと戦うことになった。
もともとの想定は最大1000体なので、想定外というわけではないのだが、戦いの流れはあまり良くない。
予め調べていたオーク達の拠点に50体ほどしかいなかったことで、「オークの群れは想定よりも数が少ないのではないか」という見方が生まれた。
そして探索効率を優先して班分けして行動した結果、戦力を分散したところにオークの襲撃を受けてしまったのだ。
一応は敵襲を警戒していて、3つの班の距離が開きすぎないように注意していたことと狼煙のアイテムを用意していたことで各個撃破される事態は避けられたが、オーク達の全体の規模は不明なままである。
「200体以上倒したことを思えば、結果的には順調にオークを討伐していると見ることもできるが……」
「そもそも、全体数が分かっていないんだから油断できないわ」
「そうなんだよな。それと一応オークジェネラルが群れ全体のボスと見られているが、これも今回確認できた中での最上位種がそれだったというだけで、確定しているわけじゃないんだよな」
「確かオークジェネラルの上はBランクのオークキングだったわよね。もしいたら私が倒してやるわ」
「ははっ、頼もしいな。お前ら」
話し合う2人にCランク冒険者のカム・ランドルフが話しかけてくる。
「あ、カムさん。お疲れ様です」
「お疲れ様。カムさん」
「お疲れ。2人とも今日は大活躍だったんだってな。特にリリはオークを蹴散らした後、魔法で怪我人を治したんだって? 俺の友人もあんたに助けられたって言ってたぞ」
カムは気さくな様子で2人を労う。
リリヴィアはカムの言う通り、戦闘後に回復スキルを使用して怪我人を治していた。
ちなみにリリヴィアは実力を隠しているため、使用したのは神聖魔法ではなく、その下位光魔法のスキルである。
「いや、それほどでも……カムさんこそ退却の援護でガイル班を救ったって聞いたわよ」
リリヴィアは気恥ずかしそうにしながら返す。
普段の彼女ならドヤ顔をするところなのだが、実力を隠してあえて下位のスキルで治療したことで、若干罪悪感を感じているのである。
なお治療した怪我人は完璧に治ったので、怪我人からは普通に感謝されている。
「俺は怪我したやつを背負って逃げただけだよ。 ……まあ、その様子なら大丈夫だろうが、今日はしっかり休めよ。明日も戦いだからな」
「はい。ところで、カムさんはどう思います? オークは残りどのくらいいるのかとか……」
「……まあ、あくまで俺個人の推測だが、たぶん今日倒した240体よりは多いと思うな」
「ふんふん。やっぱり、オークジェネラルがいるとそのくらいの規模になるのかしら?」
「上位種がいるからといって規模がデカいとは限らないさ。推測の根拠は、ガイル班とダン班が同時に襲撃を受けたことと、その襲撃の中に大将と思われるオークジェネラルがいなかったことだな」
「同時襲撃は偶然ではなく敵の大将が命じたこと、かつその大将がいなかったってことは本隊が別にいるはずってことですね」
「今日の襲撃は向こうにとっては威力偵察だったのかしら。 ……だとすると次は本隊が襲ってくるわね」
「敵がビビッて逃げてくれるんだったらありがたいが、まあ襲ってくるだろうな」
「ふふっ、まあ来たとしても心配いらないわ。いざとなったら私達で全滅させてやるから」
「えっ、私達って俺も? いや、そりゃ戦うけど……」
「ははは、そりゃ心強いな。頼りにしてるぜ」
「任せなさい!」
こうしてさらなる激戦を予感しつつ、オーク討伐1日目は終了したのだった。
——翌日————————————————————————————
オーク討伐2日目、アルフレッドはカムと2人で森の中を偵察していた。
2日目以降は班分けはせず、1つにまとまって動くことになったわけだが、それでも索敵を怠るわけにはいかない。
そのためアルフレッドを含め6人の冒険者が、2人1組で3チームに分かれて森の中を偵察するように命じられ、アルフレッドはカムと組んで動くことになったわけである。
「カムさん、オークの気配がありました。向こうです」
「ああ、俺も気配をつかんだ。慎重に行くぞ。オークは意外と鼻がいいから気を付けろ。風上には立つな」
「はい」
アルフレッドとカムは〖気配察知〗でオークの気配を感じ取り、相手に見つからないように慎重に向かう。
「いた。〖鑑定〗」
---------------------------------------------------------------------------------
<名前> :
<種族> :オーク
<ジョブ>:豚鬼Lv20/35
<状態> :通常
<HP> :180/180
<MP> : 50/ 50
・
・
・
---------------------------------------------------------------------------------
ほどなくオークが1体で歩いているのを見つけ、アルフレッドが木の陰に隠れながら鑑定を行う。
「普通のオークですね。獲物を担いでいるし、狩りの最中ですかね」
「だろうな。このままあのオークを尾行するぞ。住処を突き止める。見失わない程度に距離を置いて、近付き過ぎないように注意しろ」
「はい」
こうして2人は気配を消しながらオークの後を追う。
オークは2人には気付かずに森の奥へと歩いていき、やがてオーク達の集落にたどり着く。
「集落が見えたぞ。意外と大きいな」
「ええ」
たどり着いた集落は竪穴式住居のような原始的な住居がいくつも立ち並び、その外側を柵で囲まれている。
