第4話 リリヴィアの実力

 リッチを倒した2人は、すぐに外に出て辺りを見回した。


 「オオォー!」


 すると100mほど離れたところで体長10メートル程度のドラゴンゾンビが咆哮を上げており、街はパニックになっていた。


 「本当にドラゴンゾンビがいる……リッチの次はフレイムドラゴンのゾンビかよ……」

 「なにビビってるの。余裕よ。こんなやつ」


 アルフレッドはいい加減にしてくれ、と言わんばかりにげんなりとした表情を浮かべるが、リリヴィアの方は余裕綽綽といった感じでその光景を眺めていた。


 フレイムドラゴンとは火竜の一種であり、口から炎のブレスを吐き、空を飛び回るかなり厄介な魔物である。

 脅威度はBランク(数十人~数百人規模の部隊と同程度の強さ)とされ、討伐するためには熟練の冒険者を数十人集めるか、国の騎士団を動かすくらいのことが必要となる。

 ゾンビ化したことで知能は低下しているはずだが、身体能力はむしろ上がっていると思われ、地方の一都市に過ぎないこの街が何の準備もなくいきなりドラゴンゾンビと戦えるかどうかは微妙なところだ。

 仮に対応を誤れば多くの犠牲を出してしまうのは確実である。


 「このままじゃあ、死人が出るな。リリ、悪いがあのドラゴンも倒してくれ。俺が引き付ける」

 「任せなさい! 1発で仕留めてやるわ」


 街の状況を見た2人はすぐさまドラゴンゾンビの討伐を開始した。


 「〖衝撃波〗! こっちだデカブツ!!」

 「グルゥ……」


 アルフレッドはドラゴンゾンビの頭にめがけて斬撃を飛ばす剣術スキル〖衝撃波〗を放った後、大声で叫んだ。

 〖衝撃波〗は直撃してもダメージを与えることはできなかったが、気を引くことはできたらしい。

 ドラゴンゾンビはアルフレッドに対して攻撃をしようとした。


 「神聖魔法〖ホーリーレイ〗」

 「ガッ!?」


 だがドラゴンゾンビが攻撃するより早くリリヴィアの放った魔法攻撃がドラゴンゾンビを撃ち抜き、宣言通り1撃で仕留めた。


 「本当にBランクモンスターを1撃で仕留めるとは……相変わらず非常識な奴だな」


 アルフレッドは半分呆れながらリリヴィアに話しかけた。

 リリヴィアはとにかく強い。

 魔物の脅威度に当てはめるとAランク(数千~数万規模の軍勢と同程度の強さ)相当はあるだろう。

 彼女1人で軍隊並みの強さを誇っており、本来なら大勢で戦わねばならないはずのBランクのドラゴンすら1撃で屠るほどである。

 そんな彼女を見て、彼は憧れと、少しの嫉妬を感じていた。


 「当り前じゃない。私達ならこのくらいできて当然よ。それより魔鼠退治がどうしてアンデッドの討伐になったのか、その辺り詳しく教えてよ」

 「ああ、そうだな。まずギルドに報告しなきゃいけないから、一緒に行こうぜ。歩きながら話すよ」


 アルフレッドはリリヴィアにこれまでの経緯を説明しながら、魔王退治について考えていた。

 無理やり連れだされたことには文句があるし、自分が魔王との戦いに参戦して果たして生き残れるかという問題もある。

 だがそういった不満や不安以上にリリヴィアの活躍を近くで見ていたいという気持ちや、自分も負けたくないという対抗心がある。

 こうした気持ちはこれまでもずっと感じていたが、リリヴィアの戦いを間近で見たことでその気持ちが抑えられなくなっていた。


 「リリ、魔王退治の件なんだが、やっぱり俺も行くよ」

 「ふふふ、アルなら絶対そういうと信じてたわ。……よーし。今すぐ出発よ!」

 「いや待て、ギルド行かないとダメだろ。それに1回村に戻って準備を整えてだな……」


 はやるリリヴィアを抑えながら、アルフレッドはギルドに向かって歩いていた。


——ギルドにて—————————————————————————


 2人はギルド長と対面して魔鼠退治から始まった一連の経緯を説明していた。

 説明が終わるとギルド長のエルガーは多少戸惑いを見せながらも2人を労った。


 「話は分かった。正直信じられない気持ちがあるが、実際に起きている以上は疑いようがない。とにかく、リッチやドラゴンゾンビをよく倒してくれた。おかげで死人が出ずに済んだよ。2人には報酬と、それから昇格を約束しよう。報酬については受付に準備するように言ってあるから、帰りに受け取っていってくれ。昇格の方は事件の調査が落ち着いてからになるので、3日くらいしたらまた来てくれ」

 「「ありがとうございます。それでは失礼します」」


 2人はそう言って立ち上がり、部屋から退出した。


 (しかし、Fランクの駆け出しがリッチやドラゴンゾンビを倒すとは……一体何者だ? おかげで助かったし、感謝もしているが、調べておいた方がいいかもしれんな)


