第39話 【不死教団】教団幹部グノム(sideリリヴィア)
——【不死教団】の拠点にて———————————————————
時はやや遡り強制転移の直後。
「しくじったぁー。 ……最初に霧の魔法が使われたんだから、魔法使いが潜んでいるのは分かってたはずなのに……油断して奇襲くらうとかあり得ないわ……」
リリヴィアは片手で顔を抑えながら独り言を言う。
彼女は街道で襲ってきたスケルトン・ナイトを倒して油断していたところに奇襲を受け、不意を突かれる形で別の場所に転移させられてしまったのだった。
ここは50m四方の空間で床一面に大きな魔法陣が描かれており、周囲の壁際には神や悪魔を象ったと思われる石像が多数置かれている。
目の前には自分をここに連れてきた者の他にリッチやスケルトン系統のアンデッドが4体、後ろにもゾンビ系統のアンデッドが3体いてリリヴィアを囲んでいる。
目の前のリッチの後ろには石で作られた祭壇があり、床も壁も天井も土がむき出しで周囲の石像と併せてどこかの地下に作られた神殿の中という印象を受ける。
「ふ、若者にはよくあることだ。自分の実力に慢心し、あるいは思慮が足らずに思わぬ不覚を取る。まあ経験が浅いのだからある程度は仕方がないのだがな」
リリヴィアをここに連れてきたリッチが彼女を小馬鹿にしたように言う。
「ご忠告どうも! ていうか貴方は何者よ?」
「私はグノム・フォン・ゲイルブルク。見ての通り不死者だ」
(ムカつくけど、奇襲が上手くいったことで油断してるっぽいわね。上手く誘導すれば情報を引き出せそう……よし!)
リリヴィアはグノムの様子を見て脱出よりも情報収集を優先することに決定し、どうすればより多くの情報を引き出せるか考えつつ言葉を続ける。
「察するに貴方は【不死教団】の幹部で、ここは貴方の隠れ家ってところかしら? 壁や天井がみすぼらしいけど、国から追われているならゆっくり作ったりできないし、仕方ないわね」
まずは挑発から入ってみる。
「言ってくれる。まあここが急造なのは否定しないが、それほど困っているわけではないぞ。それより良く我らが【不死教団】の者だとわかったな」
「ふ、そのくらいお見通しよ!」
ただの決めつけだったりする。
どうやら正解だったみたいなので問題ない。
「だいたいアンデッドの組織なんてそんなに多くないでしょ? 村にゾンビが出たのを見た時から【不死教団】を疑っていたわ」
「なるほど。では、私達が何のために貴女を攫ったのかは分かるかな?」
「もちろん分かるわよ! ……えーっと、ただの旅人だと思って襲ってみたら、私が思ったより強くて返り討ちにされそうになって、逆転を狙って確実に勝てそうなところに誘い込んだ、とか?」
分かると言っている割には最後が疑問形になっているのはご愛嬌。
「はっはっは。教えてやろう。高位アンデッドを生み出すための生贄とするためだ」
(お、目的の情報ゲット! ……言っとくけど、答えを外したのはワザとだから! 油断させて情報吐かせたかっただけだから!)
