第30話 怪しい旅人
「とにかく、盗賊をどうするか決めなきゃね……」
アルフレッド、リリヴィア、メノアの3人は捕らえた盗賊の扱いについて相談を始めた。
「まず基本的な確認だけど、襲ってきたのは本当に盗賊だったのかしら?」
「一応、見た目は典型的な盗賊でしたよ。ひげ伸び放題で体はまともに洗ってないみたいだったし、服もボロボロで剣も手入れされてないっぽい。ただし、魅了された状態で長時間操られていただけの善良な一般人という可能性もあるので、絶対に盗賊だとは言い切れません。また俺達を襲ったことについても責めることはできないと思います」
「盗賊なら殺しても文句は言われないし、このまま放置して森の魔物に喰い殺されたとしても自業自得だと言ってしまえるのだけど、一般人かもしれないならそれは避けるべきよね」
メノアはアルフレッドの答えを聞いて考え込む。
この世界では盗賊は魔物と同じ扱いをされる。
もちろん可能であれば捕らえて町の衛兵などに突き出すのが理想的である。
そうすればいくらかの報奨金が出て、その盗賊も法律に則って処罰されることになる。
だが現実問題として盗賊を町まで護送することは意外と危険が大きい。
なにせ盗賊に襲われる商人やその護衛達は衛兵ではないため、必ずしも捕縛や監視の技能を持つとは限らないからだ。
町まで護送している途中で、盗賊に逃げられることもあれば不意を突かれて殺されてしまう場合もある。
その危険を考慮すると、この場で盗賊を殺害したり、死ぬと分かっていて放置したりすることも選択肢に出てくるし、世間的にも必要悪として容認されるのだ。
だが今回は必ずしも盗賊とは限らないため、そのように扱うべきかどうか微妙なところだ。
「馬車の荷物を詰めれば5人くらいはギリギリ載せられそうね。それに地図で見た限り次の村までもうすぐだし」
「そうね。リリの言う通り、私も運ぶだけなら問題ないと思うわ。村まで1時間くらいだし、一応縄もあるから縛ることもできるし。 ……問題は運んでいる間にその5人が暴れ出さないか、という点よ。そこさえ問題なければ村まで馬車に乗せていってもいいと言えるのだけど、出来そう?」
「それなら出来るわ。私、睡眠薬を持っているから」
「「持ってるんだ……」」
リリヴィアが〖ディメンション〗で睡眠薬の入った容器を取り出す。
彼女はカルア婆さんから薬の調合を学んで以降、様々な薬品を調合しているのだ。
……そして多くの場合、アルフレッドが実験台になるのだが。
「用意がいいのね…… そういうことなら村まで乗せていきましょう」
「その薬、本当に問題ないんだろうな? 飲んだらそのまま永遠に目覚めなくなったりしないよな?」
「失礼ね。大丈夫に決まってるでしょ。私が作ったんだから! ……用量さえ間違えなければ」
「……やっぱりか。お前が作ったからこそ心配なんだよ。昨日一口だけ飲んだ【スーパーブラック】もあれ以来全然眠れないし」
「それは一口の量が多すぎたのよ。きっと」
「……とりあえず、襲ってきた5人組を運び込みましょう」
「そうですね。俺が運んできますんで2人はそこで待っていてください」
「あ、移動を始める前に軽く尋問してみましょうよ。魅了状態は私の魔法で解除できるし、盗賊か一般人かくらいは分かるんじゃない」
「そうだな。じゃあ1人ずつ連れてくるから頼むわ」
アルフレッドは5人組と戦ったところに行き、いまだ気を失っている男達の中から1人を担いで戻る。
アルフレッドが戻って担いできた男を降ろすと縄でその男を縛り、それを待っていたリリヴィアが回復魔法で男の魅了状態を解除、さらに睡眠薬とは別の薬品を男に飲ませる。
「リリ、いま何を飲ませたんだ?」
「私特製の自白剤【ゲロ―ル】よ。飲むと意識が曖昧になって聞かれたことに正直に喋るようになるわ」
「やべえもん作ったな……」
「本当に用意がいいのね……」
男は魔法で魅了を解除された時点で気が付いたが、【ゲロ―ル】を飲まされたことで目の焦点が合わなくなった。
「とにかく、尋問を始めるわよ。まず、あなたの名前は?」
「……ガルバ・カマセイン」
【ゲロ―ル】が効いているらしい。
ガルバは特に抵抗する様子もなく、虚ろな目つきで答える。
「あなたは盗賊かしら」
「……そうだ」
ガルバは盗賊で間違いないらしい。
「最近の行動を覚えている限り言ってみて」
ガルバはリリヴィアの言葉に従い、最近の行動を語り出す。
話の内容を要約すると彼らは元々ここから少し離れた町を拠点にしていた盗賊であり、町で目を付けた行商人や旅人を人目につかない街道で襲って金品を強奪していた。
しかし数日前に悪事が露見して捕まりそうになったため町から逃げ出してここに来たのだという。
ここに逃げ込んだのが2日前であり、その直後にここを通りがかった旅人を襲撃しようとしたところで記憶が途切れていた。
これ以上情報が得られないとみるとリリヴィアはガルバに睡眠薬を飲ませて馬車に詰め込む。
