第40話 【不死教団】教団の情報(sideリリヴィア)
「あり得ん……【不死教団】の幹部であるこの私が……」
グノムは自身が敗れたことが信じられぬ様子で呟いた。
「幹部って、具体的にはどの辺の地位なのよ?」
「……ふん、私に勝った褒美に教えてやる。【不死教団】には教主様の下に私を含めて6人の幹部がいる。いずれも私と同等の力を持つ強力なアンデッド達だ。そしてその上に立つ教主ジュゲーム様は幹部達でさえ比べ物にならぬ程、強大な御方だ」
(ふむふむ。幹部は推定Bランク、教主は推定Aランクってところかしらね。 ……ボスはジュゲームって名前なんだ……)
教主の名前を聞いたリリヴィアがなんとなく古典落語のとある演目に出てくる非常に長い名前を思い浮かべた時、グノムが持っていた大杖が光を放ちだした。
「ははは、私もただで敗れては教主様に申し訳が立たんからな! 貴様を道連れにしてくれるわ! 〖マテリアルブレイク〗!!」
〖マテリアルブレイク〗とは魔道具などに込めた魔力を意図的に暴走させて爆発を引き起こす技である。
〖魔術制御〗スキルの〖Lv10〗で覚えるスキルで、大量の魔力を消費するうえ発動までに時間がかかり、かつ確実に使った物が壊れてしまうのだが、それらのデメリットと引き換えに強力な威力を誇る。
グノムは喋っている間、隠密の指輪で魔力を隠しながら相打ちを狙っていたのだった。
「神聖魔法〖神壁結界〗」
しかし、その執念をもってしてもリリヴィアは倒せなかった。
彼女は爆発の瞬間に非常に強力かつ自由自在に形状変化する障壁〖神壁結界〗を発動、グノムの大杖を覆う形で展開することで爆発を完全に抑え込んだのだった。
大杖の爆発はそれを掴んでいるグノムの右手を爆砕しただけに終わった。
「ぐぅ、おのれ!」
「悪いけど、その程度で敗ける私じゃないわよ」
そう言って彼女はグノムに止めを刺すために大剣を振り下ろす———
「ま、まだまだーー!!」
「消えた!?」
———だが刃が届く直前、グノムは姿を消す。
「ふ、ふははは。どうだ! これが【転移水晶】! 教団が開発した転移アイテムだ!!」
そして奥の祭壇のすぐ側に姿を現した。
「ふーん……」
「ふーんとは何だ! 注いだ魔力に応じた距離を移動できるのだぞ。しかも予め転移先の座標を覚えさせることで瞬時に転移を発動できるのだ!」
「いや、確かにすごいけどさ、今更そこに移動しても意味無くない? ていうか、魔力に応じて移動距離が変わるなら、自爆しようとする前に使いなさいよ。貴方、さっきの自爆にほとんどの魔力注いでしまったから、もう大した距離逃げられないでしょ?」
「うるさい! それよりもだ。リリヴィアとやら、私をここまで追い込むとはなかなか見所があるではないか。よって特別に我らが教団に迎え入れてやろう」
相打ちに失敗したグノムはリリヴィアの懐柔を試みることにしたらしい。
「いえ、結構です」
しかしリリヴィアは即行で拒否。
「待て、よく考えろ! 我らが教団はこの【転移水晶】をみても分かるように他とは比較にもならぬ程高度な魔法技術を誇り、様々な魔道具を作り出すことに成功しておる。さらにその技術開発を支えるための資金も潤沢にある。そなたが教団に入れば、これらの魔道具も資金も自由に扱えるのだ」
「つまり金は思いのままと」
「さらに、教主様にも会えるように取り計らってやろう。教主様はめったに人前に姿をお見せにならない御方だが、私なら執り成すこともできる。またアンデッド化についても、別に強制はしないぞ。人の身のままでいたいというのならそうすれば良い。教団の中にも敢えてアンデッドにはならず人間のまま加入しているものも多いしな」
リリヴィアが興味を示したと思ったのか、グノムはここぞとばかりに畳み込む。
「ふんふん。思ったよりも良い条件ね」
「ふははは、そうであろう。言っておくがこれは私が見込んだからこその破格の条件だぞ。これを逃したら次はないと思え」
「ああ、でもその約束が守られるという保証がないわね。あなたとは初対面でしかも敵対しているから、信用できる要素がないし」
「私は嘘などつかん」
「じゃあ、いくつか質問するから、正直に答えなさい。言っとくけど私は〖念話〗持ちだから、嘘ついたら分かるわよ」
〖念話〗とは要するにテレパシースキルである。
自分の思念を伝え、相手の思念を読み取ることで言葉の通じない魔物相手にもコミュニケーションを取ることが出来るのだが、それ以外にもスキルレベルに応じて相手の感情や思考を読み取ることができるため尋問にも使えるのだ。
「ふん、まあその質問とやらを言ってみろ」
グノムはやや身構えながらも質問を促す。
(ここで嫌だと言えば即座に殺されかねん。了承するしかないが……下手に教主様のことを話してしまうと、今は助かっても後で教主様に粛清されることになるだろう……どう切り抜ける?)