笑いながら正解を言うグノムに対してリリヴィアは「ぐぬぬ……」と悔しそうな表情で睨む。
その様子はとても演技には見えない。
あと彼女は結構負けず嫌いだったりする。
「我らが教団は、いまはまだ1つの組織に過ぎぬ。だがこのまま終わることはない。やがて我らの国を打ち立て、最後にはこの世界全てを支配する! 今はそのための戦力を集めているわけだ」
「それはそれは、随分立派な計画ね。それで? その大層な計画を練って世界征服しようっていうあんたらのボスはどんな奴なの?」
「くくく、いかんな。少し喋り過ぎたようだ。そろそろ君を生贄にするとしよう。やれ」
「「ははっ」」
(ちっ、さすがにボスの情報は簡単に喋らないか……)
「暗黒魔法〖ダークスフィア〗」
「暗黒魔法〖クライムランス〗」
「光輝魔法〖セイントバリア〗!」
グノムの命令を受けた2体のリッチが暗黒魔法で黒い球体と黒い槍を作り出して射出し、それをリリヴィアは光輝魔法の障壁を周囲に展開して受け止める。
「闇魔法〖ポイズンフォッグ〗」
「はっ、生憎とそんな状態異常に負けないわよ!」
リッチの1体が毒の霧を作り出す魔法を発動させたが、リリヴィアは街道で奇襲を受けた時点で自分自身に状態異常を無効化する魔法をかけているため、毒を受けることはなかった。
「〖鑑定〗」
---------------------------------------------------------------------------------
<名前> :グノム・フォン・ゲイルブルク
<種族> :エルダー・リッチ
<ジョブ>:不死者Lv40/85
<状態> :通常
<HP> :350/350
<MP> :678/700
<攻撃力>:150+ 10
<防御力>:110+115
<魔法力>:600+ 80
<素早さ>:117
<装備> :怨恐の大杖、ミスリルローブ、魔力の指輪、マジックバリアリング、隠密の指輪、呪鬼の王冠
<特性スキル>:
〖アンデッド〗:Lv―
〖眷属支配〗 :Lv―
<技能スキル>
〖剣術〗 :Lv 1
〖土魔法〗 :Lv10
∟〖大地魔法〗:Lv 2
〖闇魔法〗 :Lv10
∟〖暗黒魔法〗:Lv 7
〖死霊術〗 :Lv 9
〖念話〗 :Lv 4
〖鑑定〗 :Lv 1
〖気配察知〗 :Lv 4
〖魔力探知〗 :Lv 7
〖魔力制御〗 :Lv10
〖魔法規模拡大〗:Lv 3
〖並行詠唱〗 :Lv10
∟〖多重詠唱〗:Lv 6
〖統率〗 :Lv 4
〖騎乗〗 :Lv 2
〖暗視〗 :Lv 4
〖隠密〗 :Lv 3
〖交渉〗 :Lv 3
<耐性スキル>:
〖魔法耐性〗 :Lv3
〖状態異常無効〗:Lv―
〖精神異常無効〗:Lv―
<称号> :〖呪冥伯爵〗
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(Bランクの上級リッチか。典型的な後衛の火力砲台タイプね。パラメータの大半を魔法関係に振っていて使う魔法属性は土と闇。近接戦は申し訳程度……優秀な前衛がいればそこそこ厄介かも。他の連中は……)
リリヴィアは敵の攻撃を障壁で防ぎながら敵を鑑定していく。
グノムを含めて全部で8体いるアンデッドの内訳は以下の通りだった。
前方5体———
グノム(エルダー・リッチ) :
Bランク、Lv40
現時点では部下に攻撃を命じているだけで自身は様子見中。
リッチ2体 :
Cランク、Lv20とLv25
どちらも魔術師タイプ。
ぶっちゃけグノムの下位互換。
グノムの左右にいて、現在主に闇魔法で攻撃中。
スケルトン・ナイト2体 :
Dランク、Lv20とLv28
どちらも戦士タイプ。
リッチ達の斜め前に立ち、リリヴィアからの攻撃を警戒して盾を構えている。
後方3体———
ワーロック1体 :
Dランク、Lv20
ゾンビ系統の魔法使いでリッチの下位種。
扉の前に陣取っており、おそらく出口を守っているものと思われる。
グール2体 :
Eランク、Lv8とLv9
ゾンビの上位種。
ワーロックと共に扉の前に陣取っており、おそらく出口を守っているものと思われる。
(前に比べて後ろが明らかに弱い……奥にある祭壇を守りたいのか、あるいは後ろに誘導しようとしているのか……)
「そろそろ私も攻撃に参加するとしよう。大地魔法〖ストーンランス〗」
リリヴィアが思案しているとグノムが土製の大槍を撃ち出す魔法〖ストーンランス〗を発射、放たれた槍が彼女の障壁を突き破る。
「……! 光輝魔法〖セイントバリア〗」
