第53話 今後の課題と特訓
——開拓村近くの街道にて————————————————————
【赤獅子盗賊団】を撃退した翌朝、アルフレッド達はオットーを含む村人達に見送られながら村を旅立った。
出発の際には村人達から改めてお礼を言われ、オットーからも本当に懸賞金は要らないのかと聞かれたりもした。
懸賞金については「こっちは大丈夫ですので村のために使ってください」と改めて返事をして、代わりにと差し出された野菜(村の畑で育てた農作物とのこと)を受け取った。
出発から1時間後、アルフレッドは街道を進みながら馬車の御者席の隣に座って、光魔法〖ヒール〗の練習を行っている。
もちろん定期的に〖気配察知〗スキルを使い、周囲に人や魔物がいないかを確認しながら。
ナイフを使って自分の腕に小さな傷をつけて、その傷を治すことを繰り返す。
「随分頑張ってるみたいだけど、本当に大丈夫?」
メノアが馬車の手綱を握りながらアルフレッドに問いかける。
あくまで訓練目的のため腕につける傷はそれほど大きくないし、事前に説明もされているのだが隣で何度も自傷行為をされるとさすがに気になってくる。
「ああ、大丈夫です。そんなに深い傷はつけてないですし、すぐに治してますんで。光魔法〖ヒール〗」
「それならいいけど、無理しないでね」
とりあえず、今の彼を止めることはできないらしい。
そう思ったメノアはそれ以上何も言わないことにした。
アルフレッドは昨日の夜、リリヴィアに追いつくためにはどうしたらいいか……どのように鍛えたら追いつけるのかを考えた。
……残念ながら、どれだけ真剣に考えても都合良く答えが出てくることはなかった。
だがしかし、それでも彼は自分なりに考えて修行の方針を固めたのだった。
その方針とは———
・まずは使えるスキルを増やす。
・できるだけ効率よく職業レベルを上げる。
・自身の成長限界である〖Lv50〗の限界突破を目指す。
———という感じだ。
まあ、そんなに奇抜なアイデアがあるわけではない。
むしろ「修行に早道なんてないのだから地道に少しずつ強くなっていくしかない」という結論になった。
そしてその最初の一歩としてアルフレッドが目を付けたのが〖ヒール〗の習得というわけだ。
(自前の回復手段があれば戦いも大分安定するからな。回復魔法は必須だ。)
〖ヒール〗は光魔法の〖Lv3〗で覚える基本的な回復魔法だ。
<MP>を消費して<HP>を回復し、怪我を治す。
手足の欠損した場合などは再生できず、大きな傷については傷跡が残ってしまうのだが。
しかしそれでも一命を取り留めることはできるし、捻挫くらいであれば十分治せるので十分有用な魔法だ。
アルフレッドは【不死教団】のガストンと戦の後、実は光魔法が〖Lv3〗に上がり、〖ヒール〗が習得できるようになっていた。
なので、どうやって強くなるかと考えた時にまず最初に決めたのが、〖ヒール〗の習得だった。
回復魔法のコツについては出発前にリリヴィアに教えてもらっている。
「光魔法〖ヒール〗 ……あれ?」
これまで問題なく発動していた〖ヒール〗が発動しなかった。
ついでにいままで気にならなかったが、いつの間にか身体に倦怠感がある。
「<MP>が枯渇したのよ! アル、【マナポーション】で<MP>を回復させて少し休みなさい。スキルのレベル上げは集中力が大事よ」
「ああ、分かった」
すかさずリリヴィアの指導が入り、アルフレッドはそれに従う。
冒険者証で自身の<ステータス>を確認すると<MP>がすっかりなくなっていた。
気付かないうちにリリヴィアに言われた通り、<MP>を使い果たしてしまったらしい。
ちなみに、リリヴィアを最大のライバルとしているアルフレッドだが、そのリリヴィアに教えてもらうことについては全く躊躇わないことにしている。
少しでも早く上達するには、強者に教えを乞うのが一番なのだ。
(アルタに到着するまでの間は〖ヒール〗の練習だな。<MP>と【マナポーション】が許す限り練習して、光魔法のレベルを上げる)
アルフレッドは【マナポーション】を飲んで<MP>を回復させた後、リリヴィアに言われた通り休憩しながら、今後のことを考える。
(ちなみに今の時点の俺の<ステータス>は……)
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<名前> :アルフレッド・ガーナンド
<種族> :人間
<ジョブ>:斥候Lv28/50
<状態> :通常
<HP> :100/101
<MP> : 44/ 44
<攻撃力>: 83+40
<防御力>: 39+40
<魔法力>: 74
<素早さ>:120
<装備> :風の下級魔剣、鎧蜥蜴の鱗鎧、鎧蜥蜴の鱗兜
<特性スキル>:
特になし
<技能スキル>
〖剣術〗 :Lv8
〖短剣術〗 :Lv3
〖盾術〗 :Lv5
〖格闘術〗 :Lv4
〖投擲〗 :Lv4
〖火魔法〗 :Lv4
〖風魔法〗 :Lv7
〖光魔法〗 :Lv3
〖鑑定〗 :Lv5
〖気配察知〗:Lv9
〖危険察知〗:Lv9
〖魔力探知〗:Lv6
〖魔力制御〗:Lv5
〖思考加速〗:Lv3
〖暗視〗 :Lv6
〖隠密〗 :Lv6
〖回避〗 :Lv9
〖瞬動〗 :Lv6
〖跳躍〗 :Lv3
〖調理〗 :Lv5
〖調合〗 :Lv3
〖開錠〗 :Lv2
<耐性スキル>:
〖物理耐性〗:Lv4
〖魔法耐性〗:Lv1
〖毒耐性〗 :Lv6
〖麻痺耐性〗:Lv3
〖幻覚耐性〗:Lv3
〖恐怖耐性〗:Lv5
〖混乱耐性〗:Lv2
〖呪い耐性〗:Lv1
<称号> :〖不可能への挑戦者〗
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(まあ順調と言えば順調なんだよな。【赤獅子盗賊団】との戦いで職業レベルも1つ上がったし、各スキルのレベルも少しずつ上がっていってるし)
