第35話 【不死教団】街道での襲撃

——カルネル領のとある街道にて—————————————————


 夕食会の翌日、アルフレッド達は馬車で次の目的地を目指していた。

 カルネル領での行商は既に終えているので、次は南西にある開拓村と呼ばれるところに向かうらしい。


 ちなみに捕らえた盗賊5人組については、カルネル男爵の方から騎士団へと引き渡してもらうことになった。

 アルフレッド達に対してはカルネル男爵から報奨金として50セントが支払われ、彼らが持っていた武器・防具もまた戦利品として渡された。


 土が踏み固められてできた道の上をアルフレッド達が乗った馬車がゆっくりと進んでいる。


 「まだゾンビ騒動が解決していないのに……」


 馬車の上で、リリヴィアは面白くなさそうに呟いた。

 彼女は、自分達もゾンビとの戦いに参戦するつもりで対アンデッド用のアイテム等を準備していたので、何もせずに別の場所に移動するのが不服なのである。

 その様子を見てアルフレッドが苦笑しながらリリヴィアを宥める。


 「しょうがないだろ。元々そういう予定なんだから。ゾンビに関しては男爵家の人達が解決してくれるさ」

 「それがつまらないんじゃない! 目の前でゾンビの発生なんて事件が起こったのに、私達はほとんど何もせずに次に行っちゃうことになったのよ。肩透かしもいいところだわ。大体、こういうのはザコを倒して油断したところでまたゾンビの大群が襲ってくるっていうのが相場なのに」

 「どんな相場だよ。それ……まあ、それなら大丈夫だろ。昨日話を聞いた限りじゃリッチを倒しても全然油断していないみたいだし」

 「くっ、まだ次のイベント進行フラグが立っていないっていうの……」


 残念無念といった表情を浮かべるリリヴィアに若干呆れつつもアルフレッドは言葉を続ける。


 「実際、昨日の夜や今朝の出発前に村の周囲を〖気配察知〗スキルで調べてみたけど、アンデッドの気配なんてなかっただろ。だから終わりっていうわけじゃないけど、ここに残ったとしてもすぐに何か進展があるとは思えないぞ」

 「まあ、それは分かるけど……」

 「それより、ゾンビ騒動の犯人が余所に移動した可能性とかを考えた方がいいんじゃないか?」

 「あ……」


 カルネル男爵達は昨日の調査でリッチを発見して討伐している。

 リリヴィアはゾンビ騒動を引き起こした黒幕が別にいると考えているが、仮にその通りだったとしても、調査で発見できなかったということは別の場所に移動した可能性が高いということである。

 無論昨日だけでは領内全てを見回ることはできていないため、未確認の場所に隠れていることなども考えられるが、これから向かう先に出てくる可能性もあり得るのである。


 「つまり、これから行く村がゾンビに襲われると! よし、それならOK! やる気が出てきたわ」

 「いや、別にそういう可能性があるかもってだけなんだが……」

 「とりあえず、予定通り南西の開拓村に行って様子を見てみましょうよ。そして開拓村で商売をしたらまたカルネル領に戻ることにすれば、その時に調査の進捗状況も聞けるはずよ」


 リリヴィアが新たな展開を思い浮かべて元気を取り戻し、アルフレッドがそこまで言っていないだろとリリヴィアを抑えて、2人のやりとりを聞いていたメノアが口を挟む。

 その時、周囲に黒っぽい霧が立ち込めた。


 「リリ、結界を頼む。この霧、魔法だ!」

 「分かってる! 神聖魔法〖神壁結界〗、ついでに光輝魔法〖イクスシャス〗」


 立ち込める霧には魔力が込められており、アルフレッドは魔法によって発生させられたものだと判断し、〖気配察知〗、〖魔力探知〗といった察知系スキルを発動させて周囲を探る。

