第50話 【赤獅子盗賊団】格上との戦い

 アルフレッドは剣を構えながら突如現れた赤髪の男を観察する。


 年齢は見た感じ20~30歳くらい、身長は180cm余りで赤色の短髪に顔には獰猛な笑みを浮かべており、体つきはやや細いが筋肉質でしっかりと鍛え込んでいるのが分かる。

 二刀流らしく右手には長剣、左手には短剣がそれぞれ握られており、体には魔獣の甲羅か何かで作られたと思われる鎧を着こんでいる。


 見た目も雰囲気も先ほどの盗賊達とは全く違っており、端的に言ってめちゃくちゃ強そうだ。


 「始める前に一応少し移動してもらうとするかな、と」

 「っ!」


 男が素早く右手の長剣で斬りつけてくるのをアルフレッドは後ろに下がって避ける。

 剣のスピード自体は早いが剣筋はやや大振りで踏み込みも浅いため、避けるのはそれほど難しくはない。

 さらに続く攻撃を同様に躱し、数メートルほど後ろに下がると男は攻撃を止める。


 「このくらいでいいか。ザン、倒れてる奴らを回収して隠れとけ」

 「へ、へい」

 (あ、最初に〖強撃〗で吹っ飛ばした奴、復活してたんだ)


 どうやら男は盗賊達を仲間に回収させるためにアルフレッドを攻撃して移動させたらしい。

 男の命令に、いつの間にか立ち上がっていたザンと呼ばれた男が応え、命令に従って倒れている3人の盗賊達を素早く担いで林の方へ走っていった。


 (……結構タフだなあいつ。当てた時の手応えからすると、割としっかりダメージ与えたはずなのに、大の大人を3人担いで普通に走ってるよ……と、逃げた奴よりもこっちのボスっぽい奴の方に集中しないと! というかこの雰囲気、絶対ボスだろ)


 アルフレッドはそれを横目で見ながら意識を赤髪の男の方に戻す。


 「さてと、楽しませてくれよ? 坊主」


 ザンが離れたことを待って赤髪の男がにじり寄ってくる。

 それに対してアルフレッドは少しずつ後ろに下がりながら距離を保つ。


 「〖鑑定〗」


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<名前> :リオーネ・レッド

<種族> :人間

<ジョブ>:剣士Lv34/70

<状態> :通常

<HP> :140/140

<MP> : 55/55

<攻撃力>:116+65

<防御力>: 48+45

<魔法力>: 90

<素早さ>:129


<装備> :炎の中級魔剣、鋼の短剣、陸王亀の甲鎧


<特性スキル>:

 〖往生際の悪さ〗 :Lv7


<技能スキル>

 〖剣術〗   :Lv10

  ∟〖剣聖術〗:Lv 1

 〖短剣術〗  :Lv 6

 〖格闘術〗  :Lv 6

 〖火魔法〗  :Lv 5

 〖気配察知〗 :Lv 7

 〖危険察知〗 :Lv 8

 〖魔力探知〗 :Lv 3

 〖魔力制御〗 :Lv 3

 〖視覚強化〗 :Lv 4

 〖聴覚強化〗 :Lv 4

 〖隠密〗   :Lv 9

 〖回避〗   :Lv 6

 〖瞬動〗   :Lv 5

 〖跳躍〗   :Lv 3

 〖連携〗   :Lv 5

 〖統率〗   :Lv 6

 〖威圧〗   :Lv 3

 〖交渉〗   :Lv 6


<耐性スキル>:

 〖物理耐性〗:Lv2

 〖毒耐性〗 :Lv2

 〖麻痺耐性〗:Lv2

 〖恐怖耐性〗:Lv5

 〖混乱耐性〗:Lv4


<称号>   :〖喧嘩屋〗


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 (うん。やっぱりこいつがボスだな。リオーネって名前、確かオットーさんから聞かされた盗賊団のボスの名前だよ。予想はしてたけど強いな……【不死教団】のガストンよりはステータス低いけど、冒険者で言ったらCランククラス。状況的にガストンの時よりはマシだと思いたいが……)


 ちなみにアルフレッドのステータスは以下の通り———


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<名前> :アルフレッド・ガーナンド

<種族> :人間

<ジョブ>:斥候Lv27/50

<状態> :通常

<HP> : 96/96

<MP> : 41/41

<攻撃力>: 80+40

<防御力>: 37+40

<魔法力>: 72

<素早さ>:116

 ・

 ・

 ・


---------------------------------------------------------------------------------


