第48話「笹岡チカコ-7」
「チカちゃんはこの部に入部してくれるの?」
「まだ考え中だな。」
「私としては入部してほしいなあ。毎日放課後ここで私と駄弁ろうよ。楽しいからさ。
この部活は1年の男子が1人、3年の男子が2人、1年の女子が2人、2年の女子が2人、3年の女子が私1人でさ、
まあ厳密にはまだ他にも何人か部員がいるんだけど、毎日部室に来るのはこのメンバーで固定されてるから、
やっぱ同い年の女の子が欲しいんだよね。」
「は、はあ・・・」
「強制はしないけどね、オタクのノリが強い雰囲気ではあるし。それでこの部を避ける人も多いし。」
「そうなのか!?和やかな雰囲気で楽しそうだとは思うが。」
「そう言ってくれると嬉しいよ。私のこの部活は大好きだし。」
クルミは屈託のない笑顔を見せた。こんな風に笑えるのは羨ましい。
グゥ~
「あっ、すまん・・・」
お腹の音が鳴ってしまった。
この頃の本来食べ盛りの年頃である私は常に空腹に悩まされていた。
家ではカップラーメンしか食べさせてもらえないし、昼食代は200円しかもらえないから
ロクの物を食えたもんじゃない。
何度でも思うがよくこれで身長を伸ばせたものだ。
「チカちゃんお腹すいてるなら、ここのテーブルのお菓子も遠慮しないで食べればいいのに。
さっきから一口も食べてないじゃない。
もしかしてお金とられると思ってる?大丈夫だよ、タダで食べ放題だし。」
「そうなのか・・・でもなんか悪いな・・・」
「別に悪いことなんて何一つないよ。私達だけで食べてたら太っちゃうしね。
逆にチカちゃんは細すぎて折れちゃいそうだからもっと食べないと駄目だね。
だから食べてもいいんだよ。」
「じゃあ・・・いただきます・・・」
私はポテトチップスに手を伸ばす。
パクッ
私は手が止まらなくなってしまった。
「良い食べっぷりだね~」
「おっとごめんなさい、調子に乗って食べすぎですよね・・・」
「別に嫌味とかじゃないって、どんどん食べちゃってよ。
そうやって美味しそうに食べてくれたら、私としても嬉しいよ。
そのポテチは私が買ってきたからね。チカちゃんはポテチが好きなのかい?」
「いや、こういうスナック菓子は今まで食べたことすらなかったな。」
「食べたことなかったんだ!それはなかなか珍しいね。」
そもそもお菓子は堅田の家で出されたクッキーやケーキを数えるぐらいしか食べたことがないからな。
私の人生での食事はその大半がカップラーメンで占められている。そんなことは言うまいが。
「まあな、でも今日食べてみてこれは好きになりそうだ。」
「おお!気に入ってくれたら何よりだよ。まだまだお菓子は沢山用意してるから、何度でも言うけど好きなだけ食べてね。」
「ありがとう、クルミ」
「どういたしまして、それにしてもこのアニメ面白いね。
知名度あるのは知ってたけど、なかなか自分からは見ようとは思わなかったからさ。
今日チカちゃんが見ようって言ってくれて良かったよ。ありがとう」
「たまたまここにDVDが置いてあったおかげだ。私の手柄じゃない。」
「それじゃあ、ワタシの手柄ということでよろしいか?この円盤を購入し、部室に置いたのはワタシだからな。」
「おお・・・スウェインさん・・・驚いた・・・」
ティムが予期せず会話に割り込んでしまったので、私は少しピクッとなってしまった。
「ちょっとティム!今私達女の子2人同士で会話してるんだから入ってこないでよ!チカちゃんも驚いちゃったじゃない!」
「おっと、これは失礼。申し訳ない、Ms Sasaoka。驚かせるつもりはなかったんだ。
2人がすっかり仲良くなったのが羨ましくてな。ワタシも輪に入れてほしかったんだ。
ワタシだってMs Sasaokaにタメ口で話してもらいたいし、お互いに下の名前で呼び合いたい。」
「そう思うんだったら、ちょっとはその必死さを抑えたほうがいいと思う。
