自分の観測していない事象を自分にとって不都合な事実に書き換えられてしまうという嫌がらせ

@bookofo

第1話「筆木シズカ-1」

「俺の名前は筆木静荷、高校2年生。シズカだけど男だ。

不出来のシズカで覚えてくれ。

不出来・・・だなんてことを自分で言うのは悲しいが、否定できない事実であることは間違いない。

はっきり言って俺は人として無能が過ぎる。

勉強をさせればテストで赤点は当たり前、0点の経験もあるレベルだし、

運動をさせれば中学の球技大会のサッカーでオウンゴールかましてクラスの戦犯だ。

当然、忘れ物とか落とし物とかのやらかしも多い。

丁度今、通学定期券と5万円の入った財布で失ってるところ。

あ、これは俺の両親には内緒な。

初犯じゃないから、バレたら絶対ヤバいわ。無駄に5万も入れてたのも絶対突っつかれる。

でもしゃあねえだろ。お金が入ってないと不安になるんだよ。

いや~マジで辛いわ。定期無いから切符買う度俺の財産が削られてくのが辛すぎる。

まあ、幸い警察に届け出たら見つかったとの連絡が昨日来たんで、

行けるときに取りに行って親にバレることなく完全犯罪を成立させたい。

見つかったのは本当に嬉しい、5万は最悪パクられてて良いから定期と財布だけは頼むわ。

でも、落とし物の受取時間が平日の9時から17時ってクソすぎるよな。

俺って授業中に平気で寝るクソゴミだけど、さすがに授業サボるほどの不良ではねえから

なかなか取りにいけんじゃん。

土曜の午前だけでもいいからやってくれよ。クソだるいわ・・・

まあ1ヵ月後ぐらいに定期テストがあって、

その時は午前に帰れるからそのタイミングで行くしか無いか。

はあ・・・本当に行き辛い人生を送っとるよな俺は。」


俺しかいない部屋の中で誰かに語り掛けるように俺は話す。

閉鎖されている空間の中で一人でいるとよくやってしまう癖だ。

周囲に誰かを召喚されることもあるから、かなり恥ずいから治したいとは思ってるが・・・


「しかも、俺の場合あることが原因で余計に生き辛いんだわ。

そのあることっていうのは・・・」


「シズカ!朝ごはん!早くしないと学校に遅れるわよ!」


おっと母親に呼ばれた。朝は忙しすぎて気分が沈むわ・・・



俺は自分の部屋がある2階から1階のリビングに降りて椅子に座る。

机に俺と両親が向かい合う。

両親とは目を合わせたくないので俺はいつも通りテレビに目線を向ける。

すると、ワイドショーに写るいつもの面子が嫌いすぎて画面をかち割りたくなるのもいつも通りだ。

いやアイツらに罪は全くねえんだけど、

俺にとってアイツらはすっかり朝の憂鬱の象徴になってしまっている。

あとアイツら有名人って成功者な訳じゃん?それに対する妬みとかもある。

俺はそんなどうしようもない感情を無理やり消化するためにゴクゴク牛乳を流し込む。

そしてふと冷静になって、母親に事務報告をしておく。


「今日、ちょっと遅くなるわ。」


「ん?ああ、今日もあのタレントさんが出演してるわね。すっかり売れっ子ね。」


は?????????????????????????

コイツ日本語通じとんのか?


これは多分話聞いてなくて、聞き返しもせずテキトーに返しやがったな・・・

俺もよくやるからな、でかコイツから遺伝してるんだろうな・・・

コイツと話してると俺の劣ってる部分のルーツを感じ取ってしって嫌になるから、

極力話したくねえわ。

『一般的劣っているからってお前母親に攻撃的すぎね?』って思う人もいるかもしれんけど、

コイツはそれだけじゃねえから。

お前さ、人がせっかく他所の大人に


「シズカ君はおおらかで優しくて、ウチの息子にも見習ってほしいわ。」


とか珍しく褒められてるっていうのにさ。


「いや、何も考えてないだけですよ。」


とかぬかしやがって!!!

どういう考えをもってこんな発言したか知らんし知りたくねえけどさ、

たとえ冗談だったとしても我が子を貶めるような発言をする人間はガチで無理だわ。


「まあ、こないだもCMで見たしな。今があの人にとって稼ぎ時だろ。

ところで今日、俺遅くなるわ。あの、文化祭の準備をクラスでやらないといけないから。」


「あら、そうなの。」


とりあえず言うべきことだけは伝えておいて、

俺はそれ以降は話しかけんなと言わんばかりに目玉焼きに手を伸ばす。

その瞬間、


「おいシズカ!肘ついて食うのやめろ!行儀が悪い!」


父親の怒号が響いた。


は!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?

いや意味が分からねえんだが?

肘をついて食事をすることが悪いことだと?


いやいやいや、ちょっと待てって!!!

いや別に開き直ってるわけじゃねえぞ!!!

俺は確かに性格悪いけど、

自分の不手際で誰か罪の無い人を傷つけてしまったときはちゃんと謝罪して罪を償うわ。

俺は虐げられて来た立場だからな、そういうことは絶対に許せねえ。

だから俺は盗みも殺しもレイプもせずに生きてきたし、

お前みたいに怒鳴り声すらも極力あげないことを信条にしてきたわけで、

これからもそれは絶対に守っていきたいと思ってるわ!!

でもさお前、俺が肘ついて飯食ったことによって

誰かが財産を失ったのかよ?誰かが怪我をしたのかよ?誰かが望まぬ子種を孕んでしまったのかよ?

そりゃクチャラーで音がキショク悪いとかなら分かるけど、

肘つきで不快とか完全に趣好の話になってきて馬鹿すぎるだろ!

本当にしょーもないわ。嫌なら一人で食っとけよ。てか、俺が一人で気楽に食いたい。孤食万歳!!!


「分かった・・・」


まあ俺は引き下がるしかねえんだけどな・・・

父親が何か俺の行動にいちゃもんをつけたらその地点で詰み。何をやっても無駄。

なぜなら父親は世界より遣わされた妖怪ルーティン潰しだから。父親の発言は全体であり正義。

俺はさっきあることが原因で生き辛いって言ったけど、それは


『自分の観測していない事象を自分にとって不都合な事実に書き換えられてしまう

という嫌がらせを世界から受けていること』


なんだわ。

例えば今の場合だと、元々世界には肘つきながら飯食うのは行儀悪いなんて事実は無くて、

でも俺が今肘をついて食べていたから、世界はこれをチャンスだととらえて

これは行儀の悪い行いだと社会の常識を書き換えて、父親に通知させたんだわ。

今この瞬間インターネットでは『肘つき食事はマナー違反』という記事が大量に

過去から存在していた体で出現していることだろうな。

俺が初めてルーティン潰しを食らって、

ネットに救いを求めて裏切られて時の絶望は今でも忘れられん。

俺への精神攻撃としてはお見事としか言いようが無い。


一体どうしてなんで俺がこんな嫌がらせのターゲットにされてしまったのかというと、

それは俺が無能だからなんだろうな・・・

どういうことかというとこの嫌がらせには対策法があるんだわ。

それは森羅万象を観測すること。

今のだったら肘つきながら飯食うのは行儀悪くないという事実を観測、

つまり知ってさえおけばこれは防げたことなんだわ。

有能は知識を広げることによって未観測事象を減らしていくことが出来るからな。

でも俺は怠惰なアホだからそんなことをめんどくさがってやらない。

ここまで言えば世界は俺と有能とどちらに労力をさけば、

より利益を得ることができるかは明白だろ。


この嫌がらせは家だけでなく学校でもあるから辛いわ・・・

俺教科書とか学校で使うものは洗濯の必要のある体操着以外は全部ロッカーに置き勉してんだよ。

忘れ物をしないよう、宿題を犠牲にしてな。

なのに昨日、ロッカーにあるはずだった教科書が消失していて俺は先生に怒られましたとさ。

油断したわ・・・ちゃんと内容が全部揃っているかを観測しないとこういうことが起こりゆるんだよ。

世界が『俺が他のクラスの奴に貸してたのを忘れていた』とかいう辻褄合わせを後付けして

俺を嘲笑ってきたのがマジで腹立つわ・・・


はあ・・・どうせ俺は今日も嫌がらせを受けまくるんだろうな。

朝っぱらから死にてえわ・・・

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