 ———見事に全部の項目で負けている。

 ちなみに防御力の補正値がガストンとの戦いのときから下がっているのはそのときの戦いで盾を壊されてしまい、現在は装備していないためだ。


 (今は盾がないから〖パリイ〗みたいな盾術スキルは使えない。注意しないとな。 ……ついでにナイフもさっき投げちゃったから武器は剣だけだ……やべ、ちょっと失敗したかも。)

 「そろそろいくぞ? 〖隼斬り〗!」

 「うおっ!?」

 「おらおら、反撃してみろよ!」

 「く……ぅ!」

 「そら、〖急所突き〗!」

 「っ……」


 アルフレッドはどう戦うか考えるが、やはり相手は待ってくれない。

 結論を出す前にリオーネが攻撃してきた。


 素早い斬撃を放った後、返す刀でさらに追加の斬撃を繰り出す剣術スキル〖隼斬り〗。

 場所を移すためだった先ほどの大振りとは明らかに異なる鋭い斬撃だ。


 アルフレッドはその2連撃を辛うじて躱すが、リオーネは間髪入れずに距離を詰めてさらに斬撃を放つ。


 躱し切れないアルフレッドは剣でリオーネの斬撃を払いのけるが、リオーネの攻撃は止まらず左手の短剣も交えてどんどん攻撃が激しくなる。

 アルフレッドは喉元に向かって迫るリオーネの短剣術スキル〖急所突き〗を完全には躱し切れず、首を僅かに斬りつけられる。


 「〖一閃〗! 〖瞬動〗!」

 「おっと! くくっ、逃げられたか」


 アルフレッドは咄嗟に反撃して相手の攻撃を止め、その隙に距離を取る。


 (スピードで負けてるうえに、剣術や短剣術のスキルLvでも負けてる……)

 「おら、てめえも反撃しねえと死ぬぞ!」

 「〖衝撃波〗!」

 「おっと!」


 リオーネがさらに攻撃するために動き出したところをアルフレッドが〖衝撃波〗で牽制。


 (普通に戦ってたら地力の差で負ける。 ……となりゃ、強引にでも勝ちに行く!)


 このままでは勝ち目がないと判断したアルフレッドはここで一気に攻勢に出る。


 「風魔法〖ワールウィンド〗!」

 「へえっ!」


 〖ワールウィンド〗の竜巻で攻撃するがリオーネは余裕で避ける。


 「光魔法〖ライト〗! 〖瞬動〗! 〖鎧通し〗!」


 アルフレッドは一気に距離を詰めて、リオーネの意識が向けられた瞬間を狙って〖ライト〗で目潰し、すかさず追撃を放つ。


 「おしいっ! ははは、いまのは良かったぞ!」


 だがリオーネはアルフレッドの攻撃を冷静に捌く。

 〖ライト〗発動の瞬間は目を瞑ることで目潰しを防ぎ、〖鎧通し〗も左手の短剣でいなす。


 「おらっ!」

 「くそ……!」


 リオーネは短剣でアルフレッドを攻撃し、アルフレッドが身を捩って躱したところに長剣で追撃を入れる。

 アルフレッドは辛うじて長剣を自分の剣で受け止めるが、リオーネはそのまま体ごと押し込んで鍔迫り合いに持ち込む。


 「ぐぬぬ……」

 「あーあー、大変だなあ。お前は剣1本だけだが、俺には短剣もあるぞ。ここからどう凌ぐ?」


 リオーネは長剣で鍔迫り合いの状態を維持したまま、これ見よがしに短剣を見せつける。


 「魔剣能力解放!」

 「おっと!」


 このままでは負けると感じたアルフレッドは剣の周りに竜巻を発生させてリオーネを攻撃。

 リオーネには後ろに飛び退くことであっさりと避けられ、それどころか鍔迫り合いの状態で竜巻を発生させた関係で自分自身がダメージを受けてしまうものの、ひとまず距離を取ることに成功する。


 (やばい……こいつ、完全に俺より格上だ。勝ち筋が見えない……)