 エルガーは秘書を呼ぶとアルフレッドとリリヴィアについての情報を集めるように指示したのであった。


——ギルドからの帰り道—————————————————————


 報酬を受け取った2人は上機嫌で歩いていた。

 報酬金額はそれぞれ1000セントずつであり、これは都市部の一般市民が1カ月間働いて稼ぐ金額に相当する。

 田舎の村で育った二人にとってはかなり大きな収入だった。


 「死ぬかと思ったけど、結果的には大儲けだな」

 「そうね。これで魔王退治の旅費には困らないわね」

 「……言っとくけど、すぐに出発するわけじゃないからな。3日後にまた来るように言われたし、1回村に戻って準備したいし」

 「全くしょうがないわね。私はとっくに準備万端なのに」

 「俺はお前に無理やり連れてこられたんだから、仕方ないだろ」


 溜息をつくリリヴィアに突っ込みながら、街の様子を見ると、まだまだ騒然としていた。ドラゴンゾンビ自体は早い段階で討伐したのだが、後処理がまだ残っているらしい。

 街がいつもの調子に戻るのはもう少し時間かかりそうである。


 「そういえば気になっていたんだが、俺がリッチに追い詰められたとき、下水道に来たよな。お前はあの時どうしてタイミングよく来れたんだ?」


 アルフレッドが下水道の通路を逃げ回っていた時、リッチは外から周り込んでアルフレッドの退路を断った。

 その際にリリヴィアはリッチの後ろから来ていたわけだが、都合良く気付いて助けに来るなどということがあり得るのかが気になっていた。


 「ああ。それは私が〖気配察知〗スキルでアルの様子を探っていたからよ。アルのことだから遅かれ早かれ私と一緒に魔王退治に行くと言い出すと思っていたけど、できるだけ早くしたいから、タイミングを見計らっていたの。リッチの件は予想外だったけど、おかげであのタイミングで駆けつけることが出来たってわけ」

 「俺のこと見張ってたの!? …いやそれはもういいけど、なんでそんなに魔王退治行きたいんだよ?」


 実はずっと見張られていたことを知りショックを受けたアルフレッドだが、過ぎたことなので問い詰めても仕方がない。

 一先ず魔王退治の動機を確認することにした。


 「それは、私が【勇者】で異世界転生した【転生者】だからよ。【勇者】は【魔王】を倒す。そして【転生者】は異世界で無双する。これは常識でしょ。おあつらえ向きの【魔王】が現れたんだから、これはもう倒しに行くしかないでしょ!」

 「いやいや、訳が分からん。……お前の<ジョブ>は確かに【勇者】だけど、それが何で【魔王】を倒すんだよ。あとお前が【転生者】だっていうのは昔聞いたけど、【転生者】が無双するのは別に決まりでもなんでもないだろ。そんな常識知らねえよ……」


 リリヴィアは、転生前は日本人の高校生であり、生粋のゲーマーであった。

 RPGを含むあらゆるジャンルのゲームをプレイし、完全制覇していた。

 またオンラインの対戦ゲームでは世界大会に出場するほどの腕であり、一度ゲームにのめり込むと周りが見えなくなり、徹夜することもあった。


 そんな彼女が事故で死んで、ゲームのような世界に転生してきたのである。

前世の記憶はそのまま受け継いでおり、生まれた際に得た<ジョブ>は【勇者】だった。

 ちなみにチート能力もしっかり持っている。


 それは成長チートともいうべきものであり、彼女は常人の数十倍ものスピードで強くなっていくのだ。


 (異世界転生だー!!)


 転生に気付いたとき、彼女のテンションは最高潮で、前世でクリアしてきたゲームと同様にこの世界を制覇する(=ゲーム同様に遊び尽くすこと)が彼女の目標となった。


 なお、【勇者】や【転生者】についてはアルフレッドには伝えている。

 アルフレッドはリリヴィアの中では既に勇者パーティーのメンバーに入っているのだ。


 一方のアルフレッドは【勇者】や【転生者】について概要を聞いていても、思考や価値観はこの世界のそれであるため、何度説明されても今一つ理解しきれないのであった。

 彼の中では、必ずしも【勇者】と【魔王】とが戦うことになっていたり、【転生者】が無双したりするものではないのだ。


 しかし、それはそれ。

 ともかく、こうして2人は魔王退治に旅立つことが決まったのだった。




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 物語世界の小ネタ:


 この世界の通貨単位は「セント」です。

 また通貨には金貨、銀貨、銅貨が使われています。

 金額のイメージは以下のような感じです。


 1セント  =      100円くらい

 銅貨1枚  =         1セント

 銀貨1枚  =        10セント

 小金貨1枚 =       100セント

 大金貨1枚 =     1,000セント

 白金貨1枚 = 1,000,000セント

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