「これから私がする質問について、『はい』か『いいえ』で答えなさい。」
考えるグノムにリリヴィアは返事の方法を指定する。
「まず1つ目の質問。あなたは元々人間であり、自分の意志でアンデッドになった?」
「答えは『はい』だ。病に侵され死期を悟ってな。永遠の命を得るためにアンデッド化を決意した」
「2つ目の質問。【不死教団】の本拠地はツヴァイレーン帝国にある?」
「それも『はい』だ。具体的な場所はそなたが仲間になるまでは言えんがな」
「3つ目の質問。あなたは【不死教団】教主の素性を知っている?」
「……『いいえ』だな。教主様のことは極秘事項だ。下手に詮索しようものなら粛清されることとなる」
「4つ目の質問。あなたは実は教主にとって代わろうとしている?」
「は?」
「『はい』か『いいえ』で答えて」
「無論『いいえ』だ! ふざけるなよ! 私の全ては教主様のためにある。謀反など夢にも思っておらんわ!」
「なるほどね。質問は以上よ。〖念話〗で読み取った感覚でも嘘を言った感じはなかったわ」
「ふん。で、どうするのだ? 我らが教団に入り、栄華を手に入れるのか? それとも私を殺し、今後教団から追われる生活を送るか?」
グノムは不機嫌な様子でリリヴィアの返事を促す。
「答えはどちらでもないわよ。教団を潰して終わり。悪いけど【不死教団】なんて危なげな組織、最初から潰すのは確定だったわ。もし貴方が裏切るタイプだったら利用することも考えたけど、違うみたいだし、貴方もここで倒すわ」
「……やはりか。だがいささか油断し過ぎではないかね?」
その時、後ろの扉が勢いよく開かれて十数体のゾンビが雪崩れ込んできた。
「光魔法〖ターンアンデッド〗」
リリヴィアはグノムの方を向いたまま振り返ることなく後ろに手をかざしてゾンビ達を浄化する。
(今だ! 奴は私の魔力が尽きたと思い込んでいる。だが私の持つ【魔力の指輪】は魔力を回復させる効果がある。今なら話をしている間に回復した魔力で逃げられる!)
「〖オーラブレード〗」
「ぐああっ!」
リリヴィアがゾンビを浄化した隙にグノムは再び【転移水晶】しようとするが、それより先にリリヴィアの攻撃がグノムを仕留めた。
「そう何回も油断しないわよ。私がその気になったら、そのアイテムが発動するより早く仕留められるんだから」
リリヴィアはグノムを仕留めたことを確認すると死体を〖ディメンション〗の亜空間に収納し、辺りを見回す。
「さて、脱出の前にここを詳しく調べますか」
まずは床の魔法陣や奥にある祭壇を調べる。
ちなみに魔法陣も祭壇も戦いが行われたにもかかわらず、全くと言っていいほど損傷がなかった。
魔法で保護されているらしい。
「〖鑑定〗」
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<名称>:怨叫の祭壇
<説明>:神聖な祭壇を死者の怨念で冒涜することで作り出した、呪いの祭壇。
祭壇に込められた怨念が死霊術の効果を何倍にも増幅する。
また生贄を用いることで、生贄の<MP>に応じて術式の規模を引き上げることが出来る。
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(やっぱりこの祭壇を使ってアンデッドを生み出そうとしていたのね。床の魔法陣はパット見た感じ、祭壇に魔力を送り込むためのものって感じね。とりあえず祭壇と魔法陣は動かせそうにないから、このままにしてカルネル男爵に報告ね)
また周囲の石像も鑑定してみる。
「〖鑑定〗」
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<名称>:魔力貯蔵の石像
<説明>:<MP>を貯め込むことが出来る石像。
貯め込んだ<MP>は好きなタイミングで取り出すことが出来る。
ただし使用するためには〖魔力制御〗スキルが必須。
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(石像はアンデッド生成のための魔力タンクか。〖魔力探知〗で調べた感じかなりの魔力が貯め込まれているみたいね)
「次は扉の向こう側ね」
その後リリヴィアは拠点の中を調べて回る。
拠点内にはウル村のゾンビ騒動の際に捕らえられた人間が十数人ほど監禁されており、彼らを解放して共にカルネル領に帰還したのだった。
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物語世界の小ネタ:
ちなみにグノムの元々の計画では捕らえた領民を餌にして領主をおびき出そうとしていました。
捕らえられた領民が無事だったのはそのためだったりします。
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