 「なかなか粘るな。まあまあ楽しいぜ。これでもう少しレベルが高けりゃ文句ねえんだがな」


 リオーネは楽しそうな表情でゆっくりと近づいてくる。


 「楽しいって、ずいぶん余裕だな? そのうち、こっちの援軍が来て囲まれるかもしれないぞ? それは考えないのか?」


 アルフレッドは焦る気持ちを抑えながらゆっくりと後ろに下がる。


 「警戒はしてるぜ。だがそうなったらそうなったで、多人数相手の戦いを楽しむだけだ!」

 「あんた戦闘狂ってやつか? さっきから聞いてると、まるで戦うためにこの村を襲ったみたいに聞こえるんだが?」

 「その通りだが?」

 「その通りって、うおおおい!」


 まさか認めるとは思っていなかったアルフレッドは思わず叫ぶ。


 「何でそんなに驚いてんだよ。当たり前だろ?」

 「どこが当たり前だよ!? 金目当てだったら当たり前だけど、戦うためってどういうこと!?」

 「ったく、お前もただ生きていればそれでいいって言う灰色人生希望の変態野郎か?」

 「俺が変なの!?」

 「いいか。人生ってのは楽しむためにあるもんだ。楽しみがない人生なんてクソだ! そして一番楽しいのは戦うこと! つまり、人生とは戦うためにあるもんだ!!」

 「ぜんっぜん、理解できねえぇーー!」

 「というかだな、そもそも人生なんて戦いの繰り返しで成り立ってるようなもんだろうが。望む望まずにかかわらず死ぬまで殺し合うのが人間なんだから、それを楽しんで何が悪い!」

 「どんな人生だよそれ!」

 「お前だってどうせ、この先もずーっと一生殺し合い続けるんだから、楽しまなきゃ損だぞ」

 「何で決めつけてんだよ! そんな人生絶対嫌だよ!」


 リオーネは立ち止まって謎の人生観を語る。

 そしてアルフレッドも困惑したまま立ち止まる。


 「まあ、なんだかんだ言っても俺はただ単に楽しけりゃいいだけだ。ああ、一応金目の物もいただくつもりだぞ。戦うついでに」

 「迷惑過ぎる! 本当に戦うことが目的で襲ってきたわけ!? そんなに戦いたいなら村じゃなく騎士団のいる砦でも襲ってろよ!」

 「それも面白そうではあるんだが、それだと長く楽しめないだろ? いくら強さに自信があるって言っても騎士団まるごと相手にしたらさすがに負けるし。それで終わりってのがなあ。戦闘狂は戦闘狂でも、俺は理性ある戦闘狂なんだ」

 「理性ある戦闘狂って何!? 狂いまくってるぞお前!」


 リオーネはなぜか胸を張りドヤ顔で答える。

 アルフレッドはますます訳が分からないという感じでツッコミを入れる。


 一応剣は構えているのだが、リオーネのぶっとんだ言動に気を取られ、アルフレッドの意識は戦いから離れかかっている。


 「そう褒めるなよ」


 リオーネはドヤ顔のまま、さりげなく剣を握り直して一歩踏み出す。


 「褒めてねえし! 大体戦うのが楽しいってのがまずおかしいだろ! 死ぬことに恐怖とかないのかよ!? それに———」


 アルフレッドはその場に止まったままツッコミを続ける。


 「———間合いに入っちまったぞ。〖疾風斬り〗!」

 「……ぁ、あぐ!?」


 〖疾風斬り〗は瞬間的に素早さを30%ほど引き上げた状態で突進し、すれ違い様に相手を斬りつけるスキルだ。

 剣術ではなく、その上位の剣聖術に分類されるスキルである。


 リオーネは一瞬でアルフレッドの脇を駆け抜けると同時に彼の横腹を斬りつける。

 ただでさえリオーネの方が素早いうえに不意を突かれた形で攻撃を受けたアルフレッドは、一瞬遅れて斬られたことに気付いて動こうとし、そして倒れた。


 「ふぅっ……ふぅっ……」

 「あーあ。こんなしょうもない手に引っかかりやがって。まあ、楽しめたのは事実だし、ガキにしては頑張ったと思うぞ。」


 リオーネは倒れて動けなくなったアルフレッドに対して若干冷めた様子で言い放つ。

 あえて突飛な言動で相手の気を逸らし、生まれた隙をつく。


 数々の死線を潜り抜けた経験から、彼は純粋な強さだけでなく、戦いの駆け引きに関してもアルフレッドを上回っていたのだった。




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 物語世界の小ネタ:


 剣術スキルのレベルについて、強さのイメージは以下の通りです。

 槍や弓などの他の武器スキルも同様です。


 スキル未修得    : 初心者。

 剣術Lv1~2   : ちょっとだけ習った初級者。

 剣術Lv3~6   : そこそこ実戦で使える中級者。

 剣術Lv7~10  : 十分強い上級者。

 剣聖術Lv1~10 : 達人。

 剣神術Lv1~10 : 達人の中の達人。最強クラス。

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