その後残りの4人についても順番に連れてきては同様に尋問を行うが、概ね同じような内容であり、いずれも2日前に通りがかった旅人を襲撃しようとした辺りで記憶が途切れていたのだった。
ちなみに2日前の時点では橋は落ちておらず、ハーピーも見かけなかったらしい。
「状況から言って、2日前に通った旅人が魅了をかけた犯人で間違いなさそうね」
盗賊全員に睡眠薬を飲ませて馬車に詰め込むとリリヴィアが呟くように言う。
「そいつの目的は何だったんだろうな。魅了をかけられるのなら、殺したり捕まえて衛兵に突き出すこともできただろうに」
「分からないけど、この道を通行止めにしたかったんじゃない? 2日前の時点じゃ橋はまだ落ちていなかったみたいだし。それにハーピーの巣もなかったみたいだし。その旅人がこの盗賊達みたいに追われる身だったなら、あり得なくもないのかしら? メノアさんはどう思う?」
「私も分からないわよ。 ……少なくとも私の知る限りじゃそんな話は聞いたことないし」
「仮にそうだったとしたら、橋を落とした犯人もその旅人なんじゃないか? ハーピーは偶然だったとしても、そんなタイミング良く橋が落ちることなんてまずないだろ」
「そうかもしれないわね。この先も警戒した方が良さそうね」
ただの盗賊をこの街道に配置することにそれほど多くの意味があるとは考えられない。
考えられるのはリリヴィアの言う通り、この街道を通る者を襲わせて通行を妨害するくらいである。
仮に犯人がこの街道を通行止めにしたかったのだとすれば、この先も同様の襲撃を警戒しなければならないため、3人は顔をしかめるのだった。
「とりあえず、出発しましょう。アル、リリ、悪いけど周囲の警戒と盗賊の監視をお願い。 ……本当に、何でこんな目に遭うのかしら」
「まあ、そんなこともありますよ。俺達だって街中でリッチに遭遇したり、レイドクエストで最大想定の2倍以上の数のオークに追い掛け回されたりしましたから」
「そうそう。世の中そんなものよ。気にすることないわ」
「そういうものかしら。まあ、確かに気にしていても仕方ないわね」
普通の人間であればどれも死活問題であり、気にしないわけにはいかない異常事態なのだが、3人にとっては世の中そういうものらしい。
唯一気にしていたメノアも気を取り直して馬車を動かし始める。
アルフレッドが前方を警戒し、リリヴィアが馬車の中の5人を監視しつつ、馬車は進み続ける。
「カルネル領に着いたら、商売の前に領主様に報告しないといけないわね」
「メノアさん、カルネル領の領主は知り合いなの?」
「一応何回か商談をしたことがあるわ。領主のカルネル男爵様は印象としてはしっかりしていて、かつ誠実そうな感じね。この盗賊達を突き出して報告すれば、何かしら対応してもらえると思うわ」
「なるほど。だったら是非とも味方になってもらいたいですね」
そんなことを言いながら進み続けると、やがて視界の奥に村が見え始めた。
そしてそれと同時にアルフレッドの〖気配察知〗スキルにも反応が出ていた。
前を見ていたアルフレッドはゆっくりと顔を動かして、メノアの方を向いて報告する。
「メノアさん、ご報告します。あそこの村で戦いが起きているみたいです」
「……え?」
視界にも村から黒煙が上がっているのが映っており、遠目に人々が戦っているのが見えた。
「……本当だわ……」
メノアは今日4度目となるトラブルに、疲れ切った様子で呟いたのだった。
……ちなみに現在時刻はまだ昼前だったりする。
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物語世界の小ネタ:
魔物や冒険者にランクがあるように、盗賊などの犯罪者にも実は賞金首ランクというものがあったりします。
賞金首ランクごとの世間の評価について
Fランク : 軽犯罪者。詐欺師など。
Eランク : 犯罪者。強盗、無名の盗賊など。 ※ガルバはここ
Dランク : 普通の指名手配犯。ちょっとした盗賊団の首領など。
Cランク : 大規模な盗賊団の首領クラス。
Bランク : 大物賞金首。国全体に名が知られているレベルの犯罪者。
Aランク : 超大物賞金首。国への反乱や王族・皇族の暗殺を企てた大逆罪クラス。
Sランク : 世界的な大物賞金首。
F、Eランクは取るに足らない小物。
Dランクはそこそこ危険な犯罪者。
Cランク以上で国の騎士団や賞金狙いの冒険者等が積極的に狙いだすレベル。
Bランクはかなりの大物で捕まえるとちょっとした英雄扱いされるレベル。
Aランクになると、国が本格的に動き出すレベル。
Sランクは複数の国々が協力して捕縛・討伐に乗り出すレベル。
さすがにAランクやSランクはそうそういませんが、Cランク以下はけっこういます。
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