 リリヴィアも同様に判断して周囲に〖神壁結界〗による障壁を張り巡らし、それと同時に一時的に状態異常を無効化する魔法の〖イクスシャス〗を味方全員に付与する。

 

 「えっ!? 何?」


 メノアは状況についていけず困惑しているが、とりあえずただ事ではないことを察して馬車を止めた。


 「メノアさん、敵襲です。この霧は魔法で発生させたもので、状況から考えて何者かが俺たちを襲うために発動させたものだと思います。今は下手に動かずじっとしていてください」

 「敵襲!?」

 「ええ。霧のせいで分かりづらいですが、左からアンデッド系の魔物が数体来ています」

 「とりあえず、霧を吹き飛ばすわよ。風翠魔法〖トルネード〗」


 リリヴィアによって作り出された竜巻が周囲の霧を払い視界が広がると、アルフレッドが言った通り左の林の中から鎧を着た骸骨の魔物が6体ほど迫ってきていた。


 「うわっ! 本当だわ……悪いけど2人ともよろしく」


 メノアもここでようやく状況を理解して平静を取り戻すのだった。


——街道の側の林の中にて————————————————————


 「ふむ。〖ドラウズフォッグ〗で眠らせることが出来れば簡単だったのだが、そうはいかんか。ワイズからの情報の通り優秀だな」


 アルフレッド達の馬車から100mほど離れた林の中で、【不死教団】の幹部であるグノムがそう呟く。


 彼こそがカルネル領でゾンビ騒動を引き起こしていた犯人である。

 彼の計画には相応の魔力を持った人間を生贄とする必要があり、その生贄を確保するために今回の騒動を引き起こしたのだった。


 元々はカルネル男爵を狙っていたのだが、教団と繋がっている悪徳商人ワイズからの薦めで標的をリリヴィアに変更し、彼女達が街道を移動中に襲撃を実行したのであった。


 グノムが最初に発動した暗黒魔法〖ドラウズフォッグ〗は一定の範囲に睡眠作用のある霧を発生させる魔法である。

 黒い霧という見た目であるため、今回のように効果が出る前に気付かれることも多いのだが、気付かれても目晦ましとして使えるため意外と有用であったりする。

 グノムも〖ドラウズフォッグ〗だけであっさり片付くとは思っていなかったので、魔法の発動と共に6体のスケルトン・ナイトを突撃させていた。


 「馬車の周囲に張り巡らせた障壁は光系統の魔法ですな。それも上位スキルです。〖ドラウズフォッグ〗の対処といい、いささか厄介な獲物ですな」


 グノムの横に控えている全身鎧の大男が感想を漏らす。

 鎧を着こんでいるため外見からは分からないが、彼も人間ではなくアンデッドである。

 大男もまた【不死教団】の一員であり、グノムの部下として行動を共にしていた。


 「ふむ。だがそれでこそ我らが計画の生贄にふさわしいというもの。見よ。スケルトン・ナイト達が次々と屠られていく。一応あれでもDランクの上位。そこいらの兵士よりは強いのだがな」


 彼らが眺める先では6体のスケルトン・ナイト達を相手にリリヴィアが無双している。

 ちなみにグノム達は自分たちの姿や気配を隠す結界を張っているため、アルフレッド達から見つかる恐れはない。


 「仰る通りです」

 「さて、そろそろ行くか。予定通り私がリリヴィアの相手をする。ガストンよ、お前は他の2人を殺せ」

 「承知致しました」


 2体のアンデッドは歩き出した。


——再び街道にて————————————————————————


 「正直どうなることかと焦ったけど、問題なかったわね」

 「ええ。リリは本気で強いですからね」


 倒れて動かなくなったスケルトン・ナイト達を見ながら馬車の御者台でほっとした様子のメノアと未だ周囲を警戒しているアルフレッドが話し合う。

 霧を払ったときにはすぐそこまで迫ってきていたスケルトン・ナイトだったが———


 「私が出るわね。アルはメノアさんの護衛をよろしく」


 ———と言って出撃したリリヴィアによって、あっという間に全滅させられたのだった。


 「さてと、スケルトン・ナイトの素材回収といきますか」


 リリヴィアは上機嫌で動かなくなった6体のスケルトン・ナイトを回収し始める。

 絵面的には死体漁りをしているみたいでアレだが、こういった場合の魔物の素材はそれを倒した者の取り分となるので、別に悪いことをしているわけではない。


 スケルトン・ナイトが身に着けている鎧や剣は使えそうであればギルドや商人に売ることが出来るし、使えそうになくても鍛冶屋に持って行けば鋳潰して地金にするための素材として買い取ってもらえたりするので、冒険者にとってはいい小遣い稼ぎになるのだ。


 スケルトン・ナイト本体についてはカルネル領のゾンビ騒動に関連すると思われるので、カルネル男爵に報告する必要がある。

 報告自体は口頭だけでも行うことはできるが、手ぶらで報告するよりも証拠となるものを持って行った方が良いのだ。


 そんなわけでリリヴィアは亜空間を作り出して無機物を収納するスキル〖ディメンション〗を使い、6体のスケルトン・ナイトを回収する。

 ちなみに彼女は、表向き空間魔法は使えないことにしているので、素体を袋に入れるふりをすることも忘れない。


 その様子を見ながらメノアとアルフレッドが話を続けている。


 「とりあえず、敵はこれで全部かしら?」

 「そうだと思います。いまも〖気配察知〗で探っていますが———」


 ガキン!


 アルフレッドは突然、すぐ後ろからアンデッドの気配を感じて直感で敵だと判断、振り向きざまに剣を振った。

 そしてその剣は敵によって弾かれた。


 「ふ、気付かれたか」


 そこには全身鎧を着こんだ大男がいた。

 

 (ここまで近づかれて気付かなかった……)

 「アル!」


 丁度素材の回収を終えて馬車に戻ろうとしたリリヴィアが異変に気付き、慌てて駆け寄ろうとするが、そこにローブを着込んだアンデッドが立ちはだかる。


 「貴女の相手は私だ」

 「なっ!?」


 アンデッドは手に持った宝玉をかざすと、空間に一瞬で魔法陣が展開され、次の瞬間リリヴィアとアンデッドの姿が消えてしまった。


 「リリ! くっ!」


 リリヴィアの姿が消えたことに動揺したアルフレッドに今度は大男が切りかかり、アルフレッドは咄嗟に馬車から飛び降りて間一髪で躱す。


 (くそ、落ち着け! リリはたぶん転移かなにかで移動させられただけだ。まずは目の前のこいつを倒す!)


 アルフレッドは苦虫を嚙み潰したような表情で剣を振って大男が近づかないように牽制し、メノアを背に隠すように立つ。

 この時点で既にメノアも大男もアルフレッドを追って馬車から降りていた。

 ちなみに馬車の周囲にリリヴィアが張っていた障壁はスケルトン・ナイト達を倒した時点で解除してしまっていた。

 油断していたというほかない。


 「仲間の心配などする必要はないぞ。お前達もこのガストンによって殺されるのだからな。」

 「アル、どうする?」


 メノアが心配そうに聞く。


 「まずはこいつを倒して、どうするかはその後考えましょう!」


 まずはここを乗り越えてからだとアルフレッドは思考を切り替え、改めて敵と対峙するのだった。




————————————————————————————————


 物語世界の小ネタ:


 光系統や闇系統の魔法スキルは以下のように派生します。

 下位のスキルがLv10になると一つ上のスキルが派生します。


 光系統の魔法には回復やバフ系のスキルが多く存在し、闇系統にはデバフ系のスキルが多く存在します。

 ちなみに死霊術は闇系統とはまた別の独立した系統の魔法に分類されます。


  光魔法 → 光輝魔法 → 神聖魔法

  闇魔法 → 暗黒魔法 → 深淵魔法

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