柵の数か所に門が作られており、オークは門の一つを通って集落の中に入っていく。
当然だが門には見張りのオークがいるため、アルフレッドとカムは入れない。
2人は門から少し離れた木々の陰に潜み、集落の様子を伺う。
「集落の大きさからすると、住んでいるのは数百体規模ってところか。おそらくだがここがオーク達の本拠地と見て間違いないだろう。アル、お前すぐに拠点に戻ってギルド長に此処のことを報告してこい。俺はここで見張っておく」
「分かりました」
カムの指示でアルフレッドは拠点へと引き返す。
(オーク達が動き出す前に早く伝えないとな。 ……正面からオークの気配。こっちに来てるから迂回しないと……)
アルフレッドはオーク達に見つからないように注意しながら、できるだけ早く走る。
約1時間後、拠点に戻ったアルフレッドは、急いでエルガーにオークの集落のことを報告する。
エルガーは一通り報告を聞いたのち、新しい指示を出す。
「良くやった。アル、立て続けで悪いが、もう一度オークの集落に行って、カムと一緒に集落を見張っていてくれ」
「はい」
「バル、ホセ、お前達も一緒に行け。向こうに着いたらカムの判断で行動しろ。オークの数や動きについて何か分かったら報告しろ」
「「はい」」
「俺は他の奴らにこのことを知らせておく」
「「「よろしくお願いします」」」
アルフレッドは2人の冒険者を連れて再びオークの集落へ向かう。
途中で偵察と思われる4体のオークを草むらに隠れてやり過ごす。
「……それにしても、オークってどこで剣や槍を手に入れてるんでしょうね」
オーク達をやり過ごした後、アルフレッドがふと浮かんだ疑問を口にすると、
「ああ、聞いた話じゃ、冒険者や盗賊の死体から手に入れてるらしいぞ。お前も気を付けろよ。オークに殺されると、その立派な剣も奴らに奪われちまうぞぉ」
同行している冒険者の1人、バルが冗談交じりに回答する。
「槍なんかは、木の枝とか狩った魔物の角や骨なんかを加工して作ってるな。オークにも簡単な武器や道具を作る程度の知能はあるらしい」
もう1人の冒険者、ホセが回答に補足する。
「はは、この剣は絶対奪わせませんよ。なんたって3日前に買ったばっかりなんですから。 ……まあ、オークの中に鍛治師がいる、なんてトンデモ回答じゃなくて安心しましたよ」
「そういえば、過去にオークキングが出現したとき、自前で鉄製の剣を用意していたらしいぞ。集落の中に製鉄所っぽい施設があったそうだ」
「そうなんですか!?」
再び走り出しながらアルフレッドも冗談交じりに返すと、バルから追加情報を教えてくる。
「ああ、オークみたいな人型の魔物は知能も高いから、長く生きればそれなりの知恵を付ける。しかも集団で暮らすタイプなら、仲間同士で教え合ったりするから、相応の技術を持つ集団が生まれることも、時々あるらしい。 ……今回のオーク達はそこまでじゃないだろうが、帝国と戦っている魔王軍はヤバいらしいぞ。なんでも、剣どころか投石機やバリスタなんかも作って持っているらしい」
「マジっすか……魔王軍すごいですね……」
魔王軍はただの魔物集団ではないらしい。
今後魔王軍との戦いに参戦する予定のアルフレッドとしては、笑えない話である。
その後しばらく走るとオークの集落に着き、近くに潜伏していたカムと合流する。
「カムさん。エルガーさんに報告してきました。こちらの2人と一緒にここを見張るように、とのことです。あとカムさんの指示で動いて、オークの数や動きについて何か分かったら報告しろ、とも言っていました」
「了解。こっちはずっと見張っていたんだが、残念な報告がある。ついさっき、北側からオークの援軍が現れて、この集落に入った。援軍の数は約1500。元々集落の中にいたやつらと合わせて、約2000体があの中にいる」
「「「……マジっすか!?」」」
カムから衝撃の事実がもたらされ、アルフレッド、バル、ホセの3人が固まる。
「あとオークジェネラルも発見したぞ。もともと集落の中にいて、援軍を出迎えたのが1体。援軍の中に2体だ。さらに、オークジェネラルよりもデカい、全長3mくらいの個体がいてな。そいつを鑑定したら、オークキングだった……」
「「「オークキング!?」」」
当初の想定では最大でも1000体と見られていたのだが、それよりも多いことが判明した。
しかもリーダーはCランクのオークジェネラルではなく、Bランクのオークキングということで、群れの脅威度は格段に跳ね上がることになる。
アルフレッドは〖気配察知〗で集落の中を探ったが、明らかに気配の数が膨れ上がっており、カムの言うことが事実なのだと理解させられる。
「アル、全速力で戻ってギルド長に報告しろ。撤退も視野に入れてくれってな」
「分かりました」
こうしてアルフレッドは再び拠点へ走り出したのだった。
————————————————————————————————
物語世界の小ネタ:
一般的にこの世界の魔物は人間に比べると身体能力に恵まれている分、<ステータス>の数値が高くなります。
たとえば〖Lv20〗のオークと〖Lv20〗の人間の場合だと、<HP>などの数値的にはオークの方が強くなります。
ただし、ほとんどの魔物は「スキルを鍛える、取得する」という発想がないので、技能スキルなんかは、魔物より人間の方が優れています。
人間はステータスの数値で劣る分を、スキル(と装備や道具など)で補っている感じになります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます