第41話 【不死教団】ゾンビ騒動が終わって

——エルダ村の領主館にて————————————————————


 「———以上が敵の拠点に転移させられた後からウル村に戻るまでの経緯です」


 リリヴィアが戻ってきたという報告からしばらくした後、リリヴィアはエルダ村の領主館にてカルネル男爵に誘拐された後の経緯を説明していた。


 持ち帰ってきたグノム達の死体は全てカルネル男爵側に引き渡し済であり、一緒に戻ってきた村の住人達は別室で男爵家の家臣が事情を聴いている。

 なおリリヴィアを含めて誘拐された者たちは全員カルネル男爵の指示で医者に診てもらっており、怪我の有無はもちろん魅了などの精神に関する異状が無いことも確認済である。


 「報告ご苦労。無事に戻ってきてくれて何よりだ。それに行方不明だった村人を救ってくれたことにも感謝する。君やアルフレッド君が引き渡してくれた敵の死体や持ち物、それに報告にあった拠点を調べて国へ報告したなら、今まで謎に包まれていた【不死教団】の解明も進むだろう」


 カルネル男爵は報告を受けてリリヴィア達を労う。

 【不死教団】に関しては相変わらず謎に包まれているが、今回打ち倒した幹部のグノムは元々この国の貴族であり、彼の周辺を調べることで新たな手掛かりを手に入れられる可能性も出てきた。

 もちろんこれだけで教団の全てを摘発できるとは限らないが、それなりに好転するのは確かである。


 「拠点の調査については、まず隣領の領主と相談してそのうえで合同調査という形になるだろうが、まあその辺りは任せてくれ。責任をもって国に報告しよう」


 グノムの拠点があったのはカルネル領内ではなく、その隣の領地だった。

 調査を逃れるためなのかカルネル領との領境の外側にあったため、すぐに調査することはできず、まずは隣の領主との相談から始める必要があった。


 「それで、君達には私から報酬を出そうと思う。一連の情報提供と倒した敵やその持ち物を引き渡してくれたことについて、2人には合計で報奨金2万セント。それと、メノア殿も今回の騒動で一度引き返すことになってしまったことだし、その損失も補填するよ。あとメノア殿を含めた3人にそれぞれ勲章と感謝状を出そう」

 「2万セント!? いいんですか、そんなにもらってしまって」

 「構わないよアルフレッド君。今回のケースだと、君達には倒した敵が持ち物などに関する所有権があってね。具体的な金額は鑑定しないと分からないが、私としては少なくともそのくらいの価値はあると見ている。つまりこれは君達の働きに対する正当な報酬だ」

 「私の損失と仰られましたが、ご存じの通り行商の日程がずれ込むのは良くあることです。それほど損失はありませんわ」

 「そう言わずに受け取ってくれ。避難所で商売してくれたことにも助けられたし、貴女とは今後も良い関係を続けたい。何なら領主としての投資だとでも思ってくれ」


 メノアもそういうことであればと受け取ることになり、それから少しした後3人は報奨金や勲章、感謝状を受け取ったのだった。


 またこの日は領主館に泊めてもらうことになった。

 今後の調査はカルネル男爵の方で進めることになっており、アルフレッド達はすぐに旅立てるわけなのだが、リリヴィアが一度誘拐されたこともあり、休息を取った方が良いとカルネル男爵から提案されたためである。


  ・

  ・

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 その日の夜、アルフレッドとリリヴィアはアルフレッドの部屋で振り返りと反省会をしていた。


 「今回の戦いで一番の反省点は、言うまでもなくスケルトン・ナイトを倒した後に油断して、不意打ちを許してしまったことだわ。冷静に考えれば他に敵が潜んでいることは分かったはずなのに、目前の敵を倒したことと〖気配察知〗に何もかからなかったことに油断して奇襲への対処ができなかった……あのとき結界を維持したまま、グノムを迎撃していれば危なげなく勝てていたのに……」

 「俺達に油断があったのもあるけど、あいつらは【隠密の指輪】で気配を消していたからな。〖気配察知〗にかからずに接近できる手段があるっていうのは厄介だよな」

 「これからは隠密対策が必要ね」

 「あ、対策に使えそうなのが一つあるぞ。〖ソナー〗っていう技なんだが。デス・ナイトのガストンとの戦いの中で、気配を消したガストンを捕捉できた」

 「〖ソナー〗って、オーク討伐の時に習ったって言っていたやつよね?」

 「ああ。周囲に魔力を飛ばして、それが反射してくるのを感じ取って地形や障害物を調べる技法なんだが、敵が気配を消した状態でもこれなら捕捉できた」


 アルフレッドはそう言って〖ソナー〗を発動する。

 アルフレッドから放たれた魔力が部屋の壁や天井に当たって反射してくる。


 「いま、俺の魔力を飛ばしているけど、反射してくるの分かるか?」

 「ええ。分かるわ。なるほど、気配を遮断しても物体としては存在するから魔力が反射して捕捉できるのね。 ……よし、どこかで素材を揃えてそういう魔道具を作ってみましょう」


 魔道具の作成はかなり高度な知識や技術を要求されるため、本来そう簡単に作れるものではないのだが、リリヴィアはちょっとした日曜大工のノリで言ってのける。

 アルフレッドもリリヴィアのハイスペックぶりを知っているので特に驚かない。


 「作れそうなら頼むわ。あと【聖水】も買おうぜ。【不死教団】の主力はアンデッドみたいだし」

 「そうね。メノアさんの護衛が終わったらアルタで必要な物を買い揃えましょう。報奨金もあるからお金の心配は要らないし」


 リリヴィアは金貨が入った袋を手に取って言う。

 ちなみに報奨金についてだが、あえて山分けせずに2人の共用資金としている。

 今後、装備やアイテム類の購入などに必要な金はこの共用資金から出す予定である。


 「一時はどうなることかと思ったが、結果的には大勝利だったな」

 「まあね」


 2人はリリヴィアの持っている袋を見て笑い合う。

 実際、グノム達の奇襲によってアルフレッド達は間違いなく窮地に立たされていた。

 リリヴィアが敵の拠点に転移させられたことによってアルフレッドと分断され、敵地にたった1人で孤立してしまった。

 残されたアルフレッドもメノアを守りながら格上の敵と戦いを強いられてしまった。


 何かが違えば誰かが死んでしまい、笑ってなどいられなかったのだろうが、結果を見れば敵を殲滅したうえ、情報を持ち帰り、また行方不明になっていた村人も救出したことで領主のカルネル男爵から褒賞を得た。

 たしかに結果だけ見たら大勝利である。


 「そういえばこの勲章って何か役に立つのかしら?」


 リリヴィアはカルネル男爵からもらった勲章を手に取って見つめる。

 勲章は金貨と同程度の大きさのメダルであり表には紫色の剣が描かれており、裏には安全ピンのようなものが付いていて服に付けられるようになっている。


 「〖鑑定〗」


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<名称>:紫剣勲章(勲六等)

<説明>:アインダルク王国において、魔物や盗賊の討伐で一定以上の功績をあげた者に対して贈られる勲章。

     この勲章自体には特に実権は伴わないが、勲章を受けることは非常に名誉なこととされているため、社会的な信用を得ることができる。


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 「社会的な信用ってどのくらい得られるのかしら?」

 「俺も詳しくは知らんが、まあ悪くはないだろ。言うなれば手柄を立てた証拠なわけだし」


 ちなみに勲章には功績に応じて等級がある。

 最も等級が高いのは「大勲位」でありその次が「勲一等」、次が「勲二等」と続き一番下が今回アルフレッド達に与えられた「勲六等」である。


 勲六等レベルであれば熟練の冒険者の中には授与されている者もそこそこおり、得られる信用(というか社会的な評価)としては「それなりに優秀な奴」という程度だったりするのだが、それでも名誉には違いない。


 未だ無名の駆け出しと言って良い2人からするとこれも十分な報酬である。


 「冒険者ランク昇格に繋がるかしら?」

 「具体的なところは分からんが、少なくとも依頼は受けやすくなるんじゃね」

 「それならいいわ」


 現在の2人の課題の1つは冒険者ランクを上げることなので、その一助になるなら悪くはない。

 報酬の話はこのくらいにして、とアルフレッドは【不死教団】の話に戻す。


 「ところで【不死教団】の目的についてだけど、世界征服って随分スケールがデカいよな。普通はどんなに大きくても自分たちの国を建てるとか今ある国を乗っ取るとかだろ? それをすっとばして世界って」

 「そうね。でもグノムははっきりと世界全てを支配するって言っていたわよ」

 「よっぽど野心家なんだな、その教主って奴。 ……まあそうなると【不死教団】はこれからも戦力拡大に動くわけか」

 「グノムから手に入れた情報だと、現時点で教主は推定Aランク、グノム以外に5体いるらしいアンデッドの幹部が全員推定Bランク、その他雑魚が多数」

 「現時点で既に大戦力だよな。Aランクって言ったら『数千~数万規模の軍勢と同程度の強さ』だろ。それがいる時点で頑張ったら小国一つくらいなら滅ぼせるんじゃないか?」


 アルフレッドが顔を引きつらせる。

 実際Aランクモンスターと言えば大陸全土でも数えるほどしかいないとされており、討伐には国の軍隊が動かさねばならないほどの強さを持つ。

 ついでに言えばリリヴィアとも互角クラスの怪物だ。

 しかも【不死教団】の場合、教主単独ではなく幹部以下大勢の部下がいるのである。


 「確かに。大国のツヴァイレーン帝国なら大丈夫でしょうけど、ここのアインダルク王国なんかはヤバいかもしれないわね」

 「うちの国は小国だからな。それで、どの程度戦力拡大を目指しているのかについては何か情報あったりするか?」

 「大した情報じゃないけど、グノムの拠点で見つけた祭壇を見た感じだと、Aランクモンスターをさらに増やそうとしているんじゃないかしら。あそこにあった祭壇は死霊術の効果を高めるための物だったんだけど、高レベルの人間を生贄にして、なおかつ大量の魔力を込めた石像なんかも用意していたし。あれだけ用意していたならAランクモンスターを生み出せても不思議はないわね」

 「やべえな。思った以上に事態が深刻だ」


 アルフレッドはスケルトンやゾンビの軍団が行軍している光景を思い浮かべる。


 「なに弱気になっているのよ。まとめて倒せばいいだけでしょ」


 しかしリリヴィアは余裕だと言わんばかりに胸を張るのだった。




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 物語世界の小ネタ:


 この世界において、勲章は国や貴族が功労者に与える褒賞の1種です。

 褒賞は勲章の他にもお金や地位など様々なものがあり、功績や功労者の希望などに応じて与えられます。

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