第49話「笹岡チカコ-8」


「What's!?それは誠か?」


「はい、よろしくお願いいたします。」


私は頭をペコリと下げた。

まあ他の部活を探すのもハードルが高いし、正直よほどのことが起こらない限りは入部するしか選択肢はないと思っていた。


「本当に良いのか?それはしっかりと考えて出した結論か?ワタシとこれから毎日部室で過ごすということだぞ!」


「良いってことですよ。それとも私が入部するのは嫌なんですか?」


「そんなことは断じてないッ!!!

そう言ってくれるのなら歓迎するに決まってるじゃないか、Ms Sasaoka!!!

いや、本当にありがとう。明日からもっと楽しくなるぞ!!!」


ティムは笑顔になった。それを見て私の心も少し暖かくなったような気がした。


「やったー!!!滅茶苦茶嬉しいよ!チカちゃん!!!うふふ~!」


クルミが抱きついてきた。そのまま何も言わずに私の体に顔を埋めてくる。


「笹岡先輩でしたよね。これからよろしくお願いします。」


後輩達も丁寧に挨拶してくれた。


「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします。新入りですので私の方がお世話になることも多いと思います。」


私もその態度に丁寧に返す。


「おー!笹岡さん入部してくれるんだ。やったなティム!!!」


「ああ、Kyosuke。だがこれはゴールではない。やっとワタシはスタートラインに立てたのだ。

これからまだまだ頑張らなくてはならん。」


「あ、笹岡さん。これ入部届なんで、明日までに必要事項を書いてきてね。」


「どうも、副部長さんもよろしくお願い致します。」


「普通にタメ口で関野って呼び捨てにして良いよ。

俺は敬われてそんな肩書で呼ばれるほど大それた人間じゃないし。

この部はティムのワンマンで俺はただそこにいるだけだからな。」


「じゃあ、・・よろしく関野。」


「おう、よろしく!

