第51話 【赤獅子盗賊団】強敵そして敗北(sideリオーネ)

 「剣が邪魔になって仕留め損ねたか。いま止めを刺してやるよ」

 「ぐ……っ!!」


 リオーネの放った〖疾風斬り〗に全く反応できなかったアルフレッドだったが、彼はもともと剣を構えていた。

 元Aランク冒険者のエリックによって叩きこまれた彼の構えは常に自身の急所を守るものになっている。


 リオーネの剣は、そのように構えられた剣を避けるようにして振るわれたため、結果として傷がやや浅くなり、アルフレッドはギリギリで即死を免れたのだ。


 とはいえ大ダメージを受けたことに変わりはなく、これ以上戦い続けることは不可能。

 もはやアルフレッドは立ち上がることもできず、ましてやリオーネの追撃を防ぐ術はない。


 「ぅ……あ……」


 うつ伏せに倒れたまま苦しげに呻くだけである。


 「まあ、安心しろ。無駄に苦しめる趣味なんかねえし、すぐにあの世に送ってやる———」


 ———ビュン!


 リオーネがアルフレッドに止めを刺すために剣を振ろうとしたその時、風切り音を立てて彼の後ろから矢が飛んできた。


 「ちっ、新手のお出ましか」


 飛んできた矢に直前で気付いたリオーネは身を捩って辛うじて躱そうとする。

 躱し切れずに矢はリオーネの鎧に当たるものの、相応に角度がついており、彼の体に突き刺さることなく軌道がそれて地面に突き立った。


 (不意打ちとはいえ、この俺に一撃当てやがったよ。それに狙撃してきた奴の気配が感じ取れねえし姿も見えねえ……良いな! この村は当たりだ! ここなら存分に楽しめる!)


 ビュンッ!


 若干間をおいて1射目とは別の方向から2射目が放たれる。

 リオーネはそれを冷静に捉えて剣で払う。

 さらに3射目、4射目がまた別方向から放たれるが、リオーネは左に跳んで躱す。


 (新手は1人……いや2人か。矢で狙撃してんのは1人だけ。〖隠密〗スキルで気配を殺して上手く死角を移動しながら狙ってきてやがる。んでもって、いつの間にかさっきのガキが消えてやがるが、それは狙撃手とは別の奴が来てこっそり回収したから。全く気配を感じねえな……これでも俺、〖気配察知〗や〖危険察知〗のLv結構高いんだが)


 地面に倒れ伏していたはずのアルフレッドはいつの間にかいなくなっていた。

 これは死んだから光の粒子になって消えていった、なんてことではもちろん無い。

 この世界はゲームではないので、仮に死んでもその体は残り続けるのだ。


 姿を消したのは移動したから。

 自力で移動することはどう見ても不可能だったため、他の人間が運び去ったことになる。


 しかしながら矢で狙われていたために、リオーネは察知系スキルをフルに使って全方位を警戒していた。

 普通ならアルフレッドを運び去ろうとする瞬間に気付けるはずなのだが彼は気付けなかった。

 それは恐らく矢が飛んできたタイミングで、リオーネがそれを躱すのに気を取られた瞬間に回収していったからだろう。


 (狙撃手も十分強いが、それ以上にガキを運んだ奴はただもんじゃねえな……俺に一切気配を悟らせることなく一瞬であのガキを運んだことになる。くくくっ、下手すりゃそん時に俺を殺せてたんじゃね?)


 自他共に認める戦闘狂のリオーネにとって、強敵の出現ほど嬉しいことはない。

 こうしている間にも断続的に矢が飛んでくるが、リオーネは楽しくてたまらないという様子で、しかし冷静に矢を躱す。

 そして躱した後リオーネは周囲を用心深く見渡しながらゆっくりと歩きだす。


 (そいつがあのガキをどこに運んでんのかは分からねえが、運び終わったら当然こっちに来て、今矢を放っている奴と連携して俺を仕留めるだろうな。そうなりゃ、間違いなく負ける。こっちが勝つためには今のうちに狙撃手を倒さなきゃならねえが……全然姿も気配もつかめねえってのがやべえな)


