第42話 【不死教団】教団の反応(sideジュゲーム)

——【不死教団】の本拠地にて——————————————————


 ここはツヴァイレーン帝国のどこかにある【不死教団】の本拠地である。

 良く磨き上げられた白い石床があり、高い天井には精緻な宗教画が描かれており、天井から吊り下げられているシャンデリアにも豪華な装飾が施されており、そこは一見すると荘厳な大聖堂のようであった。


 その大聖堂の奥の一室には豪奢な玉座があり、そこには漆黒のローブを纏い多くの装飾品を身に着けた男が座っている。


 その男こそ【不死教団】の教主ジュゲームだ。

 彼の顔は皮膚や肉が無い骸骨であり、表情は分からない。

 しかしただそこにいるだけで他者を圧倒する雰囲気を醸し出しており、誰に教えられずとも彼こそがこの大聖堂の主であると分かる。


 「うーん……何度確認しても眷属の繋がりが無くなってる。やっぱりグノムはやられたっぽいなあ……」


 しかし威厳に満ちた外見とは裏腹に中身は意外と子供っぽいらしい。

 彼は腕組みをしながらブツブツと独り言を続ける。


 「とりあえず状況を整理すると……グノムは戦力拡大のためにアインダルク王国の……カルネル領だっけ? とにかく活動中に突然繋がりが消えたわけで、状況から察するに王国の騎士団か何かにやられたと考えるのが自然……部下に付けていたガストンも同じだし、こりゃあ計画も失敗してるな……あいつら、結構強かったんだけどなあ」


 ジュゲームは配下のアンデッドを支配する〖眷属支配〗という<特性スキル>を持っており、このスキルによってグノム達が倒されたことを知ったのだった。


 「とにかく情報を集めて今後の動きを見直さないと。とりあえずマールを呼んで相談するか」


 ジュゲームは思念を送り、部下のマールを呼び出した。


 「失礼いたします。マールでございます。ただいま参上いたしました」


 数分後、呼び出されたマールがジュゲームのもとに来る。

 マールは【不死教団】の幹部の1人で教団の参謀役を務めており、こういった問題の対処を考えるのも彼の仕事である。


 「グノムに任せているアンデッド製造計画についてトラブルがあったみたいでね。マール、君の意見を聞きたいんだ」

 「トラブルでございますか?」


 マールは怪訝な表情で聞き返した。

 彼もアンデッドなのだが、見た目は人間のそれと大差はない。

 瞳の色が赤く肌の色が病的に白いがそれ以外はごく普通の男といった感じである。


 「うん。ついさっき、グノムとの繋がりが切れた。知っての通り僕は〖眷属支配〗スキルで君達と繋がっていて安否が分かるわけだけど、グノムとの繋がりが一切無くなって、安否が分からなくなった。彼に付けていたガストンも同じだ」

 「つまりグノム、ガストンの両名が死んだと?」

 「十中八九ね。検証した限りだと配下との繋がりが切れるのは相手が死んだときだけだ。気配を遮断したりどこかに閉じ込められたくらいじゃ繋がりは切れないし、配下が自力で切ることもできないから死んだ可能性が高いよ」

 「なるほど」


 ジュゲームの言う通り、〖眷属支配〗スキルによる配下との繋がりについては【不死教団】で検証していた。

 結論としては繋がりが切れたということは即ちその配下が死んだということになる。


 「いまのところ分かっている情報はこれだけだ。彼らの身に何があったのか、任せていた計画がどうなったのかは全く分からない。とりあえずその辺りの情報を集めないといけないわけだけど、現状で考えられる事態とか、今後の計画への影響とかその辺りについて君の意見を聞きたくて呼んだわけだ。君はどう見る?」

 「ははっ。恐れながら両名の死亡が事実であれば、彼等に任せていたアンデッド製造計画は失敗したものと見るべきでしょう」


 マールは即座に見解を述べる。


 「やっぱり君もそう思う?」

 「はい。残念ながら。グノム達の死についても王国の騎士あるいは冒険者などの敵によって討ち取られたと見て間違いないでしょう。問題は何者が討ち取ったのかですが、これは調べてみないことには……現時点では何とも言えません」