後言っとくと、これからこの部にいればティムが笹岡さんにナンパしてくるだけのクソウザい男じゃないって分かると思う。

ティムはあんなでも能力の高い人間で、良い奴だから一緒にいて損することは無いぜ。

それは一応ティムの友達として言っておきたい。」


「そうなのか・・・」


「まあ、好みもあると思うけどね。

アイツと話してるといちいちアニメとか漫画とかの真似してイキったポーズを決めてくるのが、マジでウザイし。」


「それは痛いほど分かるな・・・」


「だよなw」


「おいKyosuke!珍しくワタシを褒めて援護射撃してくれたと思ったのに、ワタシの悪口を吹き込むんじゃない!!!」


「げっ!盗み聞きしてたな。この中二病野郎め!」


「なんだと!?この最高にcoolなポーズを馬鹿にしてくるとは許せん奴だ!!!」


「ティムももう中三なんだから中二はいい加減卒業しなよ~!」


「Kurumiまで乗っかってくるんじゃない!!!全く・・・

部室はもう閉めるから、オマエ達は部屋から出てくれ。」


「分かりました。」


私は扉の方向へ視線を向ける。


「あっスウェインさん、ところで扉のそば置いてあるあの機械って何なんですか?」


すると目に入ってきた光景でこの部屋に入った時に聞き損ねた疑問を思い出したので問いかける。


「あれは、防犯ゲートだ。スーパーとかにもあるだろ。

商品を万引きした人間がここを通るとブザーが鳴るという代物だ。」


私は当時スーパーはおろか何かしらの店というものに行ったことがなかったので、

そんな便利なものがあるとは知らなかった。

わざわざそれをその場では言わなかったが。


「はあ・・・でもなんでそんなものがこの部室にあるんですか?」


「ワタシが入学する前にこの部室に置いてあるコレクションを盗んで売っていた愚か者がいたと

先輩方から聞かされたことがあってな。

その対策の為にワタシが持ってきた。一応防犯カメラも常時作動させている。」


ティムは天井を指差した。


「おお・・・気づきませんでした。随分本格的な設備ですね・・・」


「もちろん、今いるメンバーにそんな人間がいるとは思っていないが、まあ念のためだ。

ちなみにさっきも言った通り貸し出しは禁止していないから、

もしアナタが漫画とかを家に持って帰って読みたいと思ったのなら、

ワタシに言ってくれさえすればシステムで許可を出しておくので問題ない。」


「はあ・・・それはすごいですね・・・」


「ティムの奴、マジでヤバいだろwwwちなみにこの機械はティムが買ったらしいけど笹岡さんはいくらするか知ってる?」


「う~ん・・・見当もつかないな・・・」


「確か50何万とか言ってたよね、関野。」


「50万!?!?!?」


私はクルミが言った値段に思わず大きな声を上げてしまった。


「俺も最初笹岡さんと同じ反応をしたよ。ティムの家はクソ金持ちらしい。

夏になればティムの別荘に俺らも連れて行ってもらえるから、楽しみにしといてよ。」


「は、はあ・・・」


その事実に私は驚いた。そんな人物が私に今まで迫ってきていたのか。



それから、私は文芸部の一員としてティムや他の部員達と楽しい放課後を過ごした。

基本は部員が漫画や小説を読んだりゲームをしたりと好きなことをして各々気ままに過ごすだけだが、

時折部員全員でゲーム大会をして盛り上がることもあった。

部員達との距離も日に日に縮まっていった。それはもちろんティムも例外でない。

入部してからもティムに対してはタメ口切り替えるタイミングを見失ってしまっていたので従来通り敬語で話していた。

しかし、ある出来事をきっかけにタメ口で話すようになったのだ。

それは入部して1週間ちょっとの出来事だった。

ティムが机に向かって熱心に何かを書いていたので、それが何かを聞いてみたのだ。


「なあ、それは何を書いているんだ。」


言い終わった瞬間に私は間違いに気づいた。ティムにタメ口で話しかけてしまった。

この時点でもう完全に私はティムに心を許してしまっていることに気が付いた。


「ああ、これか?この部は一応文芸部な訳だから部誌を作っているところだ。

今はその部誌に掲載する小説を書いているところだ。

ジャンルは能力者同士のバトルアクションだ。完成したらMs Sasaokaや他の部員たちにも読んでもらうぞ。」


ティムは特に気にすることなく質問に答えた。だが、私は焦って訂正する。


「あ、いや間違えました。『何を書いているんですか』でした。すみませんでした。」


「別に謝ることはないだろう。とうとうタメ口で話しかけてくれるようになったのかと嬉しく思ったぞ。

いい夢を見れたことに感謝したい。」


「タメ口で話しかけられたいですか?」


「まあな。敬語では距離を感じる。」


「じゃあこれからはタメ口で話す。

正直関野とクルミの同学年の部員にはタメ口なのにスウェインには敬語なのは、

なんか私が虐めてるみたいで申し訳なかった。本当にすまん。

というかそもそも、同学年なのに敬語を使ってたのがおかしかったんだけど、

別にそれはスウェインが嫌いだからそうしてたという訳じゃなくて、

昔私が友達との間にトラブルがあって、それがトラウマになってるから

他人との関わりが怖くて、避けようとしてただけなんだ。

でも今はやっぱり誰かと友達になりたいと思ってる。ティムに対してももちろんそう思っている。

だから失望して見捨てないでくれよ。」


これをいい機会だとして私は思っていたことを吐き出した。


「見捨てるわけないだろう。こうやってアナタがワタシに本心を打ち明けてくれたことが何よりも嬉しい。

是非とも友達になろうじゃないか!!!よろしくな!」


ティムは笑顔で右手を差し出した。私はそれに応じて握手する。

文芸部に入部してから他人の笑顔を見る回数が増えたが私はティムの笑顔が一番だと感じた。

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