 普通であれば矢が飛んできた方向に向かえば狙撃手に会える。

 だが、その狙撃手は矢を放つごとに居場所を変えている。

 そんなわけで、矢が来た方向に向かっても狙撃手は既にそこから移動してしまっており、全く別の方向から矢が飛んでくるわけだ。

 歩いているリオーネの右側から矢が飛んでくる。

 だがリオーネはその瞬間に1歩後退し、最小の動きで躱す。


 「そこだ! 魔剣能力発動!!」


 その直後、リオーネは矢が飛んできた方向から少し後ろにずれた所を目掛けて攻撃する。

 彼の右手に持つ長剣から直径30cmほどの炎の玉が撃ち出され、次の瞬間彼が狙った場所に着弾して爆発した。

 ちなみに彼の長剣は魔剣であり、仮に鑑定するとこんな感じになる。


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<名称>:炎の中級魔剣

<説明>:熟練の錬金術師が良質な鋼の剣に炎の術式を組み込んで作り出した魔剣。

     魔力を込めると切れ味が増すほか、炎の玉を撃ち出したり刀身に炎をまとわりつかせたりすることが出来る。

     使いこなすには相応の技量が必要だが、一流の剣士にふさわしい逸品。


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 元々はリオーネを捕らえようとしたとある騎士の愛剣であり、その騎士を返り討ちにして奪い取った、リオーネお気に入りの魔剣なのである。


 そんな魔剣による攻撃は見事に狙撃手を炙り出す。

 攻撃自体は避けられてしまい直撃こそしなかったものの、攻撃した場所に狙撃手がいたのである。

 狙撃手は突然来た攻撃を避けるために大きく前に跳び、それまで完璧だった〖隠密〗スキルが解けて気配が漏れてしまったのだ。


 「見つけたぞ! 〖瞬動〗」

 「ちっ、〖乱れ射ち〗!」


 リオーネはこの機を逃すまいと全速力で距離を詰める。

 対する狙撃手の方は矢の連射するスキル〖乱れ射ち〗で近づけまいと矢の弾幕を張る。


 「〖疾風斬り〗!」

 「弓が……くそ!」

 「おらおらおらー!!」

 「……っ」


 リオーネは矢の弾幕の中で身を低くして突進して無理やり突破。

 矢が2本、鎧の肩と腕部分に命中するが、牽制のために放たれた矢はリオーネの頑丈な鎧によって防がれ、次の瞬間リオーネの攻撃によって弓を壊される。


 狙撃手は使えなくなった弓を捨て、ナイフに持ち替えて応戦。

 だがリオーネの追撃によってあっという間に足や腕など複数個所を斬りつけられて倒された。


 「くそ、化け物め……」

 「ははっ、誉め言葉と受け取っておくぜ! お前もなかなか良かったぞ。相手の位置を掴むのにここまで手間取ったのは初めてだ。ただ、戦った場所が良くなかったな。林の木々やら家や畑、身を隠す場所自体はそこそこあるが、常に相手の死角を移動しながら攻撃するとなりゃあ、かなり行動が限定されちまう。最初の数本で仕留め切れなかったせいで俺に居場所を推測されちまった」


 致命傷こそ受けていないものの手足を斬られたために戦えなくなった狙撃手は地面に仰向けになって、悔しそうに吐き捨てる。

 一方リオーネは戦いによって気分が高揚しているのか、饒舌に語り出す。


 全体の状況を客観的に見るなら、彼は楽しんでいる場合ではない。

 盗賊団の大半は村の門の外にいてすぐに駆け付けることはできず、一緒に連れてきた手下は負傷して戦線離脱しており、彼は敵地の中ですっかり孤立してしまっている。


 ここでさらにまとまった人数の新手が来ようものならいくらリオーネであっても窮地に立たされることになる。

 まともな神経の持ち主であればとても笑っていられない状況なのだが、リオーネはそんな状況すら心から楽しんでいた。


 「けっ、せいぜい今のうちに勝ち誇ってろ! 俺は負けたが、お前ごときがこの村を落とせると思うな」

 「いいねいいね! まだまだ戦いを楽しめるわけだ! ははは、それじゃ、お前に止めを刺して次に行くとするぜ」

 「はいストップ! 次は私が戦うから、こっち向きなさい。ダリオさんも休んでて!」


 そんなリオーネの後ろから不意に声が聞こえてきた。

 どうやら次の敵が来たらしいと彼は声のした方へと振り向く。


 ……その瞬間、空気が変わった。


 「……へぇ、マジか……」


 リオーネが振り向くとそこには大剣をもった少女——リリヴィア——が立っていた。

 その少女を見てリオーネは思った。


 (やべ、バケモンだこれ……)


 表情にこそ出さないものの、さっきまで最高に楽しんでいた彼の頭からどんどん血の気が引いていく。

 戦闘狂のリオーネはこれまで数々の死線を越えてきたため、相対した相手の強さが一目で分かるのだ。

 そのリオーネの第六感によると———


 最初に捕まえた元冒険者4人 :

  ・強さはそこそこ。

  ・雑魚とまでは言わないけど物足りない。


   →「もっと強い奴希望! 次行こう、次!」


 村にいた少年冒険者(アルフレッド) :

  ・それなりに強かった。

  ・子供にしては楽しめた。


  →「今後の伸びしろに期待! 生きてるなら、強くなってまた掛かってこい!」


 さっきまで戦っていた狙撃手(ダリオ) :

  ・強かった。

  ・めっちゃ楽しめた。


  →「下手すりゃ死んでた! でも欲を言えばもう一声!」


 目の前の少女?(リリヴィア) :

  ・強すぎて勝てる相手じゃない。

  ・逃げないとヤバイ。っていうか逃げられるのコレ!?