 「うん。それについてはこれから調べよう。それとこの件が王国や帝国に知られた場合にどんな対応をしてくるかな」


 グノム達の死についての見解はジュゲームの考えと同じだったためそれ以上は聞かない。

 代わりにこれが聞きたいのだとでもいうようにジュゲームは国の対応について質問する。


 「まず間違いなく我々への圧力が強まるでしょう。ただ、いきなりここや他の拠点に敵が立ち入ってくる可能性は低いと思われます。もちろん油断は禁物ですが」

 「ふんふん。その根拠は?」

 「ご存じの通りここを含む重要拠点については、情報が漏れることの無いよう幾重もの偽装と隠蔽を行っているうえに相応の戦力を配備しております。グノムから情報が漏れた可能性は無いとは言えませんが、仮にそうだとしても拠点の場所を突き止めた上にこちらの拠点を攻め落とすほどの戦力を整えるには国であっても数カ月はかかるでしょう。またグノムは死んだとのこと。王国に生け捕りにされたのであればまだしも、短期間で情報を引き出せたとはいささか考えにくいと思われます」


 実際のところグノムは世界征服計画やいくつかのアイテムについて口を滑らせたものの、拠点の場所についてはツヴァイレーン帝国のどこかに本拠地があるとしか言っておらず、教主の素性についてはそもそも知らなかった。


 仮に捕らえられていたとしても〖状態異常無効〗の耐性を持つ上に死や苦痛を恐れないアンデッドであるが故に口を割る可能性は低く、致命的な情報が漏れる心配はしなくて良いのである。


 「なるほど。それで、今後の影響とか僕らがやるべきことについては?」

 「今後の影響については現時点ではそれほど大きくはないでしょう」

 「あれ、そうなの?」


 影響が大きくないという回答は意外だったらしくジュゲームは聞き返す。


 「はい。もちろんグノムの損失とアンデッド製造計画失敗は痛手ではありますが、それを踏まえても世界征服を始める上で必要最低限の戦力は既に揃っております。影響は十分修正可能な範囲で収まるでしょう」

 「ふーん。正直なところ世界征服の挙兵時期を延期すべきかと思っていたんだけど……まあでも実際Aランクのアンデッドを集めた教主直属兵団ももうすぐ形になりそうだし、僕と幹部達もいるわけだし、そこまで恐れる必要もないか」


 【不死教団】の戦力は既にかなりの規模となっていたらしい。


 「仰せの通りでございます。無論国やグノムを討った敵の今後の動き次第では計画に変更を余儀なくされる恐れもありますが、現時点では特別どうということはございません。従って我々が行うべきはグノムが討たれた時の状況と国の反応を確認することと、念のため他の幹部達に同様のことが無いように警戒を促すことだと考えます」

 「分かった。やることは情報集めと警戒だね。情報集めは君にお願いしていい?」

 「はっ。承りました」


 滔々と述べられたマールの言葉にジュゲームは二つ返事で承諾して情報収集を命じる。

 そして思いついたように付け加えた。


 「確か、ワイズは普段王国にいるらしいから何か知っているかも。もし知っているようなら呼び出して聞いてみよう。それと幹部の皆も一度集めて情報共有しよう」

 「承りました。そのように手配いたします」

 「よろしく」


 その後マールは退出し、再びジュゲームは1人になると再び独り言ちる。


 「とりあえず、そこまで心配する必要はないのかな? ……でも、漫画なんかだとここいらで正義の味方が出てきて、悪の組織を滅ぼす流れってのもありそうなんだよねぇ。グノムを倒したのは意外と他のプレイヤーだったりして」


 ジュゲームはやや楽し気にそう言うと今度は過去を振り返る。


 「今から十数年前に当時の教団の幹部連中に召喚されて、僕を御輿に担いで傀儡にしようとした連中を倒して教団を乗っ取って……名実共に教団の主になったら今度は天下を取ろうという気になって世界征服を目指して……うん。世界征服は正直やりすぎかなーっと思っているんだけど……まあでも今更止めますなんて言えないし、せっかくファンタジー世界に来たんだからやれるとこまでやりたいし……もしかすると他のプレイヤーと会えるかもって思うと、なおさら止められないんだよな……」


 プレイヤーだのファンタジーだのと他の者が聞けば頭の上に疑問符を浮かべそうな単語を口にしながら彼は自分の思いを独白する。

 ちなみにマールは既に退出済であり、召使なども用がない限り部屋に入れないため、今の言葉を聞いている者はいない。


 「それにしてもなんだか最近、独り言増えたなあ……」


 ジュゲームはどこか寂しそうに呟いたのだった。




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 物語世界の小ネタ:


 アンデッドは肉体的には死んでいるので、毒や麻痺といった状態異常にはかかりません。

 また精神も変質していて、死や苦痛に対する恐怖や食欲などの欲求も無くなっており、人格も生きていた時とは全くの別物になっています。

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