そのまま貫通して飛んでくる槍をリリヴィアはスリッピングで躱し、再び障壁を張り直す。
リッチ達の追撃が来るが張り直した障壁が受け止める。
「どうした? 防御だけではジリ貧だぞ? 障壁の維持にもそれなりに魔力を消費するはずだが?」
「は、そう簡単に音を上げるほどヤワじゃないわよ! それより、挟み込んだ形でそんなに魔法を撃っていたら私の後ろにいる味方に当たるんじゃないの?」
「心配は不要だ。味方に当たらないよう軌道の調整くらいはしている。そら、大地魔法〖ストーンランス〗、暗黒魔法〖クライムランス〗」
「ちっ……」
同時に放たれた土と闇の槍は2つとも障壁を貫通してリリヴィアに迫る。
リリヴィアは横に跳んで躱し、着地と同時に反撃を開始する。
「光魔法〖ターンアンデッド〗」
リリヴィアが放つのは下位の光魔法でありながらアンデッド系統の魔物に特効を持つ〖ターンアンデッド〗。
死者の魂を浄化する光が場を包む。
「「「闇魔法〖カースバリア〗」」」
しかしグノムと2体のリッチ達は素早く呪いの障壁を作り出して対抗し、〖ターンアンデッド〗を防ぐ。
アンデッド側にも〖ターンアンデッド〗を防ぐための魔法があるのだ。
(やっぱり防ぐか。でも後ろのゾンビ連中は倒せたわ)
〖カースバリア〗が守ったのは前面の5体のみ。
後ろでリリヴィアの退路を断っていたワーロック1体とグール2体は守れる位置になく、一瞬で倒されていた。
「まずは3体。この分なら楽勝ね」
「そう思うなら、こちらに向かってくるがいい。威勢がいいのは口だけか?」
リリヴィアの挑発に対し、グノムも挑発で返す。
「あら、そちらこそ全く近寄ってこないのは怖気づいているからじゃないの? いいのかしら? こうしている間にもカルネル男爵がここを見つけるかもしれないわよ?」
「生憎とこれが私たちの戦い方なのでな。それとここはそう簡単に見つかる場所ではない。残念だったな」
「分からないわよ? 昨日リッチを倒したらしいし、意外とここも見つけるかもしれないわよ」
「いいや、奴らが倒したリッチは調査を終わらせるための捨て駒に過ぎんよ。くくく、まあ奴らとしても、領地を荒らされてなんの成果も無しでは収まりがつかないだろうからな。少しばかり手柄をくれてやっただけよ」
(なるほど。やっぱりカルネル男爵達が討ち取ったリッチは、騒動の犯人に仕立てあげられたスケープゴートだったわけね)
「ここに関しては念入りに隠してあるからな。辺境の田舎貴族程度ではまず見つけられんよ。君がここを脱出して、彼らに助けを求めたなら話は別だがな。後ろの扉から外に出られるぞ。試してみるか?」
「そうやって、私が背を見せたところを追撃する気でしょ? あるいは扉の向こうに伏兵でもいるのかしら?」
「ふ、あるいはただのハッタリで何もないかもしれんぞ?」
「……まあいいわ。この辺で終わらせましょう」
「む!?」
リリヴィアの空気が一変した。
「戦いを引き延ばしながら、どうやって情報を引き出そうか考えていたのだけど、ボスや本拠地の情報を引き出すのは難しそうだし、アンデッドは薬効かないから自白剤も意味ないし。今までのやり取りで手に入れた情報と、ここを制圧して手に入る分で満足するとしましょう」
リリヴィアの言葉を聞き、グノムは怒りだす。
「ふん、その気になればいつでも倒せたとでもいう気か? 舐めるのもいい加減に———」
「〖神速の一閃〗、神聖魔法〖ホーリーレイ〗、〖オーラブレード〗」
「———せよ……」
だが、言葉を言い終わる前に決着がついてしまった。
目にも止まらぬ速さで移動しつつ斬りつける剣神術スキルの〖神速の一閃〗でグノムの右側にいたリッチとスケルトン・ナイトを切り裂き、もう一方のリッチとスケルトン・ナイトを光系統の最上位、神聖魔法〖ホーリーレイ〗の白い光線で打ち抜く。
そして強力な斬撃を飛ばす剣神術スキルの〖オーラブレード〗でグノムの体を上下に両断したのである。
「ば、ばかな……」
「ふふ、その気になれば、貴方達なんか敵じゃないのよ! 最期に言い残すことがあれば聞いてやるけど?」
リリヴィアはグノムに大剣を突き付けて勝ち誇るのだった。
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物語世界の小ネタ:
この世界では転移が使える人間はとても希少です。
また転移する魔道具もそれと同じくらい貴重です。
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