正直ティムって馬鹿でかくて怖いから迫られると慣れてないとビビっちゃうよ。
距離感が近すぎるんだよ。」
「そうか・・・怖いか・・・難しいものだな・・・」
クルミに手痛い指摘を食らったティムはその場に居づらそうに苦笑いを浮かべた。
「まあまあ・・・、私は今はスウェインさんのことは怖いと思ってませんよ。
さっきのはいきなり人が現れたら誰であろうと驚くでしょう・・・
ほら、スウェインさんも座って一緒にお菓子食べましょうよ。」
「良いのか?」
「私だけでもお菓子は食べきれませんからね。」
私がティムをフォローする形となった。こんな事を言うなんてやっぱり私の中でティムの存在はますます強くなってるな。
「おー!良かったじゃんティム。チカちゃんのティムに対する印象はそこまで悪くないみたいだね。
これはありがたく思いなよ。」
「オマエに言われなくとも分かってる。
そう言えばオマエ達飲み物はいいのか?ポテトチップスは塩分が多くて喉が渇くだろう。」
「そういえばそうだね。ティム持ってきてよ。」
「部長をパシるな。まあ別に構わないが。コーラで良いか?いや、何種類か持ってくるか。」
「気が利くねえ!サンキュー!!!
「スウェインさん、ありがとうございます。」
「ハハハ、気にするな。Ms Sasaokaはここでの時間を楽しんでくれ。」
それから下校の時間になるまで、私はクルミやティム、他の部員達とアニメを見て雑談しながらお菓子を食べて過ごした。
「今日はここまでだな。」
「滅茶苦茶キリの悪いところで終わっちゃったね。」
「クルミの言う通り続きが気になる場面でブツ切りだったな。仕方ないことではあるが。」
「ねえチカちゃん明日も一緒に見ようよ~!!!絶対に入部してよ~!!!」
「おおっ・・・」
クルミが私に抱き着いてきた。
「入部してくれるよね???チカちゃん!!!」
断る余地などないと言わんばかりにクルミは目を合わせてきた。
「う~ん・・・・・・・・・」
「おいKurumi、Ms Sasaokaに強要するのは辞めろ。
尊重するべきは彼女の意思だ。仮に彼女が入部を拒否したとしてもワタシ達はそれを否定してはいけない。
ほら、彼女も困ってるじゃないか・・・
全くオマエというやつは・・・
さっきワタシに彼女への必死さを抑えろだの、距離が近すぎるだの言ってきたのはなんだったんだ。」
「は~い、ごめんねチカちゃん。チカちゃんは芸能人並みのルックスだからさ、ちょっとはしゃぎすぎちゃった。
でもティムがそんなこと言ってくるなんてちょっと意外、絶対にチカちゃんに入部してほしいものだと思ってた。」
「もちろん、入部してくれたら嬉しい。
だが、今日1日だけでも見学に参加してくれたことだけでも十二分じゃないか。
ワタシはMs Sasaokaに感謝しているよ。」
「スウェインさん・・・」
「Ms Sasaoka今日は楽しかったか?」
「はい。お菓子もご馳走になりましたし、あのアニメも気に入りました。
今後は好きなアニメをきかれたらあのアニメを答えることにします。」
その問いに私は頷いた。人との関わりを避けてはいたが、それが楽しく感じたことに嘘はつけなかった。
「なら、それで良い。あのアニメを気に入ってくれたのも実に嬉しい。
もしアナタがこの部に入らないとしても、DVDは貸し出そうじゃないか。
あれは是非とも最後まで楽しんでほしい。」
「いや、ウチはDVDは見れないので。」
「それはどういう意味だ?家にテレビがないのか?」
「そんなところです。」
「そうか・・・」
その場がちょっと微妙な雰囲気になってしまい、少し話しづらくなってしまったが、私は言葉を続けた。
「だから、この文芸部に入部します。」
私は一歩を踏み出した。
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