第38話 【不死教団】ガストンの供述
ガストンを投げ縄で拘束してから10分ほど経った時ガストンは自我を取り戻したが、既に自力では動けなくなっていた。
「……完敗だ。本当に、見事だ……」
アルフレッドはガストンが自我を取り戻したのを確認すると剣を持ってガストンの側に歩み寄る。
「最後に聞くけど、あんたらは【不死教団】で間違いないんだよな?」
「ああ」
負けを認めたからなのか、ガストンは正直に話した。
「【不死教団】はここで何をしていたんだ? それとリリをどこに連れ去った?」
「私達は高位アンデッドを生み出すためにここにきた。元々はここの領主を生贄にするために騒動を引き起こしていたのだが、そのリリという少女の方がよりふさわしいと判断した。そして標的を変更して君達を襲った」
「なるほど。で、リリをどこに連れ去ったんだ?」
「彼女のことは諦めなさい。グノム様は私よりはるかに強大だ。今頃はもう殺されている」
「生憎とそう簡単にあきらめる気はねえよ」
「私はアンデッドになる前はツヴァイレーン帝国に仕える騎士だった」
「えーっと、リリの居場所が聞きたいんですけど……」
「数年前まで国の命令で【不死教団】の調査をしていた……敗れて捕らえられて……生贄にされて、こうしてアンデッドに生まれ変わった」
ガストンはリリヴィアの居場所については答える気はないらしい。
その代わりに自身のことを話し出した。
「アンデッドになると、人としての価値観や死生観が魔物のそれに変わるというが、私も完全に変わったよ。以前は【不死教団】の所業に憤りを覚えていたはずなのに、アンデッドとなった後はそれがなくなった。かつては悍ましいと思っていた所業にも躊躇なく従っている……よく覚えておきなさい。彼らに捕らえられるとこうなるということを」
(価値観が変わったっていうより、アンデッド化したことで洗脳されたっぽいな……)
「私からする話はここまでだ。勝手だが、ここで退場させてもらう」
ガストンは語り終えると動かなくなった。
鑑定すると既に死亡していた。
どうやったのか分からないが自殺したらしい。
「とにかく、カルネル男爵のところに戻りましょう。このことを報告すればきっと力になってくれるわ」
戦いが終わった後馬車に戻っていたメノアが、アルフレッドに戻ることを提案する。
「すみませんが、よろしくお願いします」
「いいのよ。このくらい当然だから。それより怪我は大丈夫?」
「大丈夫です」
アルフレッド達は元来た道を戻り始めた。
——戻る途中の街道にて—————————————————————
アルフレッド達が襲撃を受けた場所と最寄りの村の中間地点に怪しい男達が隠れて街道を見張っていた。
「ワイズ様、標的の馬車が来ましたぜ」
「うむ。で、馬車の状況は?」
「速度は普通よりやや早い程度。例の女商人が手綱を引いて、その隣に男の護衛がいます。女の護衛の方は見当たないし、〖気配察知〗にもかかりません。男の方も〖気配察知〗の感じからするとそれなりに消耗しているようです。いかがします? 予定通りに襲撃しますか?」
隠れていたのは【不死教団】を利用してメノアの誘拐を企む悪徳商人のワイズとその部下達であった。
彼らは襲撃を受けて逃げてくるであろうメノアを捕らえるために街道の近くに潜伏していたのだ。
ここでメノアを捕らえる予定だったのだが、ワイズは馬車の様子を見てそれに待ったをかけた。
「……一旦中止だ。今回は見送ることにする」
「中止!? いえ、分かりました」
部下は予想外の指示に戸惑うが、とりあえず了承する。
部下が聞きたそうにしているのに気付いたのか、ワイズは中止の理由を説明し始める。
「馬車の逃げ方に違和感がある。グノム達に追われているのならもっと急いでいるはずだし、それに後ろを警戒するはずだろ。あの馬車は全速力という程の速さではないし、どちらかというと後ろよりも前や左右を警戒している感じだ」
ワイズの言う通り、アルフレッド達は後ろからの追い打ちを警戒していないようであり、部下も言われて確かにそうだと頷く。
「前を警戒しているのはおそらく待ち伏せの可能性に気付いたからだろうが、そのことに気付けるくらいには余裕があるということだ。 ……推測の域を出ないが、襲撃が上手くいかなかったのかもしれん」
「なるほど。ですが、ああやって引き返しているということは、襲撃自体は受けたはずですよね? それに一番厄介だった女の護衛がいないなら、俺達でも十分なんとかなると思いますが」
「今襲撃したとして、お前らが返り討ちに遭うとは思わんが、私が警戒しているのは想定外の可能性だ。いつも言っているだろ。常に最悪の可能性を考えて動けと」
長年裏社会を生きてきたワイズは危険察知能力が高かった。
彼はそれによってこれまで幾度となく窮地を切り抜けてきたのである。
そのことを知っている部下はそれ以上何も言わずにワイズの判断に従う。
「グノム達がどう襲撃するのか確認しなかったのは失敗だったかもしれないな。下手に深入りして私達まで手伝わされることになったらまずいと、あえてグノム達とは距離を置いていたから、実際にどうなったのかが分からん。見張りくらいはしておくべきだったか? ……まあ、でも間違ってもアンデッド共と一緒にいるところを見られるわけにはいかんし、ここの兵隊達が見回りしている中でこれ以上動くのは危険か」
ワイズは考えをまとめると部下に指示を出す。
「誰にも見つからないうちに、隣の領地に引き上げるぞ。そして襲撃の結果がどうなったのかを見極める。最悪メノアを誘拐するのは護衛が離れてからでもいい。確か今回の護衛はアルタまでの間だけだから、もし失敗していたならその後を狙えばいい」