   →「むりムリ無理! これはもう無理! いや、ちょっとマジで強すぎ!!!」


 ———という感じだ。


 例えるならば、RPGのゲームの中で、手頃な難易度のダンジョンでザコモンスターを狩って楽しんでいたら突然レイドボスがポップした、といったところだろうか。

 「いやこれ絶対ボス枠だろ」とか「何でいきなり沸いてくるんだよ」とか仮にゲームだったなら、リオーネは絶対制作会社にクレームを付けていたに違いない。

 まあ、この世界にゲームなどないのだが、とにかくリオーネの心境はそんな感じだった。


 「何者だお前?」


 とはいえ、パニックになるわけにはいかない。

 冷静になれ、と自分に言い聞かせつつ相手の情報を引き出す。


 「リリヴィア・ファーレンハイト。Dランク冒険者よ。」

 「Dランク、ね……」


 「ランク詐欺じゃね?」という言葉を飲み込んで剣を構えるリオーネ。


 「アル……まあさっきアンタにやられた私の仲間なのだけど、その仇は取らせてもらうわ。」


 リリヴィアが一歩踏み出すと同時にリオーネは一歩退がる。

 戦いにおいて、特に対人戦において間合いは重要だ。


 人間は肉体の強度という点において一般的には魔物に及ばない。

 腹でも首でも一度深い傷を負えば、それだけで死ぬか、運が良くても戦闘不能となる。


 自分が致命傷を負わず、なおかつ相手に致命傷を負わせることのできる位置を取ること。

 それこそが対人戦における、勝利の鉄則なのだ。


 「何だ? あのガキ死んだのか? また戦いたかったんだがな。」

 「いや、生きてるけど。でも負けたことには変わりないでしょ? なら、私がアンタを倒さないとね!」


 リリヴィアから強烈なプレッシャーが放たれる。

 リオーネは軽口を叩きながらも慎重に間合いを測った。


 (この女の身長と歩幅、手に持っている大剣の長さから察するに、攻撃が届く範囲は俺とほぼ同じ。その外側にいて守りに徹している限り、そう簡単にはやられない。 ……まあ、剣の戦いに限れば、の話だが……)


 そして相手に勝てずとも、そう簡単には負けない位置を取り続ける。

 既に彼からは戦いを楽しむ、などという余裕は消え去り、もはやただどう生き延びるかということだけを考えていた。


 「はははっ、こいつは死合いの合図だ! とことんやろうぜ! 魔剣能力発動!」


 リオーネは敢えて強気の態度で空に向かって炎の玉を放つと、素早く防御の構えを取る。

 同時に鎧にも魔力を通して、防御力を引き上げる。


 放たれた炎の玉は空高く上がってドォーンという音を立てて爆ぜた。

 ちなみに彼が身に着けている鎧【陸王亀の甲鎧】は魔剣ならぬ魔鎧であり、装備者に物理耐性を付与する他、魔力を通すことで防御力がさらにアップするのだ。


 一方でリリヴィアの方はというと———


 「ブッ殺ス! 〖神速の一閃〗!!!」


 ———割と本気でブチ切れていた!!!


 〖神速の一閃〗は瞬間的に素早さを2倍、攻撃力を1.5倍に引き上げた状態で突進し、すれ違い様に相手を斬りつけるという、〖疾風斬り〗の上位互換スキルだ。


 「!?」


 リオーネは十分に間合いを取っていたにも関わらず、気付いた時には腹を斬られていた。

 彼はアルフレッドと同じように、一瞬遅れて斬られたことに気付いて、そして倒れた。


 (反応すらもできなかった、だと!? ……マジかよ、どんだけ強さの差があるんだよ……)


 こうして一時は無双していたリオーネは、リリヴィアによって一撃で倒されたのであった。




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 物語世界の小ネタ:


 リオーネの強さは<ステータス>の数値的にはだいたいCランク冒険者クラスです。


 ただし戦闘勘や戦いの駆け引きに関して言えば、文句なしのAランク冒険者クラスなので、リリヴィアのような圧倒的な強者でないと1対1で勝つのは難しいかもしれません。

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2024年11月30日 20:00

転生者の幼馴染 ~周りに振り回された末に英雄になった俺の冒険譚~ 西 @HiroNishi1028

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