目標とするリリヴィアには遠く及ばないものの、強くなっていることには変わりない。
(アルタに着いた後は職業レベルのレベル上げを最優先だな。薬草採取や魔境探索なんかの依頼があれば受けよう)
ちなみに職業レベルを上げるためには、その職業に関連する修行を積む必要がある。
【剣士】であれば剣術の鍛錬、【魔法使い】であれば魔法を学ぶといった感じである。
それでは【斥候】の場合はというと、索敵や探索などだ。
【斥候】は情報収集が本領であるため、レベルを上げるには敵の居場所を確認する偵察だったり、あるいは地形の調査といった情報収集に関する訓練を積むことでレベルが上がっていく。
戦いの経験を積むことでもレベルが上がることはあるが、これは彼の場合は戦闘技術の向上がレベルアップにつながったというよりも、〖気配察知〗や〖危険察知〗といった情報収集に関連するスキルの熟練度が上がることがレベルアップにつながっているのだ。
今もアルフレッドは定期的に〖気配察知〗スキルを使用して安全確認を行っているわけだが、これも多少は【斥候】の修行になる。
(使える手札を増やしてレベルを上げて……それでもリリに勝つには足りないんだよなあ……俺のレベルの成長限界は〖Lv50〗でリリは〖Lv100〗。現時点のレベルも俺は〖Lv28〗で、リリは既に上限の〖Lv100〗。俺が上限の〖Lv50〗まで上げたとしてもリリには敵わないから、どうにかして限界突破するしかないんだよな……)
リリヴィアに勝つということがどれだけ難しいのか、それを考えてアルフレッドはため息をつく。
成長限界を超える限界突破は実例が極めて少なく、はっきりとした条件が分かっていない。
そのため、まずはどうすれば限界突破できるのかを調べなければならない。
(まあでも、だからって諦めるのは違うよな。俺のレベルが上限に達するのはまだまだ先の話だし、限界突破については頭の片隅に置いておくくらいでいいか)
考えを整理するとアルフレッドは気持ちを入れ替え、改めて〖ヒール〗の練習を再開するのだった。
——カルネル領の領主館にて———————————————————
「情報提供、感謝するよ。メノア殿。例の騒動のこともあって領兵の巡回を増やしているから、もし【赤獅子盗賊団】がこちらに来ればすぐ分かると思うが、念のため兵士たちに周知しておこう」
「お聞き届けくださりありがとうございます。カルネル男爵。先ほども言った通り【赤獅子盗賊団】はこちらとは反対の国境の方へと逃げていきましたから、おそらく大丈夫と思いますが、そうして何日か警戒していただければ万一のことがあっても大惨事にはならないと思いますので」
開拓村を出発して数時間後、アルフレッド達はカルネル領に来て領主のカルネル男爵に会っていた。
主にメノアとカルネル男爵が話しており、アルフレッドとリリヴィアはメノアの後ろに控えている。
元々の予定では開拓村から戻る際にはカルネル領を素通りすることになっており、わざわざ領主に会うこともなかったのだが、今回は敢えて予定を変更したのだ。
理由は付き合いのあるカルネル男爵に【赤獅子盗賊団】の件を報告しておくことと、それからもう一つ———
「ところで、その例の騒動についてその後は……」
———【不死教団】の調査状況に関してもついでに聞きたかったからである。
「まあ、まだ何とも言えないかな。まず隣領にあるという拠点の調査について、そこの領主のモミー子爵に手紙を送って調査の許可を取ろうとしてみたのだが、彼からの返事は『他領の兵隊をいきなり入れるのは少々問題があるから、まずは自分の方で調べさせてほしい』ということだった」
「なるほど」
「まあ、この返事についてはそこまでおかしいというわけでもないよ。向こうとしては余所の兵隊に好き勝手されたくはないだろうし、最初に自分の方で調査してしっかりと事態を把握したうえで領主としての方針を決めたい、ということなんだろう」
隣領の領主の返事について自らの考えを述べるカルネル男爵。
調査に待ったをかけられたわけだが、あくまで一時的なものに過ぎないというのが彼の見解だ。
「承知いたしました。一先ずは隣の領主様の対応待ちということですね」
「そういうことだね。それから国への報告については早馬で使いを出したよ。報告が届くのはもう少し後になるだろうから、国の対応もそれからになるね」
国が調査に動き出せば、隣領の領主もその調査に協力をせざるを得ない。
そのこともカルネル男爵が落ち着いていられる理由だ。
「こちらで出来ることは全てやり終えて、後は国や隣領の動きを見守るという感じですね。迅速な対応さすがですわ。教えていただいたおかげで少し安心いたしました」
「そう言ってくれると私も気が楽になるよ」
「それでは失礼いたします。本日はお時間を割いていただきありがとうございました」
状況を確認したメノア達はカルネル男爵に礼を言ってカルネル領を後にした。
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物語世界の小ネタ:
スキルのレベルについて、レベルアップのスピードはかなり個人差があります。
全く同じスキルでも、10回発動してレベルアップする人もいれば100回発動してやっとレベルアップする人もいる、という具合です。
また同じ人でもどれだけ集中しているかで得られる熟練度が異なります。
片手間に100回発動しても、全く集中していないならレベルは上がりません。
逆にものすごく集中していたなら、1回発動しただけでレベルアップすることもあります。
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