こうしてワイズたちは撤退したのだった。
——エルダ村の領主館にて————————————————————
襲撃から約2時間後、アルフレッドとメノアはエルダ村の領主館で、カルネル男爵に襲撃の顛末を報告していた。
戻る途中、アルフレッド達は【不死教団】の待ち伏せを警戒していたのだが、特に何もなく領主館に着いた。
アルフレッド達が到着したころカルネル男爵も領内の見回りを終えて戻ってきており、メノアが面会を求めるとすぐに応じたのだった。
「———以上が私達の受けた襲撃の内容となります。どうかリリの救出のためにお力添えをいただけないかと」
メノアが街道で襲撃を受けたこと、リリヴィアが連れ去られたこと、襲撃犯のうち、ガストンと名乗るデス・ナイトを倒して尋問した内容などをカルネル男爵に報告し、協力を求める。
なおガストンの死体については馬車に乗せて持ってきており、既にカルネル男爵に引き渡し済である。
「なるほど。今日は何も起きないと思ったら、そちらに目標を移していたわけか……我々としても既に村を襲撃されている以上は断固として戦わねばならん。彼女の救出にも協力しよう」
「ありがとうございます」
「だが、問題はどこに連れ去られたのかだ。何か手掛かりなどはないだろうか……」
「リリは転移系のスキルかアイテムで連れ去られてしまっていまして、残念ながらどこに連れ去られたかは見当もつかない状態です……カルネル男爵の方では引き続き領内の見回りをされていると伺っていますが、そちらの状況をお聞きしても?」
「こちらは先ほど領内の見回りを終えたところだ。残念ながらそれらしい拠点は発見できなかったよ。もし領地の外に逃げられてしまっているとしたら……」
皆黙り込んでしまった。
領地の中であれば、カルネル男爵は領主として兵隊を率いて向かうことが出来るのだが、領地の外に逃げられた場合はそうはいかない。
管轄が違うため、勝手に踏み込めないうえにできることも限られてくるのである。
しかも手掛かりがない以上は闇雲に探すしかなく、現実的に言って見つけることはほぼ不可能となる。
「……ひとまず、メノア殿が襲撃を受けたという場所の近くを調査しよう。あるいは何か見つかるかもしれん。それと国に報告して、調査を依頼すべきだな。メノア殿、襲撃地点の調査に立ち会っていただけないだろうか?」
沈黙を破ってカルネル男爵が話し始めた。
まずは出来ることをやってみよう、という感じである。
「もちろんですわ。こちらからお願いしていることですから」
「それとアルフレッド君。デス・ナイトとの戦いで負傷したとのことだが怪我は大丈夫かな?」
「問題ありません。痛みは多少残っていますが、怪我自体は【ポーション】で治っていますので、戦いにも支障ありません」
「なるほど。それなら君にもメノア殿と共に来てもらうとしよう。ただし無理は禁物だから、今のうちに医者に診てもらいなさい。準備が出来たら声をかけるから」
「あ、はい。分かりました」
すぐにでもリリヴィアの探索に向かおうと思っていたアルフレッドはやや気勢をそがれるが、カルネル男爵の言っていることはもっともなので了承する。
「ラキル、アルフレッド君を村の医者の所に連れて行ってくれ」
「かしこまりました。アルフレッド殿、案内いたしますのでこちらへ」
アルフレッドは執事のラキルに連れられて、怪我の具合を医者に診てもらうのだった。
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約1時間後、午後になってアルフレッド、メノアを含めた調査隊が領主館の前に集合した。
「アルフレッドさん」
「何でしょうか? あとアルでいいですよ。ドゥエインさん」
ドゥエインがアルフレッドに話しかけてきた。
「いや、少し心配になって。無理しないでね。あ、あと私のこともドゥエでいいよ」
「大丈夫ですよ。俺はリリがそう簡単にやられるとは思ってないから」
「確かに。リリさんならリッチが相手でも返り討ちにしてそうよね」
「ええ、今回は油断してこうなったけど、あいつは何気に世界最強格ですからね。絶対敵を返り討ちにして、そのうち平気な顔で戻ってきますよ」
アルフレッドは気丈に振る舞う。
「なるほど。であれば我々の任務は敵を打ち倒したリリヴィア嬢と合流して、その武勇伝を拝聴するといったところかな」
「カルネル男爵!」
そこにカルネル男爵が後ろから声をかけてきた。
「やあ。君が気負い過ぎていないか気になっていたんだが、要らぬ心配だったみたいだね」
「いえ、俺みたいな者まで気にかけてくれてありがとうございます」
「礼はいらないさ。それよりもそろそろ出発するとしよう」
「はい!」
カルネル男爵達の温かい気遣いに感謝しつつも、アルフレッドは気を引き締めて再び戦いに身を投じる覚悟を決めたその時、カルネル男爵の元に部下のペリドットが駆け寄ってきた。
「クルト様、リリヴィア殿がウル村に戻ってきたそうです。行方不明になっていた村人達を連れて」
「「「え!?」」」
予想外の報告にその場の皆がきょとんとしたのだった。
リリヴィアは本当に敵を返り討ちにして戻ってきたらしい。
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物語世界の小ネタ:
この国は各領主がそれぞれの領地を治める封建制の国家です。
領主は自分の領内であれば強い権限を持っていて、兵隊を動員して強制捜査なんかもできます。
その反面、領地の外に対しては権限を持たず、できることも少なくなります。
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